小説なければただのクズ
「小説が無ければただのクズだね」
昔、大学の先輩にそう言われた。
「小説のことは本当に楽しそうに話しますよね」
昔、サークルの後輩にそう言われた。
「小説家にならないの?」
昔、面接官にそう言われた。
夜勤が終わり電車で帰宅するとすぐにシャワーを浴びる。そして、朝食を食べてから眠気がくるとベッドで寝る。夕方に目が覚めると、机の上には未読の本に読みかけの本がある。
あ~、本当に幸せだ。
いつもと同じ変わらない風景になぜ感動したのか、それはなんとなく覚えている今見た夢が原因なのだろうか。小説がなければ・・・、小説のことは本当に楽しそうに・・・、小説家にならないの?・・・。
子供の頃から小説が好きで本ばかり読んでいたのが気に入らない同級生からは、学校の成績が悪いことをよく笑われた。
「格好つけんなよー」「本読んでてもバカじゃねーか」「小説買っているのだって、親父に頼まれただけだろう」
色々言われ子供ながら傷ついていたが、どんな嫌な思いをしてもつらい現実を小説が一時的にも忘れさせてくれた。
そんな小説をいつか自分も書いてみたい、いつの頃か自然とそう思っていた。
そう思っていた、思う、思うけど、思うだけ。
よし書こう、そう思いノートを広げ3ページほど書く。
よし書こう、そう思いパソコンに向かい400文字ほど打つ。
その途中、アイディアやネタや見識を得るため小説や漫画を読むため休憩する。
映画やアニメをテレビを観る。女の子と遊ぶ。ネット麻雀をやりパチンコに行く。SNSを一日中、見て過ごす。それら全てはこれから書く作品のため。
あっ、もうこんな時間だ。明日からまた仕事だから早く寝ないとな。
思いは子供の頃から何も変わらない、行動もコンテンツの違いはあれど結局何も変わっていない。
え、この人、知っているの?
へ~、同級生の父親、そうなんだ。
・・・はぁ?、いや、この人の子供のことは関係ないじゃん。本ばかり読んでいたけど馬鹿だったからなに?だから今それまったく関係ないよね。・・・何か本当にそういうところあるよね。
こっちが誰かに何かに感動すれば、誰かが讃えられれば、でもこいつは、いやあいつは、でもいや誰々はあーだから、こーだから。いちいち関係ないことで馬鹿にしたり、粗探ししなくてもいいじゃん。
何がそんなに気に入らないの?
え?、は?、どうでも良いなら何も言わないでよ。今こっちは純粋にこの人が凄いと思っているんだから。
あ、ありがとうございます。すいません、本は私が拾いますから、あ、すいません、ありがとうございます。え、先輩も小説好きなんですか?
あ、そうですか。確かに眠くなりますよね。いや本当に私も眠くなりますよ。
はい、面白くないとすぐにウトウトします。アハハハ。
この人ですか?、はい、少し前にデビューしてこれが2作目なんですけど。凄く面白いんですよ。
作品もそうですが、小説を書くきっかけが面白くて。はい、何か同棲中の彼女の前で、小説好きだった同級生を馬鹿にしたら、ケンカになっちゃってそのまま破局して。じゃあ、俺が小説を書いて見返してやるよってデビューまでしちゃって。いや、何でそうなるんだよって、ファンの中では笑い話です。
何この人?
小説を書いた理由が、振られた彼女を見返すため?
それは全然良いと思うが、その振られた原因がふざけている。
自分が子供の頃の同級生が本ばかり読んでいたが、バカだったと言ったら彼女が怒ったとのこと。
当たり前じゃん。何この人、小説なければただのクズじゃん。
・・・ん?、そういえば大学時代に同じことを伝えた後輩がいたな。
彼は今、どうしているんだろう?
確か、警備員の会社に就職したって聞いたけど。女性にだらしなくて何人も遊ばれ悲しませた本当のクズだった。そんなクズも小説の話をする時は信じられないほど素敵な笑顔になり、その差の激しさに思わず面と向かって言ってしまった。
ー小説が無ければただのクズだねー
その時、彼はどんな顔をしたんだっけな、何て言ったんだっけな、もう思い出せないし、どうでもいいか。
先生、元彼女から復縁連絡はありましたか?印税次第ですね。
発売当日に買いました。今日は飲まずに帰宅です。
人を馬鹿にするような奴が小説を書くな、汚すな。
才能ってやっぱあるんだなー。あんたの事は大嫌いだけど作品は好きだ。
やったーーーー!!!。新作、待っていましたーーーーー!!!
三部作の最終章。楽しみでありながらも、終わってしまう悲しさもある。
娘は先生の作品発売日に凄く嬉しそうにします。先生の作品は私達の希望です。
やっぱ人間性と作風は似るんだな。クソつまんねーわ。
どいつもこいつも好き勝手言って書いてんな。
知らねーよ、お前らのことなんて。
世間もファンもアンチも俺の毒舌で盛り上がるが、別にキャラをつくっているわけじゃない。
本当に小説を書き始めたのは、あのクソ女を見返すためだ。
ふざけんな、何で馬鹿を馬鹿だったと言っただけなのに、あんな説教を食らわなければいけないんだよ。
あー、くそが、そうだ、今はあんな女のことなんて気にしている場合じゃないんだ。そんなことより、締め切りも迫っているのに新作のプロットがまったく浮かばず、イライラしていると編集者からラインが入る。興味もない何とか賞の最終選考の5作品をパソコンに送信したから、受賞作品を決め各作品の批評を今月末までにお願いしたいとのことだった。心底どうでもいいが、気分転換になるかと思いメールボックスからファイルを開く。
あれ?この作者の名前・・・。




