第七幕:残酷な推理
ねえ、あなた。私はアドラーよ。
そして、アドラーを愛するシャーロキアンの一人なの。
なのにーーアイリーン・アドラーと名乗っている。
第六幕では、シャーロキアンのホームズたちと接触する事になった。
私の今の状況をどうしても、解決して欲しかった。
それから私は、あわよくばーー彼らの厄介になろうと思ってた。
そこはカムデン・タウンの南端だった。そこの倉庫の前で、ホームズたちはインディアンのようにたむろしていた。
私の荷物を見て、
首長ホームズが言ったのは冷たいものだった。
「ここは女性を泊める場所はない。
それにお茶も出さない。ホームズは依頼人に、お茶をわざわざ用意なんてしない。」と言った。
「もしかしたら、アーサー・コナン・ドイルが書き忘れたのかもしれないわ。」
「ハドソン夫人がいたら、お茶を任せているさ。もし君が彼女なら大歓迎だった。
でも、ーー君はアドラー。アイリーン・アドラーだった。
ーーさて、くだらん井戸端話の内容なら、このままお引き取り願うけどーーどうなんだい?」
首長ホームズは少し苛立ちながら、私に話した。
「私は命を狙われているの。あなた方に助けてほしい。」
「命の危険。ふむ。そりゃあ、大好物かもしれない。」
そして彼は、私をある部屋に案内した。
その部屋の中央には円卓があり、囲むようにして木椅子があった。ーー私は近くにある椅子に座った。
「さあ、話したまえ。」
そう言われたけど、私は自分が何から話せばいいか悩んだわ。
話は語りすぎたら、とたんに嘘くさくなる。
私は自分をなるべく美しく語る事にした。
「ねえ、あなた。私はアドラーよ。
そして、アドラーを愛するシャーロキアンの一人なの。
なのにーーアイリーン・アドラーと名乗っている。」
「ブルネットのカツラさえつけて、それらしくふるまえば誰だって、アドラーさ。」と首長ホームズ。
「なぜですって?」と私は彼を睨みつけた。
「おや、すまない。彼女はボクらのホームズから尊敬されている方だ。
君のような美女が演じるなら、悪い気はしないよ。」
「私は......コナン・ドイルの書いた彼女の美しさ、そして強さに惹かれて、
この名前を時々名乗っているの。
ーーでも本気じゃないわ。
ーーマスクみたいなものなの。
ーー私には、もう一つの名前がある。
だけどねーーあなたに、
言うべきかーー悩んでいる。」
「別に興味はない。ボクには謎が必要だ。ーー続けたまえ。」
そして私は、彼に物語として聴かせた。私の人生を。あなたが聴いてるみたいにーー。
語り終えた時、少し寒くなってきた。
部屋には暖炉もない。
首長ホームズは黙ったまま、私を見ていた。しばらく真顔だった。でも、やがてニヤニヤし始めた。
「結婚詐欺師に騙されて、親族からたらい回し。アドラーになって知性ビンタ。
はは、叔母から銃までもらってやがる。」と言った。それから彼は考えを述べた。
「前からやってきた浮浪者は、確かに君を狙ってた。君の話から推測するに、ブルネットの髪を狙った。
間違いなくね。君の叔母さんは、君を怖がらせまいとウソをついた。
キャロラインが無事なのかさえ、怪しい。一生びっこか、頭がおかしくなっているかもしれない。」
彼は、私を揺さぶるような事を言った。
「そんなーーそんなーー」と私は息をするのが苦しくなった。
「ボクは君の叔母さんがウソつきだと指摘しただけだ。そんなに苦しむ事じゃない。問題は君が狙われる理由だ。
何年も狙われなかった君が、突然狙われるなんてない。結婚詐欺師とは別だ。遺産分配が関係する。」
「でもーー」
「ボクは君の復讐とかも、鏡のアドラーも気にしない。医者じゃないんだ。
何の遺産か。気になってたまらない。
うん。遺産なら、弁護士が怪しい。
それか叔母さんと一緒になって遺書を読めるやつだ。叔母さん以外にその家に出入りする人間は?」
「私と家政婦と庭師よ」
「ーーそれと弁護士だ。足腰の弱いババアを歩かせない。
彼女は弁護士を呼んだ。
犯人は、しぼられたぜ。」
「ーー弁護士が私の命を狙ったの?」
「庭師と家政婦はババアの生活に不可欠だ。彼らは君を傷つけるなら、いつでもやれる。弁護士だ。遺書を他人に見られるバカは、このロンドンにはいない。」
「そんなーー」と私は騙されたように感じたわ。彼の推理は、まるで、なんというか、機械のように書き出された。
悪夢のようにーー。
「ボクは弁護士を調べる。
誰が入ったかなんて、教えてもらわなくていい。ボクにはネットワークがある。君が知らなくていい事だ。」
「私はどうすればいいの?」
「ここには泊められない。でも、一番マシなところがある。彼もホームズだ。きっと君を助けるさ。」と首長ホームズはウインクしてみせた。
(こうして、第七幕はホームズのウインクで幕を閉じる。)




