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プロろーぎゅ

4/1

作者: Noisy

 この学校では、始業式等の準備のため、いくつかの部活動や生徒会に所属している生徒は新年度の始め、4月1日に登校する。


「ん」

「どうかした?」


 少年が横から覗き込むと、少女は自分のげた箱からスリッパを出して横にずれた。

 その少女の手には、一通の手紙が。


「……手紙」

「誰から?」


 裏に返すと、そこには几帳面そうな字が書いてあった。


「僕は知らない人間だ。」


 そう言って靴をげた箱にしまい、少年と少女は共に教室へ向かう。

 並んで歩く二人の背格好はとても似ていて、少年は男にしては長めの髪を無造作に括っていて、少女は肩まである髪をおろしている。その違いと制服以外、区別できるものはなかった。


 * * *


午前中は会場の準備などをし、午後も仕事のある者たちは昼休み。


 任された仕事の都合上ジャージに着替えている少年と少女は二人、立ち入り禁止の屋上で昼食を共にするのが日課だった。


「手紙、何だって?」


 少年はコンビニで購入したミカン・オレ片手に少女に問う。


「3時に屋上。それ、おいしいの?」


 少女は簡潔に答える。


「おいしいけど3時って……今日午後まで仕事ある奴なのか?」

「みたいだね」


 少女は鞄から手紙を取り出し、読み返す。


「おれっち午後暇なんだよねー」

「僕は用事ある。

──遅くなるかも。」


「じゃ、いっちょやりますか」


 少年は、にこりと笑う。

 この笑顔に惹かれて告白した女子も数人いたが、すべて実らず、彼に対して軽いトラウマを抱えることとなった。


「やる?」


 少年の言葉に、少女は笑みを返した。




 暫く雑談をした後、少女は鞄を持って立ち上がった。


「仕事が終わり次第、急いでくるから。

 時間があれば着替えてくるけど。」

「おれっちは先に着替えて待ってるよ」


 * * *


 指定の時間、制服姿の少女が屋上で暇を持て余していると、見知らぬ男子生徒がやってきた。


「呼んだのは、アンタ?」


 少女がそう問うと、男子生徒はすごい勢いで頷いた。


「用件は、なに?」


 このシチュエーションで他の用があるわけがないが、少女は一応確認してみた。


「好きです!」

「……?」

「一目見たとき、あなたの笑顔に惹かれました!

 よろしければ、自分と、交際して下さい!」


 少女は質問の返答に告白(?)してきた男子生徒に対し、怪訝そうな眼差しを向ける。

 こんな告白があるのか。と思っているのかもしれない。

 その表情は、単刀直入すぎておもしろくない。と思っていそうだ。


「おれっちに言ってる?」

「はい!」

「……他人(ひと)と間違えてない?」

「間違ってません!」


 男子生徒はきっぱりと言い切る。


「おれっちが誰か知ってて言ってる?」


 男子生徒は少女の名前を、半ば叫ぶように言った。


「……他は?」

「殆ど知りません!」


 男子生徒はきっぱりと言い放つ。


「……だよね。

 もし知ってたら逆に驚くよ。」


 男子生徒の勢いに圧され、少女は少し仰け反った。

 少女はこの男子生徒と同じクラスになったことは1度もなく、接点も思い当たらない。


「ねぇねぇ君、」


 少女に真剣な眼差しを向け続ける男子生徒の肩を、軽くたたく者がいた。

 男子生徒が反射的に振り向くと、そこにはジャージ姿の少年がいた。


「君、間違えてるよ?」

「え……?」


 男子生徒はその言葉に驚き、一瞬動きを止めた。


「手紙を出した相手は、その子じゃないでしょ?」


 男子生徒は制服姿の少女の方へ向き、その顔をじっと観察する。


「君がここに呼び出したのは、その子なの?」


 少年の問いに、男子生徒は答えない。

 何も言わず、ジャージ姿の少年と、制服姿の少女を見比べる。

 2人はもちろん瓜二つだった。


「──僕でしょ?」


 少年は笑って、後ろで髪を括っていた紐を解いた。

 その笑顔は、男子生徒が惹かれた少女のものだ。

 男子生徒は何も言えず、制服姿の方をみる。

 そちらには、ジャージ姿の方から紐を受け取って髪を括る少年がいた。

 少年は変声期もきておらず、2人は声もまた似ていた。


「……おれっち、なんにも正しいって言ってないから、アンタが勝手に勘違いしてただけだよ?」


 男子生徒は腰が抜けたようで、その場にヘたり込んでしまった。


「告白相手を間違えるなんて、とんだ災難だね。」


 ジャージ姿の少女はそう言うと、屋上の出入り口となる扉のドアノブに手をかけた。

 女子制服姿の少年は、あわてて鞄を拾い上げた。

 男子生徒が何かを言おうとする気配を感じながら、少女は扉の奥で半分だけ振り向いた。


「ちなみに「今日、4月(エイプリ)1日(ルフール)だよ。」」


 少年も言葉を被せ、少女の後を追った。


 1人残された男子生徒は、呆けた顔のまま暫く動き出さなかったという。


 * * *


「おもしろかったねー」

「ね。」

「おれっちの演技力みたか」

「あんまよくなかったー」


 着替えた少年と少女は、服を整えながら階段を下り、顔を見合わせて笑った。


「次はどんなにしようか?」

「ん~、でも、あの子このことバラさないよね?」

「バラされても平気っしょ。」

「……そうだね。」

「どうせアイツが言ったって信じないだろうし」

その後少年にはゲイの疑いがかけられましたとさ。

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