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「非現実の世界」 1-1

「今日もお疲れさまー、翔くん」

 店長が話しかけてきた。どうやらバイトも終わりの時間のようだ。時間が経つのが早く感じる。

「今日はこれで上がっていいよ。お疲れ」

「分かりました」

 そう答え、休憩室に入り自分のロッカーから制服を取りだし着替える。

 因みに差し入れの紙パックはやはりお気に召さなかったようだ。口々に「マズッ!」や「オエッ」とか聞こえてきた。

 サッと着替え、裏口から出ようとした時に店長に呼び止められた。

「あ、翔くん。いつも頑張ってくれてるからコレ、ボーナス」

「えっ…?良いんですか?」

「良いって良いって。人一倍働いてくれてるから妥当だと思うよ」

 渡された封筒を覗くと結構な金額が入っていた。

「じゃ、お疲れさま翔くん」

「あ、ありがとうございます!」

 思いがけないボーナスに、俺の心は有頂天になった。



「やっと買えた…欲しかったんだよな、これ」

 突然のボーナスで、俺は欲しかったCDを買った。普段は生活費の為にカツカツだから、この臨時収入は嬉しい。

「腹減ったな…」

 時計を見ると時刻は夕方の6時になろうとしていた。どうやらCDショップで結構長居したらしい。

 取りあえず近くのファストフード店に入ることにした。

「いらっしゃいませー!」

 店員の元気な声を尻目にいつもの注文をする。

「レギュラーセット、飲み物はアイスコーヒーで」

「かしこまりました!レギュラー、アイスコーヒーですね?しばらくお待ちください!」

 そう言った3分後、トレーに注文品が乗って出される。速い。しばらく待つ必要無いやんけ。

 お代を払い、いつものお気に入りの席に座る。この席はどんな時も座る人がいない。眺めは良いのに…

 そんな事を考えながら、今日瑞希に聞かれた質問を改めて考える。


『昨日の夜何してた?』


 普段の瑞希は俺の日常に興味は示さない。するとしてもあんな直球では質問しない。いつもは回りくどい言い方をする。 しかも、あの時の声には何か真剣味が漂っていた。瑞希があんな神妙になるのは天地がひっくり返っても有り得ない。

(まさか…昨夜の事知ってるのか?)

 そう思ったが、あの時はアイツと俺(と死体)しかいなかった。知ってるはずがない。知ってるとしたらアイツが…

(そんなはずがない!瑞希は…)

 動揺する心を鎮めるためコーヒーに口を付ける。氷が溶けていて冷たく無かった。

 「………はぁ」

 マリアナ海溝並みに深い溜め息を吐いて、俺は店を後にした。

 店を出ると辺りは暗くなっていた。昨夜と同じように。



 音楽を聴きながら家路を行く。時刻は9時前。住宅街に入ったため、辺りは街中より暗い。

「…ん?あれ…?」

 ふと辺りの様子がおかしい事に気付く。暗いのは変わらないが。

 イヤホンを外すとそれが分かった。

「音が…聞こえない…」

 そう、全くと言って良いほど音が聞こえなかった。聞こえるのはイヤホンから漏れる音楽だけだ。

 周りの家を見渡す。

 電気は点いているが、音はしない。まるで人が一瞬で消えたかのようだ。

 時間を確認しようと腕時計を見たとき、俺は驚愕した。

「な…!?時間が…!?」

 腕時計の針は9時で止まっていた。故障かと思い携帯を見たが、携帯の時刻表示も9時で停止していた。つまり俺が住宅街に入った時ぐらいから止まっていたってわけだ。

 驚き呆然としてると、後ろに人の気配を感じた。

「あれ…?この空間で動ける人間なんて普通はいないんだけどなぁ…」

 声が聞こえた。女の…声。

「って事はこの前の目撃者ってのはキミの事かなぁ?」

 その声の主を確かめようと振り返った時、彼女は言った。

「じゃあ、死んでもらわなきゃね!」

 その言葉を聞き終わる前に俺は吹っ飛ばされた。

「がっ……!」

 どうやらぶん殴られたようだ。腹の辺りがズキズキする。立ち上がろうとした時、胸倉を掴まれ上げられる。こんな細腕のどこにそんな力が有るんだ…?

「あれ、なかなかカッコいいなぁ…だけど、この空間で動けるって事は『特異体』って事なんだよね…」 『特異体』…?意味が分からない。

「『特異体』って事は奴らと同類…やっぱ殺さなくちゃ」

 彼女はそう呟き、俺をぶん投げた。綺麗に背中から落とされる。その衝撃で肺の中の空気が一瞬で失われる。

「ぐはっ……!」

 ヤバい。このままだとマジで殺される。

 本能的にそう感じ立ち上がろうとするが、また胸倉を掴まれ壁に押し付けられる。

「ぐっ…一体何なんだよお前は…!」

 声を荒げ、問いかける。

「私は何者でもないよ。あなたは知らなくて良いの」

 …答えようとはしないか。

「じゃあ…何故俺を殺す!?」

「あなたが『特異体』だから」 また『特異体』かよ。訳わかんねぇ。

「だから『特異体』って何なんだよ!」

「そっか…知らないよね。そんなんでいきなり死ねなんて言われても理不尽だよね。分かった、じゃあ冥土の土産として話すかな♪」

 彼女はそう言い放つと、語り始めた。


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