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鬼種流離譚~金砕棒でぶっとばせ~  作者: らる鳥
一章 蛟

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 双明寺の光念はとても良くしてくれていた。

 もちろんそれは、月影法師から俺の世話をするようにと言われてるからではあるのだろう。

 ただ彼は、やはり元々面倒見のいい性格なのだ。 

 光念の世話には、言われてやっているだけでは出てこない、細かな気配りと優しさが滲む。


「おぅい、湯加減はどうだ? 薪は足すか?」

 例えば、こうして風呂に入ってる時なんかは、毎回湯加減を聞いて、薪を足しに来てくれる。

 湯加減は、俺はかなり熱めが好きだから、ちょっとぬるく感じるだろうか。

 まぁ、ここに来るまでは、風呂と言えば山奥に沸いた秘湯に浸かったりするくらいで、湯加減なんて言葉とは無縁に生きてきたんだけれども。

 今は実に贅沢をしてるなって、そう思う。


「ちょっとぬるいかな。熱くしてくれたら嬉しい」

 俺は外で火を見ているのだろう光念に答えを返す。

 今は鉢金を付けてないから、木窓の外から俺の顔が見えないように、そちらに背を向けながら。


「そうか。じゃあちょっと足してやる。なぁ、翔、今日はどうだった?」

 互いに年が近いからか、俺と光念が打ち解けるのは早かった。

 彼は何かと、こうやって俺の話を聞きたがる。

 その日、町であった事だけじゃなくて、これまで俺がどんな風に生きて、師からどんな修業を付けて貰ったのかにも興味がある様子。


 好奇心が旺盛なのは三宝教の僧の特徴なのかもしれない。

 何しろ難解な教えを読み解く事を目標に生きる者達なのだから、生き方からして好奇心の塊だ。

 僧ではなく修験者だが、師にもそんなところがあった。

 見知らぬ草を見付けると、あれこれ念入りに安全を確かめてからではあったけれど、最終的には口に入れて味をみてたし。


 ……食い意地が張ってるだけでは、ないと思う。

 だって美味いものが食べたいのなら、師の能力があればこうして都で暮らした方が、好きに贅沢ができた筈だ。

 あんな風に山野に籠って生きるのは、そうする事で得られる何かを重視していたから。

 その何かが、何なのかは、山野に籠って過ごした俺にもわからないんだけれども。


「酒肆の用心棒の最中に、紫藤のおっさんに腕相撲を挑まれたから返り討ちにしたのと、帰りに迷子を見付けたから家に送り届けてやったくらいかなぁ」

 実は他にも、賭け札のやり方を教えて貰ったりしたのだけれど、光念に言うと叱られそうだから伏せておく。

 流石に仕事中に賭け事をする訳にもいかないから、教えて貰っただけで賭けてはいない。

 賄い飯で出された鶏の足が美味かったなぁとも思うけれど、これも聞かせるだけ毒になる話だろうから、黙っておこう。


「翔、紫藤様をおっさん呼ばわりするのは気を付けろよ。千鳥流の門人には士分の方もいらっしゃるんだからな。でも迷子は、良い事したな」

 光念は、やめろとは言わずに気を付けろって注意してくれる。

 それは俺と紫藤の関係には過剰に口を挟まないように、けれども万一の不幸がないようにと、釣り合いを考えての発言なのだろう。


 確かに、武芸を教える千鳥流の門人には、弘安家に仕える家臣もいた。

 彼らはこの領都では高い身分の人達だが、道場内では師範代の紫藤を敬い、目上としている。

 その紫藤に対して酒肆の用心棒が対等な口を叩いていると、そりゃあいい気はしないだろう。

 光念の言葉は全く以て正しい。


 ただ、紫藤が酒の席では堅苦しい態度を嫌うから、俺の言葉遣いが許されているというのもあるから、やっぱりそこは難しいのだ。

 腕相撲とはいえ紫藤に勝ってる俺に、千鳥流の門人も一目置いてくれているし。

 でも逆に言うと、俺なんかと腕相撲やらで遊んで、しかも負けたりしてる事で、紫藤の道場での評判が下がらないかは、少しばかり心配であった。


「後は、町で鉄の値段が上がってるって聞いたな。戦でも起きるんだろうかって、商人が心配してた」

 話題を変えて、俺は町で聞いた噂話を口にする。

 物の値段が上がる理由は色々あるけれど、単純に考えると需要が増えたか、供給が減ったかだ。

 そして鉄は武具の材料となる為、その需要が増えるなら、戦が近いのかもしれないって予想が立つ。


 ちなみに供給が減ってる事も考えられて、その場合に有力なのは、内洲(うちしま)の状況の悪化だった。

 八洲は扶桑を中心とした八つの島からなるけれど、その全てが人の支配する場所という訳ではない。

 八つのうち、扶桑に近い内側の三つの島を内洲、外側の五つの島を外洲(そとしま)と呼ぶのだが、この内洲は人の手があまり及ばない場所なのだ。


 というのも、外洲は比較的平野が多く、人が住むに適しているのだが、内洲は逆に平野部が殆どなく、自然の険しい場所ばかりで、人を拒んでる。

 また大昔に怪物の息を直接受けて変容したとされる大妖も、その殆どが内洲を住処としており、妖の勢力が外洲の比ではないという。

 しかし自然が険しいという事は、同時に資源の豊富さを意味し、それらを得る為に人は内洲にも拠点を築いていた。

 弘安家も内洲に資源を採掘する為の拠点、町を幾つか築いているそうだが、或いはそれ等に何かの異変があって、鉄の運び出しが滞っているのかもしれない。


 俺も、今は口入屋から領都内の仕事を貰っているけれど、もう少し実力が認められれば、内洲へと行くような仕事も回って来るようになるだろう。

 危険も伴う仕事だから、もちろん断っても構わない。

 だが話が来たら、俺は引き受ける心算だった。


 領都は珍しい物だらけだが、他の島、それも内洲ならばもっと見た事のない何かが俺を待っている筈だ。

 それに妖が多い地であるならば、俺の力で救える、困ってる人だって、きっと多くいるから。


 まぁ、もう少し、領都でも知りたい事はあるので、それが終わってからにはなるだろうけれども。



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