圭のクラスメイト
キーンコーンカーンコーン……
このチャイムを一人、屋上で聞いた者がいる。
少年は大きな欠伸とともに壁に寄りかかり目を瞑った。
少年の名前は神谷 圭。今年の四月から聖光学園の一年生としてこの学園に通っている。
圭がスヤスヤと寝息を立てていると、ドアの方から誰か近づいてくる気配がした。バレないように気配を消しているようだが、圭には十分過ぎるほど消し切れていなかった。
「なにコソコソしてるんだ?」
圭はドアの方向を見ずにいう。近づいてくる気配が一瞬ビクッ!としたが、そのあと当然だと言うほど落ち着いていた。
「あはは、気配を消してるつもりだったんだけどな…」
「っふ、まぁ俺じゃなかったら気付かなかったかもな」
屋上に入ってきたのは圭と背が同じくらいの少年だった。名前は麻間 帝。彼も今年から聖光学園に通っている。
「氷菓ちゃんが鬼のような顔で探してたから伝えとこうと思って」
「マジか……それは、投降した方がいいのか…」
帝は圭にも怖いものがあるんだねと笑いながら言ってきた。
そりゃ、あるだろ。俺の母親的な奴には毎日泣かされたくらいだ。今でも正直怖いわ。と心の中で昔の光景を思い浮かべていた。
「それじゃ、怒られに行きますか」
圭は立ち上がりドアに向かった。だが圭がドアノブに手をかける前にドアが突然、勢い良く開いた。
「ぐはっ!」
ドアに吹き飛ばされ圭は床を転る。
「痛ってぇ…」
鼻を抑えながら立ち上がろうとした。が、頭を踏みつけられ立ち上がることに失敗した。
「あれぇ?今立ち上がろうとした?もしそうなら頭が高いんじゃない?」
目だけを上に向けた。そこには、水色のパンツと笑っているが目が全然笑ってない氷菓の顔があった。
ドアを勢い良く開けたのは四条 氷菓だった。当然今、圭の頭を踏んでいるのも氷菓だ。
「私の友達に『神谷君って氷菓ちゃんの幼馴染なのにとっても素行が悪いね』って言われたんだよ!?どうなのこれ!何か私の評価まで下がったみたいじゃん!」
氷菓は圭の顔が床に埋まるくらい力を込めて踏みつけた。踏まれるのが好きな人種もいるが圭はそういう類の人種ではない。
「ま、まぁ落ち着いて氷菓ちゃん…」
「帝君は黙ってて!今、この史上最強のバカを教育してるの!」
「ごめんなさい!…」
帝が止めに入るが呆気なく返り討ちにあう。
「さっきから聞いてりゃ……その足どけろ水色パンツ」
「な!」
氷菓はスカートの裾を抑える仕草をする。
その行動で圭の頭から足が離れた。
圭はその隙を見逃さず立ち上がり、屋上の縁に飛び乗った。
「こら!待ちなさい!」
「やだよ……お前の説教は聞き飽きた」
そう言って圭は飛び降りる。
重力の異能でゆっくりと着地した。
上で氷菓が何かを叫んでいるが気にせず歩き出すことにした。
※
圭が氷菓から逃げた後どこに隠れようかと校内を探索していると、ちょうど階段を登り切った踊り場で上から駆け下りて来た少女とぶつかりそうになっる。
少女の髪は血のような色をしている。
避けようと思い体制を横にずらしたが少女も圭を避けようと同じ方向に体を傾けてしまった。当然ぶつかった。
「きゃ!」
少女はぶつかった反動で尻餅を着いてしまい、圭は片足を一歩下げる程度で済んだ。だが後ろが階段だってことをすっかり忘れていた圭は、そのまま転げ落ちた。
後頭部を抑えて悶絶しているところに…
「ご、ごめんなさい!」
少女は立ち上がって階段を下りて来た。
「すみません。本当にすみません!ごめんなさい!」
少女は頭を押さえて座っている圭の前に膝を着いて謝っている。
「いや、大丈夫だから。俺が階段を踏み外しただけだから。いやマジ本当に土下座とかやめてくださいお願いします。本当にすみません!やめてください!お願いします!」
敬語になった挙句謝り出す圭である。
「みんな見てるから!土下座やめて!顔を上げて!」
圭がそう言うと少女は顔を上げた。
「本当にすみません…」
少女は顔を上げると圭の顔を見て驚いていた。
「か、神谷君!」
「え!?な、なに?」
「あの、私の事しらない?」
「えーっと…」
圭は自分の記憶を辿った。
「(会ったことあるっけ?)」
圭がさっきとは違う意味で頭を押さえて考えていた。
そこに少女が話しかけた。
「あの…同じクラスの日野宮 焔です」
「(……………………しまった!同じクラスだったのか!)」
5秒程の沈黙の後目と口を大きくあけた。