第6話 忍び寄る手先
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ユースティア王都はレントがいなくなった今も、変わらずに賑わっていた。
石畳を踏む靴音が響き、露店の香りが漂う。
鍛冶街は、すっかりガルドの天下であり、かつてレントが固辞していた宮廷鍛冶師の座を、ガルドは二つ返事で引き受けていた。
王宮からの注文に加え、レントが担っていた貴族や冒険者ギルドの仕事も、すべてガルド工房が請け負う。まさににこの世の春だった
ガルドは上等な絹の外套を翻し、胸を張って通りを歩く。
「宮廷鍛冶師ガルド様!」
町人たちは称賛の声を上げ、羨望の眼差しを向ける。
レントがいなくなって数日、もう既に誰も彼について話していなかった。
王国一と言われていようが、所詮狭い冒険者、鍛冶界隈の中での話。地位につけば町民などこんなもんだ、とガルドは面に似合わぬ満面の笑みで手を振った。
そんな中、王宮の使者が息せき切って駆け寄って来るのが見えた。
「ガルド様、第二皇子殿下がお呼びです」
ガルドの満面の笑みが一瞬引き攣る。
「わかった。すぐに行く」
ガルドは嫌な胸騒ぎを感じ、王宮へ足を速めた。
王宮、応接室をガルドが訪れるのはこれで二度目だった。一度目はレントの追放を画策した時。つまり今回もその関係か。
レントがいなくなった今なんだと言うのだ、とガルドは苛立ちを覚えていた。
「ガルド・ゴヨーク、参上しました」
ガルドが名を告げると、ギィィと音を上げて衛兵が扉を開いた。
応接室内は金箔の壁画が燭台の炎に揺れ、深紅の絨毯が敷かれていた。
煌びやかな長椅子に、第二皇子が肉付きの良い体を沈め、指輪をカチカチ鳴らしている。
王国の第二王子という高貴な身分にありながらも外見は整っているとは言い難い。
人を見下すようなたれ目と、丸顔に沿ったダーティブロンドの髪が特徴的だった。
隣には対照的に美しい女官が一人、無表情で一礼する。瞳だけが、氷のように鋭い。
ガルドは入るなり、膝が震えた。
「……シェーデル第二王子殿下、お、お招きいただきありがとうございます……」
慣れないガルドの謙譲語に第二王子が鼻で笑う。
「仕事もせずぷらついてるとは、いいご身分だな」
ガルドが慌てて膝をつく。
「殿下!け、 決してそんなことは……宮廷鍛冶師に推挙いただいた恩は、一生忘れません。また、レント・ヴェーレン追放の策を――」
「そのレントだ」
第二皇子が机の羊皮紙を指す。
「レントが工房ごと消えた。どうやったかわからんが、一瞬のうちだったそうだ」
「な……工房ごと!?」
ガルドの顔が引き攣る。
「そ、それで奴はどこに?」
第二王子は丸く張った頬を吊り上げると、得意げに答えた。
「工房跡地には怪しげな魔方陣があってな。古代魔術の類みたいだが……フェアトレーテが解読した結果、ルヴシール湖周辺だそうだ」
第二王子はフェアトレーテと呼ぶ女官の肩に手を置いた。美しい銀の髪に、透き通った白い肌。口元を彩る濃厚な紅が妖艶さを際立たせている。
ガルドはその魅惑的な佇まいに目を奪われるも、ブンブン首を振って羊皮紙に視線を戻す。
「フン!そんな辺境とは……インチキ野郎が、お似合いだ!」
浮かれるガルドに、第二王子が目を細める。
「だが、奴の腕は確かだ。工房ごと、となると鍛冶を続けていることだろう。辺境で名が広まれば厄介ではないか?お前の地位も束の間の夢になるかもしれんな」
ガルドはハッと息を飲む。「いつかボロが出る」去り際にレントが放った言葉を思い出した。
第二王子は言葉を続けた。
「王都では人目があり難しいが、辺境なら……意味は分かるな?」
ガルドの額に汗が浮かぶ。そしてゆっくりと頷くと、薄い笑みを浮かべて出ていった。
二人が残る応接室、第二王子がフェアトレーテに尋ねる。
「これで良かったのか?」
フェアトレーテが艶やかに微笑む。
「すべて計画通りでございます」
「しかし、なぜレントをガルドに狙わせる? 我が国の名鍛冶は貴重だ」
フェアトレーテが静かに答える。
「一つ、ドワーフの技法など下品。歴史ある我が国にふさわしくありません。二つ、ガルドの報告によれば、レントは王宮内に協力者がいると感づいている様子。事件を怪しむ者は消す必要がありましょう。そして――」
第二王子は満足げに頷き、フェアトレーテを抱き寄せる。
「そして、ガルドならば我々まで足がつかない……か。さすが、この私の相談役だ」
彼女の耳元でそう呟き、そのまま細い首筋に唇を這わせた。フェアトレーテは妖艶な声を上げ、第二王子の背に手先を回す。
だが、その口元は三日月のように耳元まで吊り上がり――
邪悪な笑みを確かに浮かべていた。




