「普段の日常」 1-1
――ここは…どこだろうか?辺り一面真っ暗だ。真っ暗で何にも見えない。正に一寸先は闇だ。意味は違うが。
そんな真っ暗な世界に音が響く。とても心地がいい音だ。もっと聴いていたいと思ったが、その音はだんだんと耳障りな音に変わってゆく。そして、最終的には甲高い音となった。
その音を聴いた瞬間、真っ暗な世界が明るい世界へ変わった。
―ピピピピピ…―
甲高い音が鳴る中、目を覚ます。どうやら音の正体はこの目覚まし時計の様だ。
「うるさいなぁ…」
友人から貰ったものだが、アラーム音がうるさく、更には音がこれでもかと言うほど高い。起きる分には良いが、気分は最悪だ。友人の嫌がらせとしか思えない。
のっそりと身体を起こし、やっとの思いで時計を止める。甲高い音に加え昨夜の事もあり、普段より最悪な目覚めだ。
取り敢えずテレビをつける。少しでも気分を変えたいんだ。
「月曜日、朝のニュースをお伝えします。先ず最初のニュースは…」
朝起きたらテレビをつけニュースを観る。これが俺の目覚まし時計による不快指数を下げるための日課だ。
まだ眠っている身体を動かし、朝のコーヒーを淹れ、朝食を食べる。その後、昼食の弁当をこしらえる。中身は全て冷凍食品。今や冷凍食品だけで弁当が作れる。しかも最近は自然解凍の冷凍食品も出てきた。便利な時代になったもんだ。考えた人を尊敬する。
そんなこんなで弁当が完成した。やはり日課をこなすと良い気分になる。
「よし、弁当もできたし、そろそろ学校の準備を…」
と呟き、中学時代から愛用しているエナメルに必要なものを詰めていると、
「おーい、翔ー。学校行こうぜー」
アパートの外から声が聞こえてきた。さっきの時計をくれた奴だ。
「分かった、すぐ行く!」
と声をかけ、急いで支度を済ませる。
「行ってきます!」
誰も居ない部屋に声をかけ、友人のもとへ急ぐ。
アパートの階段の下では友人が待っていた。
「おっはー、翔」
この少し時代遅れの挨拶をするこいつは小学校の頃からの友人、氷室雄平。身長は俺より高い174cm。髪は金髪気味、肩より少し上辺りの長さだ。この髪のせいで誤解される場合が多々あるが、不良ではない。
「おはようさん」
挨拶を返し、学校への道を2人で駄弁りながら歩く。
今更だが、俺達は今年で高二になる。今日は始業式だけで午前で終わりなのだが、午後からバイトのため弁当を持っている。
「そうだ雄平、ちょい寄りたいところがあるんだが」
「あ?まあいいよ。時間はまだ良いし」
そして俺と雄平は昨夜の出来事が有った路地へ、記憶を辿りながら向かう。勿論雄平にはあの事について何も言ってない。雄平は何も知らない顔でついてきた。
そしてその路地に着く。思ったより遠くなかった。明るいうちに来ると、そこは何の変哲もないただの行き止まりだという事がよくわかる。…「何の変哲もない」だって…?
「こんなところに用があるのか?何もないぜ?」
そう、雄平の言う通り、そこには昨夜の事が嘘のように何もなかった。打ち付けたような跡も、勿論死体も。
「そんな…」
あんな所業をしでかして、何も無いなんていくら何でもおかしい。幻覚でも見たのだろうか。場所が違ったのか?
狼狽えてる俺を心配したのか、雄平が声を掛けてくる。
「どうした、翔。顔色悪いぞ?」
「…いや、何でもない」
出来る限り平静を装って応える。表面上は落ち着いているが、頭の中は思考の渦が渦巻いている。
「げっ!もう時間が…翔、急ごうぜ!」
雄平の言葉を聞き、現実に戻る。腕時計に目を落とすと、もう結構な時間だというのが分かる。間に合うか間に合わないかの瀬戸際だろうか。
考え事は一杯あるが、今は遅刻しないのが先決だ。
「よし、じゃあ走るぞ!」
と言い、鞄を斜め掛けにして駆け出す。
「ちょ、速いよ翔!ま、待ってくれ〜」
「待てないね。遅刻したくないんだわ」
そう言い捨て、全力疾走。瞬く間に雄平との距離が空く。友人を見捨てることになったが、脚は止めない。何故かって?
初日から校門に立っている鬼教師に怒られたくないんだ。
「はぁ…はぁ…よし、見えてきた」
ひたすら走ること五分。前方に俺が通う高校、黎明学園の校門が見えてくる。そして校門の前には、通称「校門の番犬」と呼ばれる体育教師が立ちはだかっている。
気付くと、校門が徐々に閉まり始めている。俺の学校は校門が自動的に閉まる。便利なもんだ。
時計をチラリと見る。時刻は8時14分。約1分後には校門が閉まりきる。俺の学校は8時15分がタイムリミットだ。
「くっ…!間に合え…!」
自らに喝を入れ、スピードを上げる。そして後少しで閉まる!というギリギリのタイミングに、俺は滑り込むことが出来た。
俺の勝ちだな、校門よ。流石俺の脚、これぐらい何ともないぜ。
しばし勝利の余韻に浸っていたかったが、体育教師の「早くクラスに行け!」の怒声でしぶしぶクラスに行く。暫くして後ろから、「入れてください!」の声が聞こえてくる。体育教師の台詞は「入りたければ、3回回ってワンと言え!」だった。
…教師の言うことじゃねぇ…
そんな雄平を尻目に、校舎に入った俺は下駄箱に靴を入れ、掲示板に貼られた新クラスの名簿を見る。
「俺は1組か…雄平も一緒だな。しかもアイツも居るし…楽しくなりそうだ」
少しうきうきしながら、俺は教室へ向かう。
昨夜のことも、これなら忘れれることができるかもしれない。
そんな気持ちで俺は教室の戸を開けた。




