第一話 貧乏農家。
(うーん、やっぱり土壌改良が最優先だよね)
畑の様子を見ながら、ラナは心の中で呟いた。
貧相な茎や葉にはどう見ても栄養が足りていないのは素人の目で見てもあきらかだった。
(でも、どうやったらいいんだろう……?)
ラナには農業の知識はない。
残飯等から肥料を作るという話を前世で聞いた事はあったが、確かうまくやらないと腐るだけだったような気がする。
ラナの前世はクソみたいな人生だった。
親に怒鳴られ殴られ、高校生になってバイト出来るようになると給料は全て奪われた。
事情を知った担任が手助けしてくれたおかげで、卒業と同時に家から逃げ出せた。
六畳一間に小さなキッチンがついているだけの小さな部屋だったが、生まれて初めて心安らかに暮らせる空間を手に入れる事が出来たのだ。
それなのに。
どこでどう聞きつけたのか、ラナの前にろくでもない親は再び現れた。
最初は「心配させるなんて」みたいな事を言っていたが、結局は金をよこせ、という話だった。
ラナが断るとそれに腹を立てて、歩道橋の上から突き落とされ、前世での人生は二十歳そこそこで呆気なく終わりを迎えた。
目撃者も多かったから、警察には連絡がいっただろう。
あいつらが捕まったであろう事だけが救いだった。
それに比べて、今の両親はとても優しかった。
ただでさえ少ない具を子供であるラナ達に食べさせ、一日中働きづめだった自分達は薄いスープのみで「私達はお腹いっぱいだから」と笑ってみせるような人達だった。
前世では与えられなかった親の愛情というものを、ラナはようやく受けられるようになった。
だが。
貧乏なのである。
ものすごく貧乏なのである。
それはラナの家に限った事ではなく、村全体が貧しかった。
この辺りではまず小麦が育たず、ボーショというジャガイモに似た芋がメインの作物だ。
ボーショは本来なら濃いピンク色をしているのだが、ラナの村で採れるのは淡い桜色をしていた。
含まれている栄養が少ないせいだ。
そのせいか十歳になったラナの身体もまだ小さく、手足も細いままだった。
それでも、痣や傷がないだけ前世よりよほどマシだった。
だが、このままではいられない。
ラナの下にはまだ妹と弟がいる。
どうにかしなければ、と畑の様子を見に来たのだが。
(栄養かぁ……)
どうしたもんか、と思いつつもどうする事も出来ず、ラナはいつも通り森へと向かった。
少しでも食料を手に入れるためだ。
「よし、これは食べられる。あ、これ美味しかったやつだ!」
〈鑑定〉スキルを使い、食べられる野草や茸、木の実等を集めていく。
ラナのスキルには〈危険回避〉もあり、毒のあるものは分かるようになっており、魔物等も避ける事が出来た。
そのおかげで、まだ子供であるラナでも一人で森に入る事が出来るのだ。
ついでに言えば、ラナには〈忍耐〉や〈精神耐性〉加えて〈物理耐性〉のスキルもある。
おそらく前世での経験によるものだ。
だが、まぁ、そんな事はどうでもいい。
「よし、これだけあれば明日までの分には足りるかな」
ラナは今日の成果を前に、にっこりと笑った。
これで、弟達だけでなく母親にも食べさせてあげられる。
だが、どう見ても十歳の女の子が持てる量ではない。
(〈収納〉スキルがあって良かった)
スペースにして六畳間くらいのものだが、それでも十分であった。
スキルは先天的なものもあれば、経験等から後天的に覚えるものもあるのだが、十歳にしてはラナのスキルは多かった。
今日の成果に満足したラナはウキウキ気分で家路に向かった。
足元がふかふかで、それもまた楽しかった。




