表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼種流離譚~金砕棒でぶっとばせ~  作者: らる鳥
一章 蛟

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/46

22


 胴側の近くを走る道を通って南の山々に近付くと、その気配は明白だった。

 特に激しく雨の降るその山には、中腹辺りにこれまで感じた事もない、大きく強い妖の気配がドンと居座る。

 更に山中が、無数の妖の気配に満ちていた。

 これなら妖の気配を知ってる俺じゃなくても、山の様子がおかしい事は一目で感じられるだろう。


 討伐軍が山に近い村に入ると、村には誰も残っていない。

 避難したのか、一人残らず妖に食われてしまったのか。

 ……村には争った形跡や、血の跡もなかったから、恐らく避難したんだろうとは思うけれど、一体どこへ?

 少なくとも、ここに来るまでに通った道では、避難する村人とすれ違ったりはしなかった。


 こちらが妖の気配を感じているように、あちらも大勢の人の気配を感じているだろう。

 雨に打たれながらの行軍は、討伐軍の体力を大きく削ってる。

 俺は平気だけれど、多くの徒歩の兵の顔色は、あまり良くない。


 村の家や、天幕を張って雨を避けながら、討伐軍は交互に最後の休息を取った。

 大鍋で作られた暖かな汁物を啜り、寄り集まって眠る事で、どの程度の体力が回復するだろうか。

 明日には、妖との戦いがあるだろう。

 もちろん今夜、向こうから攻めてくれば、その予定は半日早まる。


 休息を与えずに攻めて来るか、それとも自分達に有利な山に籠るか、選択権があるのは妖側だ。

 討伐軍は、この雨を止めなければならない以上、向こうが攻めて来なければ、こちらから攻める必要があるから。

 胴川が溢れ出さないよう、月影法師を始めとする強力な術者が対応してるが、それも何時までも保つ訳じゃなかった。

 どちらが先に手を出すかの我慢比べは、討伐軍には許されていない。


 ただ個人的には、妖から攻めて来る可能性の方が高いと思う。

 何故なら、今回の群れを率いる蛟は、人への、弘安家への戦意がとても高いからだ。

 今、蛟は蛇巳丸の、正しくはその中にある、加工された青の魂核、同類の存在を感じているだろう。

 同胞を殺されたのみならず、人で言うところの心臓に当たる代物が、加工されて絡繰り人形を動かす動力にされていた。

 その様を間近で見せ付けられて、心中が穏やかであろう筈もない。


 俺は妖が今夜中に攻めて来ると当たりを付けて、少しでも体力を回復させておくべく、早々に食事を済ませ、横になって目を閉じる。

 もちろん茜を一人にしてはおけないから、彼女にもそれを説明し、隣で早めに休んでもらう。


 そして、敵襲を告げる声で目を覚ましたのは、それから数刻後の事だった。



 妖側の襲撃を受け止めたのは、討伐軍の大鎧。

 どうやら総大将、弘安家の当主も妖が攻めて来ると踏んでいたらしい。

 主力の大鎧を稼働させ、襲撃を待ち構えていたのだ。


 大鎧が敵を受け止めてくれたお陰で、徒歩の兵も慌てる事なく……、というのは流石に無理だけれど、混乱状態には陥らずに、戦闘態勢が整う。

 そうなると、次に戦うのは徒歩の兵の番だった。

 大きさが全く異なる為、大鎧のすぐ傍では、徒歩の兵は戦えない。

 踏み潰されるかもしれない恐怖の中で戦うのは、豪胆な武芸者であっても困難だ。

 故に徒歩の兵が前に出ると同時に、従鎧を残して大鎧は下がっていく。

 主力となる大鎧は、赤や黄の中級の妖、それから大妖の蛟を倒す為にも、あまり消耗はさせられないから。

 最下級の無位や、白や黒、下級の妖を倒すのは、徒歩の兵の役割だった。


 従鎧が残ったのは、徒歩の兵の支援の為だ。

 他の大鎧に比べると小さく、動きも然程に速くない為、従鎧からは徒歩の兵も巻き込まれないように逃げ易い。

 それでいて頑丈さは人とは比べ物にならないから、徒歩の兵の盾として大いに機能する。


 敵は、やはり最初は無位や、白や黒の妖が攻めて来ていた。

 今回の無位の妖は、濁りと呼ばれる類のもの。

 瘴気よりもしっかりとした実体のある妖で、基本的には親となった妖と、人を混ぜたような姿をしてる。

 親が蛟の眷属、蛇の妖である為、濁りの姿はまるで直立した蜥蜴のようだった。


 白や黒の妖は、人を簡単に飲み込めてしまいそうな大蛇。

 動き方を見ると、濁りが雑兵、黒は精鋭兵、白は前線部隊の指揮者といったとこだろうか。

 つまりこの戦いを有利にするには、白を討ち取っていくのが早そうだ。


 さて、確認も終わったし、そろそろ俺も行くとしよう。

「一当てするから、援護は頼む」

 茜にそう声掛けて、俺は地を蹴り高く跳ぶ。

 着地点は、近くにいた従鎧の肩だ。

 ここを足場に再度跳んで、無位や黒の妖の頭の上を飛び越えて、真っ白な大蛇目掛けて、金砕棒を振り被る。


 思えば、これを振るのも久しぶりだ。

 領都に辿り着いてからは、金砕棒に頼る場面なんて一つもなかった。

 きっとこれは、あんな風に人に混じって生きて行くなら不要な、強過ぎる力なんだろう。

 けれどもその強過ぎる力があってこそ、成せる事も確かにあるのだ。

 強過ぎる力にも、……俺にも、必要とされる瞬間はある。


 それが今、この時だった。

 遠慮は要らない。

 相手は妖の大軍だ。

 思いっ切りに、ぶっ飛ばせ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 妖相手だから手加減の必要はない→全力でぶっ飛ばすこと自体には何ら問題はないんですが……その力を見た他者が要らぬ嫉妬や恐怖を翔に見せないかはちょっと心配ですよね。戦場で…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ