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鬼種流離譚~金砕棒でぶっとばせ~  作者: らる鳥
二章 忍びと妖術師

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 宙に張られた鋼線を足場に蹴って加速し、金砕棒を振るう。

 だが妖術師も、並の人間では不可能な速度で後ろに跳び退り、金砕棒が叩いたのは土の地面だ。

 どぉんと、轟音と共に少し地が揺れ、飛び散った土塊が妖術師を追撃するが、巻き起こった風がそれを防ぐ。


 察するに、後ろに跳んだ時の身体能力の強化は、魂核が宿す妖の力の一つだろう。

 武の技量は自前で、身体能力を強化し、俺の一撃を避けたか。

 直後の風は、恐らく術だ。

 影を使った攻撃や、身体強化の時とは魂核の光り方が違ったから、力だけを引き出して、術に変換したらしい。

 少しずつわかってきた。


 また魂核が光り、次に術の攻撃が来る事がわかる。

 妖術師の周りに炎の塊が六つ浮かび、正面、上、左右、左と右の斜め上から、一斉に逃げ場なく俺を焼き尽くさんと放たれた。

 尤も、炎の攻撃は、下手に避けると山火事になりかねないから、元より避けるという選択肢は取らない。

 俺は、力を込めて金砕棒を振るい、その風圧で六つの炎塊を一度に掻き消す。


「えぇい! なんと理不尽な。この化け物め!」

 妖術師が何やらわめいているが、それに耳を貸す必要はなかった。

 俺は大きく跳び上がり、今度は宙に張られた鋼線目掛けて、手に持った金砕棒を振り下ろす。

 鋼線の使い方は、足場にするだけじゃない。


 普通に金砕棒を鋼線に振るえば、そりゃあ線が切れるだけだろう。

 しかし鋼線の張られた木に、深く切れ込みが入れてあればどうなるか。

 足場として踏む程度ならともかく、金砕棒を振るう強さで、強く鋼線が引かれたならば、べきべきと木は、周囲にある同じように切り込みが入った木々を巻き込んで、地に向かって倒れて行く。

 

 もちろん妖の力を扱う妖術師が、木に押し潰されたところで死ぬとは思わない。

 けれども所詮は人の身だ。

 木々に圧し掛かられれば動きは止まるし、怪我の一つくらいは負うだろう。

 だからこそ、使える能力があれば惜しみなく使って、この状況を脱する筈。


 木々を避け、妖術師が大きく宙を跳ぶ。

 先程に見た身体強化の域を越えて、大きく高く。

 そしてそのまま、口からベッと舌が伸び、咄嗟に受け止めた俺の、金砕棒に巻き付いた。


 なるほど、どうやらあの合成された魂核を保有していた妖の一体は、蛙の妖だったらしい。

 金砕棒を俺から奪おうというらしいが、それは実に無謀だ。

 たかが黄、合成されても赤に届かぬ妖の力しか使えぬ身で、金砕棒を振るう時の俺の力に勝れる筈がないのに。


 思い切り、ブンと金砕棒を振るえば、宙に浮いた妖術師の身体は、己の舌に引っ張られ、俺に向かって引き寄せられる。

 影は遠く地上に置いて来て、身体能力は俺に勝れず、蛙の力は逆に利用されて、妖術師は金砕棒の間合いに入ってしまった。

 もちろん術を使う暇は、この距離ではもうない。

 或いは他にも妖の魂核や、能力を隠し持っていた可能性はあるが、咄嗟に使えないなら同然だ。


 この妖術師は、恐ろしい存在だった。

 彼、或いは彼女の持つ技術が広まれば、八洲は人が住めぬ地になったかもしれない。

 正に大異変の種とも言うべき存在で、秘めた脅威は大妖の蛟ですら遠く及ばなかったと思う。

 だが、種は芽吹かなければ、所詮は種である。


 師から独り立ちする前の俺なら、或いは妖術師の技に翻弄されていただろう。

 でも俺は、独り立ちをしてから多くの物を見、考え、更に大妖の蛟という埒外の存在とも戦い、間違いなく成長を遂げている。

 例えば、この場が俺にとって戦い易く整えられているのも、ただ一人で戦うのではなく、一華の協力を得られるようになったという成長の表われだ。


 また妖術師は、戦い方を間違えた。

 恐らく、合成した魂核の力に、余程の自信があったのだろう。

 妖術師はその力、妖の力を頼りに、俺を押し潰すような戦い方を選んだ。

 或いは、妖術師にとっては妖の力を引き出すのも術のうちで、口にしていた通りの術比べって意識がどこかにあったのかもしれない。


 まるで見せ付けるように、誇るように、何も隠さずにその強さを押し付け、圧する戦いを選んでいたから、この結果は必然だろう。

 己を隠し、手の内を見せ切らず、冷静に戦い方を組み立てていたら、もっと手強い相手だった筈なのに。

 いや、これも妖の力に溺れた結果か。


 ぐしゃりと、俺の振るった金砕棒は、驚愕と恐怖に歪んだ妖術師の顔に吸い込まれ、その存在を消し飛ばす。

 そして更にもう一度、妖術師と同じく必ず葬り去らなければならない合成された魂核も、金砕棒で粉々に砕いた。


 今回の異変は、これで終いだ。

 取り溢しがあったなら、後は師がどうにかしてくれる筈。

 何しろ師は、俺と違って、小人から直接異変に関する未来の話を聞いている。

 その上で、師は俺に、好きにしろと言ったのだから、この結末も、きっと想定の範囲内なのだろう。


 地に降り立って耳を澄ましても、十摩家の兵が駆け付けてくるような様子はなかった。

 派手にやり合ったから、戦いの騒音を聞き付けていない筈はないのだが、確認に来る勇敢、或いは無謀な兵はいない様子。


 ならば妖術師が消えた以上、十摩家の軍はもう前には進めない。

 暫くは、妖術師が戻ってくるのを待つ為に、その場に留まるくらいはするかもしれないが、やがては無駄を悟って引き上げる。

 その後の事は、樺家と十摩家、それから良仙家が決めるだろう。

 もしかするともう一度、今度は十摩家の領地で戦いが起きるかもしれないが、俺はもう、これ以上は関わらないと決めていて、そう一華と約束していた。



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