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鬼種流離譚~金砕棒でぶっとばせ~  作者: らる鳥
一章 蛟

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 シン……、と、辺りが一瞬静まり返る。

 俺が振るった金砕棒は、白の妖のみならず、周囲の黒の妖も纏めて消し飛ばした。


 もしかして、師と暮らしていた時よりも、ちょっと強くなっただろうか。

 我ながらかなりの威力だったと思うけれど、その一撃は妖のみならず、目の当たりにした討伐軍の度肝も抜いたらしく、皆の動きが止まってる。

 俺は、砕け散った妖の残骸の中から、無事だった白の魂核を拾いながら、ちらりとそちらに視線を送る。


 すると即座に、ダァンと大きな音がして、俺の金砕棒から逃れていた黒の妖が、一体吹き飛ぶ。

 なるほど、これが鉄砲で妖を殺せるという、銀を被せた弾の効果か。

「皆、勝てるよ! 続いて!」

 場に響く大きな声の主は、茜。

 頼んだ通りの、素晴らしい援護だった。


 そして敵も味方も、再び一斉に動き出す。

 黒の魂核は……、まぁ、いいか。

 荷物になりそうだし、白を中心に狙っていこう。

 それが最も戦いに貢献できそうだ。


 白や黒の数が減れば、赤や黄の中級の妖怪も出てくるかもしれない。

 中級の妖怪は、流石にさっき程に軽々とは仕留められないだろうが、狩れば紫藤との賭けにだって勝てるだろう。


 金棒を大きくブンと振り、周囲の妖を薙ぎ払いながら、俺は更に前へと進む。

 体内で、ふつふつと血と戦意が滾るのを感じる。

 時折、後ろからいいタイミングで援護の射撃が飛んで来た。

 一体どこから撃っているのかと振り返ると、茜は動く従鎧の肩の上で、弾を込めては銃を撃ってる。

 随分と器用で、無茶な真似をするものだ。


 あぁ、でもその無茶をさせているのは、他ならぬ俺か。

 しかし今は止まれなかった。

 俺が一体でも多くの白の妖を倒せば、その分だけ戦いは有利になって、その結果、討伐軍の被害も減るだろうから。

 もう少しだけ無茶に、付き合って欲しい。



「ちょっと翔、物凄く強いのはわかったけれど、流石に無茶し過ぎ!」

 空が白み始める頃、妖の攻撃は収まって、俺は無事に茜の文句に耳を傾ける事ができていた。

 討伐軍にどれだけの被害が出たのかはわからないが、討ち取った妖の数は圧倒的だから、初戦は間違いなくこちらの勝利だろう。


 俺個人としては、白の妖を十二体倒して九個の白の魂核を回収してる。

 無位や黒の妖を倒した数に関しては、流石にちょっと数えられてはいなかった。

 従鎧の上から鉄砲を撃ちまくる茜の姿もとても目立っていたから、初戦での武功は恐らく紫藤の、千鳥流の組よりも、武功は稼げている筈だ。

 もちろん白の妖を幾ら倒しても、紫藤達が赤や黄の妖を仕留めるような事があればひっくり返ってしまうから、本番はここからではあるけれども。


「取り込み中、すまない。君達の先程の戦いでの活躍に、大殿が会いたいと仰せだ。ついて来て貰えないか?」

 茜の文句が一段落したところを見計らったのだろうか、一人の兵、といっても鎧の感じからすると、兵の中では高位になる、武将の傍仕えと思わしき男が、声を掛けてきた。

 言葉遣いは丁寧で、態度にもこちらへの尊重が見て取れたが、けれども話の内容的に、恐らく拒否権はないだろう。


 大殿って言うと、……総大将である弘安家の領主か。

 前線で異様な戦い方をした俺の報告を聞いて、興味を持ったか警戒したか、そのいずれかなんだろう。

 まぁ、無理もない。

 そのくらいに目立つ戦い方を、今回の俺はしてしまっていた。


「わかりました。伺います」

 俺は兵にそう返し、額当てがズレていないかを触って確認する。

 いや、ズレてないのはわかってるんだけれど、万一にも角を見られると厄介な事になると、警戒心が働いたのだ。

 茜が本気で行くのかと言わんばかりに俺を見るが、断れないんだから仕方ない。

 今回、茜には無茶に付き合わせてばかりだが、埋め合わせは、白の魂核を売り払った金でする心算だから、できれば許して欲しいと思う。



「二人をお連れしました」

 兵に案内されて通された大きな天幕の中には、床几に腰を掛けた男と、腕の立ちそうな武将が四人、俺達を待っていた。

 床几に腰を掛けた男が弘安家の当主だろう。

 ここまで偉い身分の人と会った時の作法なんて欠片も知らないけれど、取り敢えずは案内の兵の真似をして、地に片膝を突き、顔を伏せる。


「あぁ、そこまで畏まらずとも良い。二人は我が家臣でもないのに、戦いに協力してくれてる身だ。しかもこちらから呼び立てたのだから、楽にして欲しい」

 当主の言葉に顔はあげるが、だからと言って姿勢を崩してその場で胡坐をかいだりはしない。

 作法はわからずとも、楽にしろって言葉が、好き勝手に振る舞っていいって意味じゃない事くらいは、わかってた。


 ……なるほど、これが弘安家の当主と、その上級家臣である武家か。

 顔を上げて、改めて確認し、腑に落ちる。

 武家の立ち居振る舞いから感じられる実力は、紫藤に近そうだ。

 実際にどちらの腕が立つのかは、流石にわからないけれど、彼らが大鎧を動かすというなら、そりゃあ間違いなく強い。

 動いてる大鎧はもっと数が多いから、ここにいる武家は多分ほんの一部で、特に腕が立つ強者なのだろう。


 そしてその武家を纏める当主は、言葉にもほんの僅かな動作にも、何とも言えない雰囲気と、圧力があった。

 あぁ、これが威厳というやつか。

 今まで何となく知っていた威厳という言葉の、真の意味がそ目の前で形を成している。


「鉄砲撃ちの茜。女ながらに戦いの場に出、意気を高揚させた働きは誠に見事。兵の間では評判になっておるそうだぞ」

 だがその威厳の主の態度は、あくまで柔らかだ。

 茜は褒めの言葉に顔を赤くして、

「身に余る光栄です」

 その言葉だけをどうにか絞り出す。

 緊張か喜びか、茜の胸中は俺にはわからない。


「そして、金砕棒の翔。そなたに問いたい。……そなたは一体何者だ? 耳にした戦いぶりは、おおよそ人の物ではなかったという。名の知れた武芸者の中にも、そなたの名前を聞いた覚えはない」

 声の調子はあくまで柔らかく、当主は俺に問う。

 それにしても、金砕棒の翔か。

 悪くないな。

 何時か名乗る機会があったら、それを使ってみよう。


「ここより南の地で名を知られし修験者、円行者の弟子、翔と申します。領都では、師が若き頃に学んだという双明寺にて、月影法師の教えを受けております」

 何者かと問われれば、その答えは何時も通りだ。

 今の俺には、自身で立てられる身の保証は何もない。

 まだ俺自身は、大した物事を成してはいないから。


 尤も南の地では知られた円行者の名前も、弘安家の当主の耳に入ってるとは限らないから、双明寺、月影法師の名も借りる。

 師の名前は知らずとも、領都にある双明寺の、月影法師の名前は流石に知ってる筈だ。


「おぉ、法師様に所縁の者か。人とは思えぬ戦いぶりも、修験者の術という訳だな。なるほど、これは頼もしい」

 案の定、当主は月影法師を知ってたらしく、その言葉には喜びの色が滲み出る。

 これで俺も、強大な武力を持つのに身元も知れぬ不審者から、頼もしい味方に早変わりした。

 実際には俺は術なんて一つも使えないし、さっきの戦いは、素の身体能力と、金砕棒の威力に任せた物だったけれど、わざわざそれを言う必要はないだろう。


「修業中の身ですので、これを振り回すしか能はありません。師には未熟と言われます」

 そう言いながら、俺は背中に挿した金砕棒の柄を軽く叩く。

 別に嘘はいってない。


 日々是修業ともいうし、月影法師から自然の理を学んでる最中でもある。

 金砕棒を振り回す事しか能がないのは紛れもない真実だろう。

 最後に師に未熟って言われたのは、もう何年も前の話だけれど、また言われる可能性だって皆無じゃないし。

 ただ、俺がどういう意図で言葉を発するかと、その言葉を相手がどう解釈するかは、全く別の話ってだけだ。


「相わかった。次の戦いでは、赤や黄の妖もでてくるだろう。危険は多いが、戦いが終われば働きに見合う褒賞は用意する。その方らの力、どうかこの地の民の為に貸して欲しい」

 当主の言葉に、俺と茜は、再び顔を伏せて首を垂れた。



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