表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼種流離譚~金砕棒でぶっとばせ~  作者: らる鳥
二章 忍びと妖術師

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/46

43


 翌日、十摩家の先遣隊が動き出したのは、陽もすっかり昇って中天に差し掛かる頃合いだった。

 恐らく兵らが進む事を渋って、動き出すのに時間が掛かったのだろう。

 動き出した先遣隊も、人数は七十人に減っている。

 俺からの襲撃を直接受けた三十人は、やはりもう恐怖で戦えないと判断されて、山を下ろされたらしい。


 やらねばならぬ事だったが、さぞや怖かっただろうと思うと、少しばかり申し訳なくも思う。

 ただ、戦いで死なず、転んだりした怪我はあれど、無事に帰れた彼らは幸運だ。

 この先は、血を流さずに済むとは、俺も流石に考えていないから。


 数が減った先遣隊の先頭に立つのは、妖術師とその護衛だろうと思われる、十人の班。

 遠くから眺めて観察すれば、十人の中に一人、明らかに格好の違う者がいる。

 ゆったりとした装束を身に纏い、烏帽子まで被ってるその姿は、明らかに山を登る格好じゃない。


 しかしそいつは、山に向かないその恰好を苦にした風もなく、男とも女とも判別の付かない顔立ちに薄く笑いすら浮かべて、山道を優雅に歩く。

 どうやら術だけじゃなくて武の心得もある様子。

 そうでなければ、足場の悪い山道を、あんな格好で歩ける筈がない。

 いや、歩けたとしても無駄に体力を使うだけだ。

 尤も、武の心得があったとしても、あんな格好をしている意味は、服の内側に色々と、妖の魂核やら何やらを、隠し持つ以外にはないと思うけれども。


 あれが妖術師で間違いない。

 正直、あまりに露骨過ぎるけれど、あの振る舞いは只者にはできないから。

 ……多分、敢えてあんな風に目立つ事で、早く俺に出て来いって言ってるんだと思う。


 何より、俺はそいつを、一目で悪だと直感した。

 理由は特にないんだけれど、敢えて言うなら中級以上の妖を見た時のように、放置はできないって気分にさせられる。

 ただ、うん、大妖程ではないか。

 あの蛟の時のような、額の、角の疼きは感じない。


 黄……、いや、赤かな。

 そいつを一体の妖として見るならば、中級の中でも赤に近い強さ、力の出力を感じた。

 単純な強さが赤に近く、そこに人としての技量が加わるなら、或いは赤の妖よりも、ずっと手強い可能性がある。


 人としての技量の話をするならば、周囲の護衛も厄介だろう。

 彼らは、昨晩に襲撃をした雑兵達とは違って、より多くの訓練を積んだ精兵か、或いは武芸者かもしれない。

 もちろん武芸者だったとしても、その実力は玉石混合だ。

 本当に磨かれた玉の武芸者は、例えば俺も知る紫藤がそうである。

 仮に紫藤くらいの腕の武芸者が混じっていたら、或いは妖術師よりもそちらの方が、俺にとっての脅威となる場合もあった。

 ……まぁ、弘安家の討伐隊ですら、紫藤の実力は抜きんでていたし、それよりもずっと小さな十摩家に、そんな実力者が用意できるとは思えないが、何事にも万に一つはあるから、周囲の護衛にも油断はすべきじゃないだろう。


 いずれにしても、今は俺はまだ襲撃を仕掛けない。

 狙うならば日暮れ時。

 昼間に歩いた連中が、疲労して気力の糸が切れてからだ。

 逆に俺は、昼間に休んで体力、気力を充実させる。

 それに今は、一華が道の先で、戦いの場を整えてくれていた。


 幾ら忍びの者であっても、俺が全力で暴れたならば、並んで戦う事は不可能だ。

 正直、彼女を気遣わなきゃならない分、俺が戦い難くなるだけ。

 故に一華は俺と並んでは戦わないが、彼女なりにできる事をしてくれていた。

 俺の身を守るという任務を与えられてる一華は、とても歯痒そうではあったけれど、それでも自分の特技を活かして手助けしようとしてくれている。

 だから敵が手強そうな事は、見るだけでも十分に伝わって来たが……、負ける気はあまりしない。



 空が赤く染まる頃、

「オオオオオオオオオオオッ!」

 昨晩と同じく俺は雄叫びを上げて、金砕棒を振り回す。

 けれども今日、俺が殴り付けるのは、そこらに生えた木々じゃなかった。

 順当に進めばこの場所辺りに差し掛かるだろうと、昼間のうちに一華が運んでくれていた、一抱えはある岩。

 それを俺は金砕棒で打ち砕く。


 もちろん、意味もなく岩を壊した訳じゃない。

 金砕棒で打ち砕かれた岩は、無数の石の飛礫となって、妖術師や護衛達に降り注ぐ。


 岩を完全に粉々にせず、飛礫がある程度の大きさを残すように加減はしたが、妖術師や護衛達に対しての加減はない。

 まともに飛礫を受けたなら、人の身体に穴が開く程の威力は、十分にある。

 更に砕く岩は一つではなく、三つ、四つと次々に。

 昨日の兵に対しては、脅すだけで殺してしまわぬよう、なるべく怪我も少ないようにと気遣う余裕もあったけれど、今日の妖術師や護衛達に対しては、加減をしてる余裕が一切ないから。


 しかし驚いた事に、護衛達はこの攻撃に対応した。

 ……いや、それを対応したと言っていいのかはわからないが、彼らは自分達の身は守らずに、妖術師の前に壁となって立ちはだかり、肉の壁になったのだ。

 それは護衛という役割としては、実に正しい行動だろう。


 妖術師が領主の一族か何かで、周りにいたのが長年仕えた忠臣であるなら、それも頷ける。

 だが妖術師は十摩家に囲われているが、領主の一族だという話はなかった筈。

 それに訓練を受けた精鋭であっても単なる兵や、或いは雇われただけの武芸者に、咄嗟にできる事じゃない。

 しかも一人や二人ではなく、護衛の全員が迷わずそう動いたのだ。


 明らかに異常な事態だった。

 そしてその護衛達は、身体に穴が開く飛礫を受けても尚、倒れる事なくこちらを見据え、手にした武器を俺に向かって構える。


 でもこれは……、この気配は、妖?

 昼間に遠くから観察した時は、確かに誰もが人間だったのに、今、護衛達から漂う気配は、下級の、黒の妖と全く変わらぬもの。

 彼等の様子は、俺にある物を連想させる。


 以前、蛟と戦った時、弘安家の家宝であった大鎧、蛇巳丸は、動力である妖の魂核に乗っ取られて、傀鎧と呼ばれる妖と化した。

 傀儡の鎧と書いて、傀鎧。

 今の護衛達の様子は、その傀鎧にそっくりなのだ。

 彼らは魂核の力で動く大鎧じゃなく、紛れもない人である筈なのに。


 まさか、体内に黒の魂核を埋められて、妖に身体を乗っ取られたのか?

 恐らくそれが正解だが、そんな事が自然に起きる筈がない。

 すると……、あの妖術師が、意図的に自分の護衛達を妖に変えたって事になる。


 いや、本当に、そんな外道が、人に居るのか。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 >そんな外道が人の中におるってマ? むしろ『人間(異世界ならヒューマン)』という生き物だからこそ、エルフとかドワーフみたく他の人型生物と比べても誕生し易いんじゃないか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ