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鬼種流離譚~金砕棒でぶっとばせ~  作者: らる鳥
二章 忍びと妖術師

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 途中の宿場町で泊まったり、野宿をしながら街道を四日日歩けば、関を越えて大鵜家の領内に入る。

 関を越える際の取り調べは緩く、税は取られたものの、仕事で手紙を届けに行くのだと伝えれば、すんなりと通してくれた。

 そこから更に一日歩けば、大鵜家の領内で最も栄えた町に辿り着く。

 但しここは、弘安家の領都や良仙家の港都のように、町の中に領主の本拠地がある訳ではなく、大鵜家の城はこの町から東に数刻歩いた場所にある、丘の上に建っていた。


 恐らく、仮に大鵜家が他所の領主に攻められた場合でも、町を戦に巻き込まないようにする為の工夫だろう。

 人道的な意味もあるが、例えば防衛戦を行う場合、町が戦いに巻き込まれなければ、必要な食料は城を守る家臣や、その家族の分だけで済むから。

 町ごと守るか、城だけ守るかで、守り易さは大きく変わる。


 一華曰く、弘安家や良仙家のように、領主が町中に本拠地を構える事の方が、実は珍しいそうだ。

 大領主程に力が強ければ、攻められる前に攻め、相手に被害を押し付けられるけれど、並の領主ならばまずはどうやって自領を効率良く守るか、そこに意識を割くらしい。

 当然ながら、大鵜家は並の領主の側だった。


 尤も港都への道が通じた場所だから、町の規模は小さいながらも、それなりに発展しているように見える。

 俺達はまず、手紙を届ける先の商家へ向かう。

 口入屋を通しての依頼なので、届け先はわかっているが、どこの誰からの手紙なのかは、俺達には伏せられていた。

 これは、差出人と受取人の両方がわかると、手紙のやり取りがあるというだけで、両者の繋がりが推測されてしまうから。


 例えば商家から商家への手紙なら、取り引きが行われる事が匂うだろう。

 商家が取り扱う商売から、取り引きされる品まで、察する場合もあるかもしれない。

 差出人が仮に良仙家の武家だったら、他領の商家との繋がりには、後ろ暗い何かが匂うなんて事もある。

 もちろん、本当に大事な手紙だったら、流れ者を使って届けたりはせず、信頼できる配下や、それこそ視號の里のような、忍びの者を使うとは思うけれども。


 町の商家は幾つかあったが、届け先はその中の一つで、米問屋。

 手紙を届けに行くと、向こうも慣れた様子で番頭が受け取り、主に渡しに行く。

 そしてその主が受領の一筆を書いてくれれば、手紙の配達は終わりだ。

 俺がそれを待つ間、一華は好都合とばかりに丁稚に米の値を確かめてる。

 長年の経験を積み、余計な口を滑らさない番頭よりも、丁稚を相手にした方が情報を引き出し易いと考えて。

 ただその丁稚の話を聞いた際に、彼女はほんの一瞬だけ、恐らく話してる丁稚も気付かぬ程度に僅かだけ、眉根を顰めた。


 何か不都合があったんだろうか。

 少し気にはなったけれど、まさかこの場で問う訳にもいかない。

 また俺がそれを気にし過ぎて、不自然な態度を取るのも問題があるだろうから、一旦その事は忘れて、番頭の戻りを待つ。



「何かあった?」

 俺がその質問を口にしたのは、塩、油の値の確認も終わって、泊まる宿の部屋に入ってからだった。

 旅の仲間だからと相部屋になったが、それは何時もの事なので慣れてるし、こうして内緒の話をするには都合がいい。


「いえ……、この時期にしては米の値が高かったので、話を聞いたのですが、収穫後に売られた米の量が少なかったからとの事だったんです」

 一華の返事は、少し声を潜めて。

確かにその内容は、些か不穏な物だった。

 大鵜家は海沿いの領地だから、海からの恵みを得られるけれど、それでも領主の家臣にとって年貢の米を売った金は、一年を過ごす為のとても大切な収入だ。

 目端の利く者は冬や春、収穫の時期から時が過ぎ、米の値が上がる時まで売却を待つ場合もあるけれど、それでも収穫後には多くの米が米問屋に流れる。


 なのに売られた米の量が少ないというのは、金に換えずに米を持っておかなければならない理由があるからだろう。

 その理由の一つとして考えられる事に、やはり戦があった。

 戦になれば糧食としての米が必要になるから、その予定があるならば、米は売らずに備蓄した方が良い。


 では仮に戦の予定があるとして、どこと、どのような形で争うのかが重要だ。

 例えば近隣の動きが怪しいからと、念の為に米の備蓄を増やしているなら、目的は防戦である。

 もしも敵が攻めて来なければ、備蓄した米が売り払われて、何事もなくてめでたしめでたし。

 けれども大鵜家がどこかを攻める心算で米を備蓄してるなら、それは一体どこなのか。


 大鵜家は、三つの領地と接しているが、良仙家と十摩家に関しては、力の差が明白だった。

 故に大鵜家が単独で攻めるとしたら、樺家以外にはあり得ない。

 しかし山に囲まれた樺家は天然の要害で、大鵜家が単独で攻め落とせる可能性は低いだろう。

 地形に阻まれて手間取るうちに、樺家と関係の深い良仙家が介入する事は目に見えている。


 つまり、大鵜家は単独では、自分から他領を攻めようとするのは、普通に考えればほぼない筈だ。

 だがそれが、大鵜家の単独でなければ?

 十摩家と連動して動いているなら、良仙家の介入前に、樺家を攻め落とす事ができるかもしれない。

 いや、十摩家が動くと考える前提なら、大鵜家は防戦に備えているだけで、戦を起こそうとしているのは十摩家なのかもしれなかった。


「激しい値の動きではないですし、ここだけで判断する事はできません。ですが良仙家も大鵜家や十摩家の動きを怪しんでいて、その調査の一環で、物価を調べる依頼が出された可能性はあります」

 なんというか、実に難儀な話だ。

 或いはこれも、師が言っていた異変の一つだろうか。

 この八洲では、領主同士の戦なんて、日常茶飯事ではあるけれど、俺達が港都にやってきて最初の依頼でその匂いを感じるなんて、あまりにも出来過ぎである。


 尤も、先程一華が言ったように、この町の米の値だけでは判断はできない。

 翌日、俺達は商売目的の旅人を、より明瞭に演じる為に、大鵜家の特産品である塩を少し買い込んで、それを背負って南を目指す。

 海に接する十摩家の領地でも塩は作っているから、この荷が売れる事はないだろうが、山に囲まれた樺家でなら話は別だ。

 十摩家の領地で特産品の苧麻や布を買い込み、樺家の領地で売ろうしてるという、俺達の見せかけの目的を、より信じさせ易くなる筈だった。







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