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鬼種流離譚~金砕棒でぶっとばせ~  作者: らる鳥
二章 忍びと妖術師

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「翔様、ご所望の浜焼きを出してくれる飯屋はこちらですよ」

 先導する一華の案内で、海辺の町を見て回る。

 結局、俺は仕儀からの提案、一華の同行を受け入れた。

 それは視號の里や弘安家の都合ではあったけれど、彼らが最大限に俺への配慮をしようとしてくれてる事はわかったから。


 また実際に、俺が世慣れしてないのも事実なので、情報を集める事に長けた忍びの者が同行してくれるなら、心強いのも確かだ。

 例えば、今もこうして、俺が食べたいと言った浜焼きを出してくれる店を、短時間で調べて来て案内してくれている。

 ここはまだ弘安家の領内だから既に知った場所だった可能性はあるけれど、美味しい物が食べられるなら、それで何にも問題はない。


 実際にどのくらいの能力があって、何が得意で何が苦手なのかは、一緒に旅をする間にわかるだろう。

 茜や紫藤と組んでわかった事だけれど、仲間というのはありがたい存在だ。

 以前は一緒にいた師が何でもできて、それに頼りきりだったから、独り立ちをした以上は何でも自分でどうにかしたいって意識がどこかにあった。

 しかし今は、それぞれにできる事が違う仲間と協力し合えれば、物事はずっと上手くいくと知ったから。

 俺は金砕棒を振り回すくらいしか能がないから、他を補ってくれるなら、それが何であれ十分にありがたい。


 ただ、旅芸人風の目立つ格好や、一華自身の整った容姿、それから実は忍びの者であるという彼女の立場は、俺が思わぬ問題、不都合を招く可能性はある。

 容姿に惹かれた酔人や、不逞の輩程度なら、忍びの者である以上、一華自身であしらえるだろう。

 だが穂積洲には視號以外にも、忍びの里が幾つかあるという。

 そうした一華とは別の里に所属する忍びが、彼女を敵視するなんて事も、全くないとは限らない。


 誰かと一緒に行動するなら、俺が想定しない問題が起きる可能性は、常に頭に入れておくべきだ。

 この世界には、俺の知らない、想像もしない物や出来事、人や風習、しきたりに掟、暗黙の了解等が、無数に存在してるだろうから。

 一華との旅も、俺にとってはいい経験になるだろう。



 それから二日後、俺は一華に船券の買い方を教えて貰って、無事に良仙家の港町へ向かう船に乗り込む。

 船に乗るのは、これが生まれて初めてだ。

 なんでもこういう旅客や荷を運ぶ船を、廻船と呼ぶらしい。


 折角なので棚におりず、踏立板から出航の様子を眺めていると、幾人かの水夫が下帯一丁になって海に飛び込む。

 すると彼らの身体はみるみる鱗に覆われて、海をスイスイと泳ぎ出した。

 あぁ、あの水夫達は海人か。


 海人は普段の姿は人間と殆ど変わらないが、あんな風に水に入ると身体が鱗に包まれて、自由に水中で動けるようになる種族だ。

 殆ど、というのは、手の指と指の間、水かきの部分が、普段でも人間よりもちょっと広くて、見る人が見ればわかるらしい。

 それにしても、どうしてわざわざ飛び込んだのか。

 不思議に思って首を傾げると、

「あの海人は見張りですよ。陸に近い海ではあまりないのですが、陸が見えないくらいに遠くになると、海の妖が襲ってくる事が稀にありますので、あんな風に海人が船に並走して泳ぎ、水中を見張っているのです」

 隣に立った一華が、少し笑んでそんな風に教えてくれる。


 なるほど、実に面白い。

 また一つ、新しい事を知れた。

 これだけでも一華を旅の仲間として、船に乗り込んだ甲斐はあったというものだ。


「海の妖を見付けたとして、どうやって倒すんだろう?」

 ただ、そうなるとまた次の疑問が湧いてくる。

 妖を見付けるまでは良いとして、実際にはどうやってそれを倒すのか。

 万一、この船が妖に襲われたなら、俺は海中で戦える自信はあまりなかった。


 水面なら、この前に走ったばかりだけれど、あれも師の身を軽くする符があったからこそだ。

 何もなしだと、普通に水中に落ちるだろう。


「弱い、無位の妖なら、船から武器を投げ入れて、海人達がそれを使って戦います。色付きの妖が出た場合は、船を陸に近付けるように逃げますね。海の妖は、基本的に陸に近付く事を厭うんですよ」

 海には海の危険があって、そこで生きる者達は対処の仕方を心得ている。

 俺が心配する必要は、基本的にはなさそうだ。

 少し安堵して、俺は息を一つ吐き、教えてくれた一華に礼を言う。


 すると彼女は軽く首を横に振って、

「いえ、お役に立てたなら良かったです。それにしても翔様は面白い方ですね。耳にした話ではとても強い武人様なのに、今は童のように目を輝かせて船出を楽しんでらっしゃいます」

 また一つ笑みを深くした。


 さて、そんなに面白いだろうか。

 腕っぷしの強さと、船出を楽しむのは、あまり関係がないと思うが。

 だが馬鹿にされてる風ではなかったし、面白いと思ってくれるなら、それはそれで幸いだ。

 どうせ一緒に旅をするなら、お互いに楽しめた方が得だろう。


「進路異常なぁし!」

 水中から浮かび上がって顔を上げた海人が、船に向かってそう叫ぶ。

 船旅は、まだまだ始まったばかりである。




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