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コワイ

作者: 俺痣斑

「こわい」ってのは曖昧だ

現代人の恐いもの見たさというものは不思議なもので、それは現代人に限った話でもないのかも知れないが、かなりの臆病さを孕むものである。

そのことを端的に指し示す例として、分かりやすいのがジェットコースターである。

遊園地、テーマパークで馴染みある絶叫マシン。人々はその乗り物に身体的に振り回されることは許容するが、振り回され投げ飛ばされ、体ごと地面に叩きつけられることはその範囲外である。

遊園地といえばもう一つ。観覧車である。

高いところから眺める景色を楽しむためには、高いところまで上る必要があることは自明である。だが人々は観覧車に持ち上げられるとその事実を箱にしまい込み、どこかへ追いやってしまう。

高所からの落下に対して、人間の体は軟弱すぎる。

身体と精神は物理的に運命共同体であることは誰もが認める。そこに魂をも認めるとして、死とは覚めることのない魂の沈黙と直結するものである。

高い場所から落ちて死ねばもう何もできない。

体が壊れたのだから。

精神もぐちゃぐちゃなのだから。

魂はもう何も感じることさえできず、もう何もできないことさえ知り得ないのだから。

死ぬより恐ろしいことはない。

「しぬ、シヌ」で言いくるむことなどできない。

――永遠。

遠い星が寿命を迎えて、私たちの太陽すら失せて、一つまた一つ星が長い長い一生を終えて、あんなに明るかった宇宙も長い長い時間をかけて真っ暗になって、最後には――――。

「終わり、おわり、オワリ」という言葉も曖昧だ。

ジェットコースターは発進すると大抵はコースを一周してまた戻ってる。その次も同じで、その次の次も。

観覧車もゆっくりとだが乗客の主観では、乗り込んで、上がって、頂点まで行って、下がって、戻ってくる。

客にとってのジェットコースターの終わりや観覧車の終わりは存在するが、ジェットコースターと観覧車のそれ自体に終わりはない。

「終わり」など、観点が違えばあったり無かったりと、まるで騙し絵のようなものである。

「終わり」がそうであるのなら、「死ぬ」も同じではないだろうか。

ジェットコースターで体験しうる興奮も、観覧車からの景色に対する感動も、いわば「生きる」ことの意味そのものであり、「生きる」ことへの愚かしい執着の現れでもある。

どちらが正しいかは答えはなく、同時にそれは答えはあるということである。

なぜなら「正しい」も結局は曖昧なのだから。

人の性はそのどちらかを肯定的に、残った方を否定的に認めていくところにある。

その決定を左右するものは感性や価値観、感情や感動、人それぞれ異なり独特な何かである。

振り回されることには慣れているくせに、傷を付けられ血を見ることは嫌う現代人にとって、そのはけ口が俗世間から見れば歪んだ娯楽というものなのである。

猫が吐いた毛玉のように、ねばねばしてしっとりと固まり、にちゃにちゃとしているものが人気を博する娯楽なのである。

恐い物を扱う娯楽としては気持ち悪さを極めるのも、また一つの手であるが、真の意味で気持ち悪いのではなく娯楽として「気持ち悪い」に収まったものである。

ここにも臆病な恐い物見たさが見え隠れする。

それを逆手に取って商売すれば長者の夢も遠くはないかも知れない。

だが世界で一番の臆病者は――――臆病さを自覚しながらそれに向き合えない臆病さを自覚しながらそれに向き合えない臆病さを自覚しながらそれに向き合えない臆病さを自覚しながらそれに向き合えない臆病さを自覚しながらそれに向き合えない臆病さを自覚しながらそれに向き合えない――――臆病というよりも逃避の達人である。

そしていつの日か自分が逃げていることさえ、箱にしまい込みどこかへ追いやってしまうのである。

人間はそうやって生きている。

これをこわいと思えなくなる日が来るのがこわい

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