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鬼種流離譚~金砕棒でぶっとばせ~  作者: らる鳥
一章 蛟

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「一緒に仕事をしたいとは言ったけれど、たった数日で、まさかこんな事になるなんてね」

 茜も知った顔を見付けて安心したのか、安堵混じりの苦笑いを浮かべ、そんな軽口を漏らす。

 そりゃあ鉄砲撃ちの彼女にしてみれば、妖退治に駆り出されるなんて、災難以外の何物でもないだろう。


「雨だけど、それ、撃てるの? 鉄砲は、妖には効き辛いって聞いたけれど」

 俺も軽口で返したいところだけれど、まずは戦えるかどうかの確認だ。

 茜に戦う手段がないのなら、どうにか生き残らせる手立てを考えなきゃならない。

 彼女とは出会ってからまだ間もないが、それでも一緒に何日も掛かる仕事をこなした仲である。

 窮地にあるのなら助けたいと思うにはそれで十分だった。


「心配してくれてありがと。雨でも撃てる仕掛けはあるよ。晴れてる時より撃つのに時間は掛かるけれどね。それに銀を被せた特別な弾を使えば、色付きの妖だって実は殺せるんだよ。……弾の値段はさておきね」

 隣を歩く茜は、俺の耳元に口を寄せて、小さくそう囁く。

 わざわざ俺にだけ聞こえるように言うとは、それは鉄砲撃ちの秘儀か何かなのだろうか。

 少なくとも、大っぴらにしたい事ではなさそうなのは、確かだった。


 でも、だったら俺にも話しちゃ駄目なんじゃないかと、そう思う。

 いや、確かに俺から聞いたんだけれど、まさか秘密のようなものを打ち明けられるとは思わなかったのだ。


「ただ、流石に今回は頼れる仲間が欲しいの。こんな大きな仕事だけれど、約束通りアタシと一緒してくれない?」

 頼み込むように言って来た茜に、俺は少し考え込む。

 組んで動くメリットはある。

 俺は前衛で、彼女は後衛。

 果たす役割が違うから、互いに上手く力を合わせれば、単独行動よりも何倍もの働きができるだろう。


 また男所帯の討伐軍の中で、女が一人で浮いているという状態も危うい。

 俺が傍にいる事で要らぬ厄介事が減るというなら、是非ともそうしたい所ではあった。


 しかし問題は、今回の俺は、全力で前に出て戦おうと思っている事だ。

 領都の人達に受けた恩を、戦いによって返す為に。

 そうなると、当然ながら危険度は上がる。

 不本意に駆り出された茜が、適当にこの戦いを乗り切ろうと考えているなら、俺達の姿勢は噛み合わない。


 だがその時、横から話に入って来たのは、

「お、翔はその嬢ちゃんと組むのか。じゃあ俺達と一緒は無理そうだな。お前と組むのも面白そうだと思ったが、そういう事なら仕方ないな」

 こんな状況でも何時も通りに自信に満ちていて、楽しそうな紫藤だった。

 確かに、彼と組むのは無理だろう。

 千鳥流の師範代である彼には、他の門下生という仲間がいる。

 同じ流派で磨かれた連携だって彼らにはあるだろう。


 そこに初対面の茜を連れて加わるのは、少しばかり差し障りがあった。

 紫藤はそうでなくとも、門下生の中には女であるからと彼女を侮る者もいるかもしれない。

 いや、まだ茜と組むと、はっきり決めた訳ではないんだけれども。


「その代わりと言っちゃなんだが、一つ勝負と行かないか? 俺が率いる千鳥流の組と、翔と嬢ちゃんの組、どっちが大きな功を上げるかの勝負だ。負けた方が勝った方に、何時もの酒肆で酒を奢る」

 けれども紫藤は、そんな俺の迷いなど気にもせずに、そんな事を言い出す。

 腕相撲を挑んで来る時と、全く変わらぬ何時もの調子で。

 つまり、彼もというか、千鳥流の組もまた、全力で前に出て武功を稼ごうとしているのだろう。


 ……尤も千鳥流の組は十人程いて、こちらは茜と組んだとしても二人きり。

 傍目には、とてもじゃないが成立しない賭けである。

 ただ紫藤の目は本気で、どうやら彼は人数の差なんて関係ないと考えるくらいに、俺を買ってくれているらしい。


「いいよ。面白いじゃない。でもさ、それならアタシも本気を出したいなら、こっちが勝ったら掛かった玉薬や弾の代金、そっちが出してよ。人数に差もあるんだしさ。負けたら、アタシが全員にお酌なりしてあげるから」

 そして紫藤に返事をしたのは、俺じゃなくて茜だった。

 しかもそのまま賭けに乗る訳じゃなくて、追加の条件まで出している。

 どうやら、紫藤だけじゃなくて、茜まで俺を大層に買ってくれている様子。


 彼女の前でそこまで実力を晒した覚えはないから、もしかすると彼女は自分一人で千鳥流の組を越える武功を稼ぐ心算なのかもしれないが……。

 いや、まさか、そこまで自信があったりは、流石にしないと思う。


「はぁ、なるほど。翔、良い仲間を見付けたなぁ。こりゃあ大したタマだぜ。嬢ちゃ、いや、名前を教えてくれないか? お前さんの事は、ちゃんと名前で呼んでおきたい」

 二人の間で、既に賭けは成立したらしい。

 俺は何も言ってないんだけれど、今更口を挟める気もしないから、まぁ、いいか。

 たとえ負けたとしても、十人に酒を奢る程度の蓄えはある。

 とはいえ、俺を信じて賭けに乗った茜が、酌をさせられるというのは、何とも腹立たしく思うので、負ける心算は欠片もないが。


 何にせよ、俺が茜と組む事に、もう問題はなさそうだった。




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