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斬る!  作者: 皇 十夜
3/6

出逢う!弐

怨敵・香月を捜していた香炎は、暮れ時に鈴屋に来た侍・和隆と邂逅する。

和隆は香炎を見初めてしまい…?

「さて…」

小高い丘の上。一つの影が、微かな声で呟いた。

薄墨色の雲間から、月光がその足元を明々と照らす。

がりりと、靴裏が細かな砂利を踏む音がした。

闇の中から爪先が覗く。現れたのは一人の若侍だ。

月光に透ける色味の薄い髪を高く一つに結い、漆黒の着物を着流しにして、腰には見事な業物をいている。

ほっそりとした立ち姿が美しいこの若侍は、街を一望できるこの丘で時々休むのだ。

生暖かい夜風が、隠れていた月を押し出してひと思いに辺りを照らし出す。

月光に輪郭が浮かび上がり、侍の素顔が明らかとなった。

「何だ、今日は上弦だったか。読み違えたな…」

呟いた若侍は、香炎の顔。

―――否、若侍は香炎その人であった。

香炎は、毎晩捜しているのだ。

家族を―――香炎のみを除いて、一族を殲滅した自らの片割れを。

香月かづき…っ!」


双子の兄、香月は一族の中でも統率力・能力共に一目置かれる存在だった。

『だった』のだ。

模範的な兄を、香炎はとても誇らしく思っていた。


だが、惨劇はある日突然襲い掛かる。


「見つけて討ち果たすまで、死ぬわけにはゆかぬ…」

惨劇の日、同胞の血を浴びてわらっていた鬼を討ち果たすまで。

ぎりりと、噛み締められた香炎の唇が色をたいして白くなる。

「先客がおったとはな。…お主も月見か?」

覚えのある声に、香炎は覆面を引き上げて距離を取る。

「……!」

三歩ほど間の開いた先には、昼間鈴屋に来た侍・和隆が佇んでいた。

香炎の目が、一瞬だけ大きく張られる。

(和隆…さま? そうか、彼は軍部所属の侍。ふぅーん…)

「そう、警戒するな……敵意はない」

いつの間にか距離は縮まって、半歩ほどしかない。

目前に来た和隆は、昼間見た時とは違う褐色の軍服を纏っていた。

「儂は島津しまづ和隆かずたかと申す。お主は?」

「香炎……。杣崎そまざき香炎かえん

に、と笑った和隆を瞬時に察して、香炎は二歩、三歩飛び退く。

然し、察しのいい軍人にはしっかりと正体を見極められていた。

「香、炎? お主、昼間に鈴屋にいた女中か…」

「…っ」

殺気の篭もった冷たい風が、二人の間を吹き抜けていく。

「答えぬところを見ると、そうなのだな…」

「だったら、どうしたというのです…?」

鋭く見返す香炎の目に、和隆は僅かに息を詰めた。

「やはりな」

「…え?」

「お主の目は、どうも他の女の目とは違う…。もう一度逢いたいと思っていたところを、早それが叶うとは」

顎髭を撫でながら笑う和隆に、香炎は身構えたまま固まってしまった。

(あたしに逢いたい…と?)

「なぜ?」

「昼間お主に逢った時、同じものを感じたからだ。それは…抑えていても、解る者には解る」

(凄い……!! やはり、このひとは本物!)

香炎は覆面を下げると、素顔で和隆を見た。そしてひざまづく。

「…某、貴殿に弟子入りを志願したい」

和隆は小さく溜息をした。表情には、困惑と哀しみが綯い交ぜになっている。

「……顔を上げてくれ」

い」

かおをあげた香炎は、きりりと背筋を正して和隆を見上げた。

「儂は、弟子を取る気はない…。だが」

「え…」

「お主を見初めた」

香炎のその表情が、一瞬の内に落胆から驚愕のものに変わった。

「見初め…た?」

(それ、どういう意味?)

同志サムライとして?

それとも、女…として?

「昼にも言ったが、儂は…女子おなごの扱いが解らんのだ。その、な? まずは友になってはくれぬか?」

香炎は、和隆の顔をちらと盗み見る。

急にしどろもどろになった和隆の顔は、想像したとおりやはり赤面していた。

「友……ですか、あたしと」

「嫌か?」

内心で、和隆の言葉を反芻する。

意味合いとしては、どうやら後者のようだ。

「…こちらこそ、頼みますね」

暫しの沈黙の後、香炎は消え入りそうな声音で返事を返した。

こんにちは、銀流です。

おっさま侍・和隆と香炎(謎多し)の間に生じた、微妙な感情。

この先どうなるのか、生暖かく見守っていただけると幸いですね。

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