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斬る!  作者: 皇 十夜
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誓う!

裏道で斬りかかってきた若侍・将忠は、和隆の歳の離れた実弟という事が判明!

香炎はその謝罪に、彼に何でも言うことを訊いて貰うという条件をだした。


逢えず、ストレスが溜まりつつあった二人は、遂に10日ぶりの逢瀬を果たす。

親子ほども(外見的に)年の離れた二人の恋の行方は……!?

「将忠か…」

知った気配けわいを感じて、自室兼執務室の机に向かっていた和隆は、ドアに凭れ掛かる雲隠れしていた部下を一瞥する。

「怒ってます? その様子だと…」

「分かっているなら訊くな」


将忠―――島津将忠は、和隆の歳の離れた実弟であった。

北軍の指揮官である兄の傍ら、参謀を務めている。


「どこに行っていた、酒臭い…このような事態に不謹慎だと思わぬか」

和隆を筆頭として統括される北軍は、駐屯地である北方地域を治めているのだが昨今、他軍に不穏な動きがあるので『草』に動向を探らせている最中なのだ。

いわゆる緊急配備、警戒態勢である。

そのせいで愛しの香炎にも逢えず、和隆はストレスを感じつつあった。

「まあ、そう怒らず。今日はいい人材ものを見つけましてね。北軍こちらに引き留められれば即戦力になる」

「またお主の『拾い癖』か」

弟の拾い癖は毎度のことなので、和隆も適当にあしらおうとした。

だが次の言葉に、和隆は将忠を思いきり睨み付けた。

「元気のいい牝鹿を見つけた。女侍ですよ……珍しいでしょう?」

「香炎!?」

「知ってたんですか…。兄上も気に入りますよ、絶対」

「よせ、その女侍には手を出すな…儂が許さぬ。無論、何もしてはおらぬな?」

「…小手調べに、と思って少しつついただけだ。何、怒ってるんですか」

「む…っ」

痛いところを突かれてそれきり押し黙ってしまった兄に、将忠は唐突に合点して妖笑を浮かべる。

(嫉妬してるのかな…?)

「明日の正午、香炎と約束がありましてね。良ければ兄上も一緒にどうです?」

一瞬、和隆の表情が驚愕のものに変わる。だがすぐに、深い溜息と共に始めと同じ顰め面になった。

「いや……悪いがお主一人で行ってくれ。まだ、こちらの手が離れぬのでな」

「左様で…」

(後で後悔しても遅いぞ…兄上。香炎は俺がもらう)


その興味本位が後にどんな波乱を招くかも考えず。香炎が兄の想い人だと言うことを知った将忠は、彼女を奪ってやろうと内心で目論見をした。



 早朝、いつも通りに香炎は庭の井戸から水を汲んでいた。

まだ夜も明けきらない、空が仄青く見えるこの時間帯が香炎は好きだった。

凍った大地を踏みしめる足裏で、霜柱が脆く砕ける音が少し小気味よい。

朝早くに現れる和隆に出す朝食を作るのが、一日の始まりだ。

しかし、最近はどういう訳かこない日が10日ほど続いていた。

だが、作るのをやめようとは思わない。

健気だ、などと思うのもおこがましいが…作り続けていれば、その内に和隆に逢える気がした。


「寒い……薪、もう少し足そうかな」

暖炉の前でいて水に紅く爛れた手を擦り合わせては、息を吹きかける。

冷えた手は、そう簡単には暖かくはならない。

彼が来てくれることだけを思って、香炎は強く拳を握りしめた。

と―――寒さに身を震わせた時、香炎は確かに戸口を叩く音を聞いた。

(もしかして…!)

戸口を叩く音に戸を開ける。然し、誰も来てはいなかった。

今までに、そんなことはたくさんあったのだ。

また風でも吹いたのだろうと諦め混じりに戸に触れた瞬間、待ちわびた声が耳朶を打つ。

「香炎、早朝に済まぬ……儂だ」

「和隆さま!? 待って、いま開けますからっ」

「ああ」

戸口を開くと、肩にうっすらと雪を積もらせた和隆が佇んでいた。


 「お入りくださいな、お茶、れて来ますね」

暖炉がある居間に和隆を案内した香炎は、台所へと踏み出した瞬間動けなくなった。

「香炎…」

背中を向けようとした香炎を、和隆が抱きすくめたのだ。

「あっ……和隆、さま」

香炎の柔肌の頬が、急速に赤みを帯びた。

触れ合ったことは幾度か合ったが、こんな風に抱かれるのは初めてのことだ。

気のせいなのか、どうなのか。和隆の鼓動も、早く感じる。

「どうしても、お主に逢いたくて出てきてしまった…」

「う、嬉しい…。ずっと、ずっとお逢いしたかったのですよ。いつも朝餉あさごはんを作って待っていたのに…。10日もいらっしゃらないんですもの…とても、寂しかった」

小刻みに震えて俯いてしまった香炎に、和隆は頬を緩める。

「儂とてこの10日間…辛かったぞ。お主に逢えぬのが苦痛で、出てきてしまうほどだ」

「和隆さま……あ、あの、薬缶ヤカンが…お湯が沸いてますわ。止めないと」

ころころと、薬缶が湯気を上げて沸騰している。

「いま暫し…」

「和隆さま。……んっ」

その向こうで二人は、10日ぶりの温もりと初めての接吻キスを交わしていた。


「愚弟が迷惑をかけたようだな……済まない」

「お気になさらずに……。やはり、弟御でしたのね。真っ直ぐな眼差しに『もしや』とは思いましたけれど」

(それ以外にも、たくさんあるけどね)

「今日、奴と会うそうだな…?」

辛そうに言う和隆に、香炎は満面の笑みを咲かせた。

「あたしがしとする方は…和隆さま只一人なのですからね? 心配要りませんよ」

和隆の膳を運んできた香炎が、傍に座る。

だが、和隆は浮かない顔。

「あら……。信じてくださいませんの?」

「ぁ…いや」

「眉間に皺が寄ってます」

無邪気に微笑みながら人差し指を押し当てる香炎に、和隆は照れながら小さく唸るように言った。

「……くれぐれも油断するでないぞ。奴は手が早い」

「心配性。もう…和隆様、こっち向いてくださいな」

和隆の目が爆ぜんばかりに見張られ、手にしていた箸がかしゃんと床に転がった。

「か、香炎!?」

そっと唇に触れた柔らかな熱に、和隆の心臓は一気にパンク寸前まで跳ね上がってしまった。

「これがその証…。信じてくださいますね?」

「あ、ああ…」

「よかった」


年甲斐もなくときめいてしまい、和隆は浅黒い顔を真っ赤にしたのだった。






こんにちは、銀流です。

『斬る!』5話のお届けにあがりました。

漸く逢うことができた和隆と香炎。

しかーし! またもや将忠が何かもくろんでいるようです。(いや、目論ませたのは自分だけど…)

さてさてどうなる?


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