新しい生活
春休みも終わり、季節も春になろうとしている。二人の少年と少女は桜並木を歩いていた。少女は、花の女子高生!、と気合を入れている。少女の名前は四条 氷菓。聖光学園中等部の時は生徒会長をやっていた程の実力者だ。
一方少年は前を歩く氷菓に、あくびをしながらついて行っている。少年の名前は神谷 圭。聖光学園入試合格者の一人。
今日は春休み終わってから始めての登校日だ。
「最初に説明しておくけど、聖光学園ではSクラス10人、Aクラス20人、Bクラス20人、Cクラス25人、Dクラス25人に分かれてるの」
氷菓が説明したようにほとんどのことがクラス分けで決まってしまう。
Sクラスの生徒はとても優遇される。寮は一人一部屋しかも広さは36畳もあり、家賃など様々なものが免除され、毎月10万円が支給される。しかもSクラス寮の食堂のメニューは高級料理ばかりなのだ。
逆にDクラスは5人一部屋で36畳、家賃などは免除されず、支給だって無い。食堂もタダではない。が高校生にはとても優しい値段になっている(高級ではないが)
「わかった?でも高校から入る生徒はほとんどB以下のクラスだから圭も良くてAクラスじゃないかな。いきなりSクラスなんて前例が無いし。あーあ圭と同じクラスになりたかったなぁ」
氷菓は残念そうに肩を落とした。
だが圭は立ち止まって氷菓に呼び止めた。
「おい、氷菓。最初は何だって前例が無いんだぜ」
そう言って歩き出し氷菓抜いて振り返った。
「一番付き合いの長いお前が俺の凄さを忘れたとかふざけんなよな」
「そうだね。圭は自慢の幼馴染だもんね」
「おう!それに……」
それにAクラスになったからと言ってSクラスになれない訳ではない。その方法は……
「Sクラスの5人を蹴散らしてザコと入れ替わればいいだけのことだろ」
方法は簡単。行きたいクラスの生徒を5人以上を決闘試合で倒せば行きたいクラスに上がる事ができる。そして、そのクラスの成績最下位の人と入れ替わる。
「それにしても、何でお前はSクラスって決まってるんだよ」
「元生徒会長はSクラス入りを約束されてるんだよ」
「へーそりゃ偉いもんだな」
「そうだよ。圭の自慢の幼馴染はとても偉いんだよ」
「別に自慢じゃねーし」
「えーなにそれぇ。本当は自慢なんでしょ?もぉ、照れなくていいのに」
「(うわ〜めんどくせぇ……)」
心底めんどくさいと思った圭であった。
「ねぇ、圭……Sクラスがどうしてこんなに優遇されてるか知ってる?」
さっきのふざけた態度とは裏腹にとても真剣な顔で話しかけて来た。
「……まぁな。それなりには知ってるよ」
「そっか。Sクラスになるの怖く無いの?」
「全然、むしろ好都合だぜ!魔族を殺す権利をもらえるんだからな!」
Sクラスが優遇されてる理由は、Sクラスのメンバーは死ぬ可能性があるからだ。
Sクラスは人間界に魔族が現れた時、真っ先に前線で戦わなければいけない決まりがある。そして、魔界遠征には必ずSクラスが行くことになっている。
魔界に行くということは強力な魔族との戦闘もあり得るということだ。
それにより、Sクラスはせめて生きてる間は幸せでいて欲しいなどの理由で優遇されている。
「圭は強いね……私は怖いよ。怖くて怖くてしょうがないよ。ダサいよね元生徒会長がこんなんじゃみんな失望しちゃうよね」
氷菓は今にも泣きそうな声で言った。体も震えていた。
「心配すんな」
しかし圭はそれでも嫌な顔せず氷菓の頭に手を置いて言う。
「お前は俺が命に代えても守ってやる。絶対にだ。約束する」
「……それなら、安心だね。圭が約束って言ったら絶対に守ってくれるもんね」
氷菓の顔には笑顔が戻っていた。
「それに、お前の実力は俺が保証するから自信を持っていいんだよ」
「うん。ありがと」
二人は桜並木を歩き出した。
※
そうこうしてるうちに学園についてしまった。
「いつ見てもすげぇなぁ。どんだけ広いか後で探検だな」
まるで子供が秘密基地を見つけた時のように目を輝かせていた。
独り言をつぶやいていると生徒が続々と登校して来た。
もうすぐ電光掲示板にクラス訳の結果が映し出される。
圭と氷菓は電光掲示板の近くに見知った顔がいたのに気付く。麻間 帝。もう一人の聖光学園入試合格者だ。
二人を帝に声をかけることにした。
「おはよう帝君」
先に声をかけたのは氷菓だった。
「あっ!おはよう氷菓ちゃん」
「よう帝」
次に圭が素っ気なくあいさつをした。
「圭も一緒だったんだ。おはよう」
「まぁな」
3人は入試試験の後それなりに仲良くなっているがまだそこまでに親しい訳ではない。
「氷菓ちゃんはもうSクラス決定なんだよね?」
「うん、そうだよ。二人もAクラスは決定だと思うよ」
「うーん、そうかな。そうだといいね」
帝はニッコリと笑った。
「馬鹿野郎。俺たちはSクラス決定だよ」
「えー!それはさすがにないでしょ」
帝は圭の言葉に全否定した。
それもそのはず。さっきも説明したようにSクラスに入れるのはたったの10人だけだ。
たとえ二人がどんなに実力者でもいきなりSクラスは無理がある。
「そんな弱気でどうすんだよ。ってかお前入試の時メチャクチャ強気だったじゃねぇかよ」
「あ、あの時は強い人と戦えて凄く楽しくて我を忘れてた感じで」
「俺と引き分けといて弱気になってんじゃねぇよ。胸を張れ。この俺と引き分けたんだ、これはもう自慢にしかなんねぇよ」
「君のその自信が羨ましいよ」
「お前と引き分けた俺が弱いみたいじゃねぇかよ」
「そんなことないよ。圭は強いよ」
そこに氷菓が割って入ってきた。
「それにそろそろクラスが発表されるよ」
時刻は8:59。
後1分を切っている。
そして。電光掲示板にクラス分けの結果が映し出された。
当然、氷菓はSクラスだった。
そして、圭と帝の二人はあり得ないクラスに名前があった。
その場にいる全員が言葉を失っていた。
〜S〜
1.青木 祐介
2.麻間 帝
3.石田 龍二
4.梅枝 胡桃
5.神谷 圭
6.古村 絵里
7.四条 氷菓
8.仙石 岳山
9.日野宮 焔
10.八雲 空丸
二人の名前はSクラスにあった。