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シャーロキアンのアドラー〜虚構アドラーの誕生〜  作者: ヨハン•G•ファウスト


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1/8

第一幕:結婚詐欺師と無知な女

ねえ、あなた。私はアドラーよ。

そして、アドラーを愛するシャーロキアンの一人なの。

なのにーーアイリーン・アドラーと名乗っている。


なぜですって?


私は......コナン・ドイルの書いた彼女の美しさ、そして強さに惹かれて、

この名前を時々名乗っているの。


ーーでも本気じゃないわ。


ーーマスクみたいなものなの。


ーー私には、もう一つの名前がある。


だけどねーーあなたに、

言うべきかーー悩んでいる。


この物語は私が、アイリーン・アドラーを名乗ることになった話なの。


だからーー言わない方が、お互いにいい関係でいられると思うの。


あなたが私の本当の名前を口にすれば、この名前がアドラーを殺してしまうかもしれないからーー


1885年頃の事よ。イギリスのサリー州のリッチモンド周辺の邸宅街に私は住む事になった。そうーー五歳ぐらいだわ。

父は裕福な叔母さまから、

借金をしてまで、

屋敷を手に入れたの。

父は母に認めて欲しかった。

そんな男なの。

母はそんな父を愛していた。


それは、ヴィクトリア朝建築の赤レンガで作られたお屋敷だった。

広い庭もあった。

そこには召使いが二人、

ーー犬が三匹いたわ。


私は......まるで蝶や花。

両親から愛されていた。

お庭で毎日、犬たちを追いかけ、

二人に抱きしめられた日々。

この世界は、きっとずっと続くものだと思っていた。


だけどね、あなた。

現実はーーある日、残酷な夢を見せてくるの。すごく残酷な夢よ。


1900年頃。父は更に上を目指したの。あの幸せな時間は、両親に満足を与えなかった。それどころか、もっと幸せを追い求めたの。

当時の父はロンドンに、よく行くようになった。

お金の話を手に入れるため、社交の場に飛び込んでコネを作るのに夢中になってた。

私は本を読むのにハマって、特にアーサー・コナン・ドイルの書いた「シャーロック・ホームズ」がお気に入りだ。今も私は読んでいる。

でも本を読むのに夢中で、色恋のことは全く考えなかった。

ホームズのように知的な王子を待つ、バカなお姫さま。それが私だった。


ある日、父が連れてきた男の人がやってきた。彼は紳士で話し方も行動も洗練されていた。彼は私たちと住むことになった。彼は父に信頼のおける情報を用意した。そのおかげで、私たちは裕福になっていく。

召使いが二人から四人。

犬が三匹から五匹になったわ。

ある日のこと。

彼から私は、自分の部屋で突然に抱きしめた。初めての経験だった。

両親との触れあいとは別の何か。

「レディ。君を迎えに来たーー。

そう言ったら、君は信じてくれるかい?

ボクらは運命によって引き合わされた。

レディ。君の瞳は誰かを探す。

もう、そんな目を外に向けないでくれ。

レディ。君の瞳をここに向けて。

その誰かとはボクの事だ。」

彼の囁きと愛撫のことは、言いたくない。

あなたに言うとしたら、

若さとは厄介なものよ。

あらゆる事に対して、

新鮮さで魂を誤魔化すんだから。


彼は私をモノにした。

それだけなら、まだ許せた事だ。


1901年。私が十六歳の誕生日。

彼は私たちの前から姿を消した。

初めから存在しなかったかのようにーー。まるでロンドンの霧。

そして、今まで私たちが手に入れたものも霧になったーー。

屋敷も、召使いも、犬も、両親の生命さえ。


彼は結婚詐欺師だった。

両親は失ったモノの重さに耐えきれず、傷心のまま神さまの下へ行った。


残された私は幸せになれたと思う?

何もかも忘れて、

強く生きればいいと?


冗談じゃない。


周りの視線は、

私をお姫さまのように扱わない。


親戚の屋敷をたらい回しにされ、

好奇心の目に晒された。

更に傷つけようとさえする。


なぜ私も霧と共に、

両親と共に散らなかったのだろう。


自分の魂を神さまが、

受けいれなかった理由はなんだろう?


これは、罰なのか。


世界が残酷だと気づけない無知に対するーー私への罰?


私は親戚の屋敷を、

まわる日々が始まった。


(こうして、第一幕は流浪により幕を閉じる。)


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