第三話 朝。
「腐葉土と鶏糞!」
そう叫んで目を覚ましたラナに、隣で眠っていたルイが驚いて起きてしまった。
リンは気付かずにまだ眠っている。
薄明るくなってきた家の中に既に母親の姿はなかった。
畑に行ったのだろう。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
目を擦りながら、ルイがたずねてきた。
「腐葉土と鶏糞だよ、確か!」
興奮して叫ぶラナに、ルイは困惑したような表情を浮かべる。
だが、ラナにそれを気にかける余裕はなかった。
前世でホームセンターの園芸や農業のコーナーに、腐葉土と鶏糞肥料と書かれた袋が積み上がっているのを見た事を思い出したのだ。
それと、森のふかふかの地面だ。
あれは多分腐葉土だ。取ってきて畑に混ぜて鋤けば、土が柔らかくなるはずだ。
(問題は鶏糞の方だよね……)
貧しいラナの家では、当然鳥など飼育していない。
(フライリザードの糞じゃダメかなあ?)
フライリザードは羽の生えたトカゲのような生き物で、小さな群れを作って岩場で生活している。
素早いのでラナのような子供が捕まえるのは難しいが、弓矢を使える村の人はたまに狩っているようだ。
数年前のお祭りの時にフライリザードの唐揚げを食べた事があるが、淡白な鶏肉のような味で美味しかった。
(うん、今日は岩場の方に行ってみよう)
食べられる物は森に比べれば少ないが、岩塩が見つかれば、少額ではあるが町でお金に変えられる。
「さぁ、起きるよ。私はご飯の用意をするからリンを起こしてね」
「うん、分かった」
髪を梳かして顔を洗い、ラナは朝食の準備を始めた。
昨日採ってきた茸と香草のスープに、小さく切ったボーショを入れて煮る。
いい匂いが漂い始めた。
もうすぐボーショの収穫だ。
おそらく父親が帰ってくる週末にするのだろう。
翌日には畑の土を鋤くはずだから、それまでに腐葉土と肥料を手に入れなければ。
(本当は畑を休ませないといけないんだよね……?)
貧しい村ではそのような余裕もなく、また冬になる前に蓄えなければならず、常に畑にはボーショが植えられていた。
せめて、ほかの作物でも植えられれば良いのだが。
(種も苗も買えないもんね)
ラナの村のように痩せた土地で育つ作物は限られている。
ボーショはどんな環境でも育つありがたい作物ではあるのだが。
薄いピンク色のスープを見て、ラナはため息をついた。
色が薄いのはボーショに含まれている栄養素が少ないためだ。
香草や岩塩を使っても味付けはやはりワンパターンになってしまう。
バターでもあれば、料理の幅も広がるのだが。
リンを起こして身支度をさせたルイが、食器を出し始めた。
まだ眠いのか、リンは大人しく椅子に座っている。
「はい、出来たよ」
温かいスープを皿に盛り、テーブルに並べた。
畑に行っていた母親も戻ってきた。
「いただきます」
ラナはテーブルを囲む家族を見回した。
貧しいのは確かだが優しい大切な家族。
ああ、幸せだな、とラナは微笑んだ。




