「非現実の世界」 1-2
「『特異体』はね、簡単に言うなら異世界人。異世界って言うよりパラレル世界」
パラレル世界…?何言ってんだ…?
「今時間が止まってるの、気付いてるんでしょ?これ、私の力。これを使うとこの世界の時間を止められるんだ」
時を止めるだと…?話が突飛過ぎて、理解はしていても納得いかねぇ。
「だから普通は全ての生命体…まあ私達は除くけどね。この世界の生命体は停止する。だけど『特異体』は停止しない。何故ならこの世界の人じゃないからね」
「じゃあ俺が動いてたから『特異体』と断定したのか…?」
やっとの思いで質問を投げかける。
「そ。この前もこの中で動ける人が居たらしいから不思議に思ったんだけど、今日ので確信したよ。キミ…『特異体』だよ」
…なんなんだよ一体。訳わかんねぇよ。じゃあ俺が生きてきたこの17年間はなんなんだよ。俺は生まれてからずっとこの世界の日本で生きてきたんだ。なのにいきなり人を異世界人ってよ…。
「そんな『特異体』をこの世界から抹殺するのが私達、キーパーの役割なんだ」
キーパー…『番人』か。さしずめ、平行世界の番人って所かな。
「なんで抹殺するんだ…?」
「存在自体は別に良いけど、そのままだとこの世界にイレギュラーが生じちゃうんだよねー」
イレギュラー…?何が起きるんだよ…。
「話が長くなっちゃった。冥土の土産って言うより説明だったね!因みに死体は消えるよ。この世界の住人じゃないからね。じゃあ、殺される準備はいいかな?」
壁に押し付けられたまま、物騒な事を言われる。その問いに対し俺は…
「いいともー!…なんて言えるかよ!!」
辛うじて動いた右脚で女の脇腹付近を蹴りつける。
「キャッ…!」
柔らかい。やっぱ力や超能力が有っても身体は女だな。
その蹴りで女は怯み、手を離した。…よし、チャンスだ!
確信した俺は持ち味の脚を生かし走る。
「ま、待って…!」
苦しそうに声を出す。どうやらなかなかのダメージを与えれたらしい。火事場の馬鹿力ってやつか。
その声を無視し俺は更に加速し家の方向へ走り出す。みるみるうちに女との距離が離れる。
だが酸素の入りが悪いのか、いつもよりスピードがでない。まだ回復してないからか。だが止まるわけにはいかない。
殴られた腹と叩きつけられた背中の痛みを我慢し、暗い住宅街を走りつづけた。
―
どれぐらい走っただろうか。気付いたら家の近くの公園にたどり着いていた。前回も公園だったな。逃げる時はここまで来るのが本能行動なのかもしれない。
公園の時計を見る。だが針は9時で止まったままだ。
「ハァ、ハァ…ま、まだ…アイツが居るのか…」
まだ安心できないことを確認した俺は取り敢えず息を整えることにした。コンディションが最悪だったため、いつもより消費した体力が多い。
「すぅー、はぁー、すぅー、はぁー」
深呼吸をし、息が落ち着いてきた時に後方…つまり公園入口から気配を感じた。
「アクアバレット!」
アクア?バレット?水の弾丸って事か?中二病臭いぞなんか。
言葉の意味を考えていると、俺の数センチ横を高速の物体が通過していく。
入口の方を見ると、肩で息をしている人影が見えた。街灯のおかげで姿形は分かるが顔は分からない。
「はぁ、はぁ…やっと追いついた。キミ、脚速すぎだよ…」
どうやらあの女らしい。しつこい奴だ全く。しつこい奴は嫌われるぞ。
「もう諦めてよ。キミは死ななきゃいけないの!」
そう言うとまた何かを飛ばしてきた。
それは俺の前の地面に当たり爆ぜた。よく見ると地面が濡れている。
(アレは言葉の通り水の弾丸なのか…?)
と言うことはこれはアレか、魔法ってやつか。現実じゃ有り得ないからな。
そう思っていたら、また飛んできた。だが俺には当たらず周囲の地面や木、遊具に当たる。
この事から分かるが、アレは百発百中ではないらしい。だが、当たった地面や遊具は抉れ削れていく。威力は高い、当たったら多分死ぬな、ありゃ。
「何で当たんないのよ!当たれ!」
どこかで聞いたことが有るような無いような台詞を言いながら打ちまくる。それのせいで動こうにも動けない。これじゃ当たるのは時間の問題だ。
(流石にこれはマズいぞ…)
そう思った矢先、弾丸が俺の脚に着弾した。
「ぐっ!!」
俺はたまらずその場に崩れ落ちる。脚を見るとなかなかの出血量だ。
やはり威力はハンパなかった、脚を貫通してやがる。下手な鉄砲数打ちゃ当たるって本当の事だな。これじゃ走ることはおろか、歩くこともままならないぞ。
そんな事を考えている内に、女が近付いてきた。
「はぁ、はぁ…やっと当たった。さぁ…今度こそ覚悟してね」
顔を上げ、女の方を見る。さっきは暗くて見えなかったが、公園の電灯に照らされてるのか顔が見れた。
その顔は俺と大して年が離れてるようには見えなかった。顔立ちは全体的に整っているが、まだあどけなさを感じるような…所謂童顔てやつか。暗くて分からないが髪はショートヘアーのようだ。
街灯のくらぼったい灯りに照らされた姿はさしずめ薄幸の美少女といった所だな。薄幸かどうかは知らんが。
動こうとしたが、脚の太ももを貫通した弾丸は俺の脚を完全に沈黙させた。立ち上がることも不可能だ。
「これで…終わりか…」
諦めの言葉を漏らす。もう女は俺の前まで来てる。
「そう、終わりだよ…サヨウナラ…」
彼女の手にアニメで見たような魔法陣らしきものが現れる。そして俺の心臓目掛けて水の弾丸を放とうとした時、
「翔、こんな所で人生ゲームオーバーしていいの?」
その声に俺は驚きを隠せなかった。どうやら彼女も驚いたようだ。それと同時に、今まさに俺を殺そうとした女子は吹っ飛んでいった。
彼女は「キャッ!」と短い悲鳴を上げ地面を転がっていく。
「いったー…アンタ誰なの?」
そう言って立ち上がった彼女の視線の先…そして俺の視線の先には…。
闇に溶け込むような長い黒髪を揺らし、学校指定の臙脂色のブレザーを着た俺の幼なじみ、霧島瑞希が立っていた。
「な、何でお前が…てか何で動けるんだよ、この空間で…」
当然だが疑問を矢継ぎ早に口にする。
「そんな事はどうでも良いじゃないの」
「どうでも良くない!まず何でここに―」
「五月蝿いわよ、翔」
そう呟いたと思ったら鳩尾を殴りつけてきた。体の中の酸素がまた無くなった。
「ぐへっ!」
よ、容赦ねぇ……。だがさっき殴られたのよりはまだ我慢できる。
「後で説明するからさ、今は聞かないで」
容赦なく鳩尾を殴ってきた奴と同一人物とは思えない優しい声音で瑞希は言った。
「ちょっと!私を無視しないでよ!」
気付けば彼女が喚いてる。そういやさっきから無視しっぱなしだったな。不機嫌になるのも致し方ない。
「てゆーか何でアナタも動けるの?」
彼女も俺と同じ疑問を口にする。まあ妥当な質問だろうな。
「そうだよ…。何でお前も動けるん――」(ボスッ)
「だから後でって言ってるでしょ?翔の脳は聴覚野が機能してないの?それとも海馬が機能してないの?バカなの?死ぬの?」
「ぐぅ……ず、ずいまぜん…」
また鳩尾にパンチを喰らう。身体的ダメージと精神的ダメージが蓄積されていく。
身体的ダメージはそれだけじゃない。死にはしないが、脚の傷のこともある。このままじゃ貧血で倒れそうだ。血が止まらないんだよね。
どうにか止血できないものか、と縛れる物を探すが見つからない。参ったな。
それに気付いたのか、瑞希がタオルを渡してくれた。
「取り敢えずコレ、使って。それで止血出来るでしょ」
「お、おう。サンキュー」
渡されたタオルで止血する。うろ覚えだがコレで良いだろ。血が止まりゃいいさ。
「だ・か・ら、無視しないでって言ってるでしょ!!」
しびれを切らした彼女が水の弾丸を滅茶苦茶に飛ばしてくる。
「お、おい、瑞希…」
俺は心配になり、幼なじみを見上げる。
瑞希は普段はあまり見せない笑顔で、
「大丈夫よ。今は私が翔を守るわ」
と言うと、彼女の方を向いた。
その目は、小学1年の時に瑞希と知り合ってからの約10年間の中で初めて見る。
それは、怒りに満ちていた。