巨島都市アルカディア
「それで、霙お姉さん、"ここ"はどこなんだい?」
「うん、ここは"巨島都市アルカディア"。世界の最先端科学が集まっている都市よ。名前の通り巨大な島になってて、それ自体が国として成り立っているの」
「へー。西暦はどのくらいなの?」
大きさには興味ないと言うかのように次の質問に移った。
「現在の西暦は2016年よ」
(驚いたなぁ、僕のいた世界と2年しか変わらないや)
「へーっ、凄いんだね。僕そんなところにいるのかぁ、悪さできないや」
表情にこそ出さないものの、内心、万は驚きを隠せないでいた。
「そんなことしたら、この"フェアビーテン"が許さないわよ?」
「フェアビーテン?なんだい?それ」
「私が所属している組織よ。アルカディアの秩序を保つためのね」
「ふーん。秩序ねぇ」
万は顎に手を当てる。
どこの世界にも治安維持を守るための組織というものはあるみたいだ。
「そしてここが"監獄要塞インペリウム"。名前の通り監獄が要塞になったようなもの。さっきの五人組は監獄とはいかないまでも、刑罰はあるでしょうね」
「五人組?記憶にないなぁ。それよりも、僕に刑罰はあるのかい?」
万はさも全く知らないかのように振る舞った。
「あんた…、まあいいわ。いいえ、あなたは手を出さなかったでしょ?だから刑罰はないわ。このまま私が事情聴取して終わり。ここからは全くのプライベートの会話に移るけど、いい?」
彼女としては、やはり聞きたいことが山ほどあるようだ。
「構わないよ。さっきは僕から色々と質問したからね、今度は霙お姉さんからというわけだ」
「じゃあまず、あなたはどこから来たの?」
霙は一番聞きたいことを最初に質問した。
「んー、難しい質問だなぁ。霙お姉さんの話を聞いて色々と考えてみたけど、僕は過去から来たか、もしくは違う世界から来たか、その二つのどっちかなんだけど」
他人がそのまま聞いたら意味が分からないものの、霙が聞いてみれば納得できる部分があった。
「なるほど。確かに御神楽くんは目が覚めたら路地裏にいたわけだし、じゃああなたがいたところにはアルカディアがあったの?」
そこが重要になってくるのだろう、質問しないわけにはいかなかった。
「アルカディアのアの字もないよ。だいたい世界の最先端科学が集まるなら地球の裏側にいてもアルカディアの存在はわかるだろうし、それに僕がいた世界の西暦は2014年だよ?」
「そっか、確かにたった二年じゃここまで科学は発達のしようがないわけね」
「そうなんだよ。どう思う?霙お姉さん」
「これだと過去から来た、という事実はなさそうね。なら答えは一つ、別の世界から来た」
神妙な面持ちで霙は言った。
「そっか!それが分かれば他はどうでもいいや。それじゃ、僕の新しい生活の始まりだね!」
一方、万は明るい笑顔でそんなことを言った。
「え?!そんな程度の認識でいいの?もしかしたら帰れないかもしれないのよ?」
意外な万の反応に霙は驚愕した。
普通ならば帰る方法を探すのだろうが、万はあろうことか新しい生活を始める気でいるのだ。
「呆れた、御神楽くんは帰りたくないの?」
霙は当然の質問をした。
「そんなのどうだっていいよ。そんなことより、ここでの生活が楽しみで仕方ないんだ。早いとこ解放してよ?まずは家を探さなくちゃ」
霙はその言葉を聞いて絶句した。
「⋯⋯。わかったわ、もう何も聞かないことにします⋯。これ渡しておくわ、私の携帯番号とメールアドレスよ。それから、この部屋を出たらそのまま外に出ちゃっていいから」
そう言って霙はメモ用紙を渡した。
「わぁ!僕女の人からこういうのを教えてもらうの初めてだよ。じゃあまた縁があれば!」
万は振り向きながら言葉を返した。
そして万は外に出て、適当に足を運んだ。
ぐぅ~
しばらくして、万のお腹が何かを入れろと言わんばかりに音が出た。
(そろそろお腹空いちゃった。ここら辺で何か食べようかな。⋯、あれ?)
気付くと周りは女子学生で溢れ返っていた。
どうやら万は、いつの間にか女子学生が来るような場所に踏み込んでいたようだ。
ここは、アルカディアの中でも特に女子学生が集まることで有名なのだ。
(わー、見られてる、そんなに男子がいるのが珍しいのかなぁ。ていうかさっきまで普通だったのに何も考えないで歩くのはよくないな、うん)
万は元来た道を歩いて行った。