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人が多いってのは、色んな人がいるって事だ。
善人ばかりでなく、悪人も多ければ、腕が立ちそうな武人もいる。
例えばさっき前を通った時にちらりと覗いた酒肆では、店の用心棒よりも酒を飲んでる客の方が腕が立ちそうな佇まいだった。
その酒を飲んでいた客とは、ちらりと目が合ったから、恐らく俺の視線を察したんだろう。
当たり前のようにそんな強者が町にいるなんて、実に面白い場所だ。
武家、武士って風体ではなかったし、腕自慢の武芸者だろうか?
他にも人間ではない人もいる。
今しがたすれ違ったのは、獣人と呼ばれる半獣半人の種族。
いや、半獣半人とは言っても、耳や手の形が特定の獣に近かったり、毛深かったり、尻尾がある程度で、パッと見るだけなら殆ど人間と変わらない。
他に特徴といえば、身体能力に優れる事だろうか。
八洲には、人間以外にも六つの人の種族が住んでいる。
その全てが、天の神々が八洲の地に蒔いた人の種から生まれた種族だ。
一つは空人で、背中に羽の生えた種族。
彼らは他の人よりも天に近いところに生きるからと、他の種族を見下しがちだという。
空人の中でも選ばれた者は、扶桑の木の幹に暮らすらしい。
八洲にのみ存在するとされる種族だ。
二つは地人で、地に穴を掘ってその中で暮らす種族。
手先が器用で物作りに長け、肉体的にも頑強だが、背丈は人間よりも幾分低かった。
八州の外ではどわぁふと呼ばれているそうだ。
三つは小人で、一尺か二尺程しか背丈のない、小さな種族。
しかしその小さな身の丈とは裏腹に、遥か遠くを見通す千里眼や、未来を見通したり、手を触れる事もなく大きな岩を動かしたりと、様々な不思議な能力を持っているという。
小人も空人と同じく、八洲にのみ存在するとされる種族である。
四つは海人で、海辺、または水中に暮らす種族。
普段の姿は人間と変わらないが、水に入るとその身体は鱗に覆われ、水中でも自在に動く。
海人も、空人や小人と同じく、八洲にのみ存在するとされる種族だ。
五つは獣人で、さっき説明した通り。
八洲の外では獣人と呼ばれ、人扱いをされず、激しい差別を受けている地域が多いという。
六つは森人で、森に暮らす種族。
自然の理に対する理解が深く、彼ら独自の術を使い、また他の種族よりもかなり長く生きるらしい。
八洲の外ではえるふと呼ばれているそうだ。
これに人間を足して、計七つ。
七つの種族が同じ人の種より分かれ、この八洲の地に暮らす。
ただ、その中で最も栄えているのは人間だ。
というのは、根の国から怪物が這い出て来た時に、人間が最もその息の影響を受けなかったからだという。
空人から天狗が、地人からは土蜘蛛が、小人からはダイダラが、海人からは人魚が、獣人からは犬神が、森人からは木霊という妖が、それぞれ怪物の息を受けて生まれた。
彼らは己から生まれた妖とその眷属を激しく憎み、争い続けている為、人間程には栄えなかったのだとされている。
これまでに俺が会った事がある種族は、地人と小人と森人の三つ。
実は意外と多いのだ。
師と一緒に山野に籠って修行をしていると、人間以外の種族の里の近くを通る事もあったから。
ただ獣人を見るのは初めてで、すれ違っただけだから、その姿を良くは確認できていない。
少しばかり気になったが、今の俺には向かう場所がある。
まぁ、縁があればさっきの獣人に会う事もあろうし、或いは別の獣人の知己を得る場合もあるかもしれない。
一人いたなら、二人三人と、集まって暮らしていてもおかしくはなかった。
辺りを、きょろきょろと見回しながら歩いていると、田舎から出てきたばかりのカモと思われたか、すれ違いざまに懐に伸びてくる手もあったけれど、それに気付いて躱すくらいの実力はある。
捕まえる事もできたけれど、あまり領都を知らぬ今の段階では、余計な揉め事は起こしたくない。
そうしながらも暫く進めば、侍町が見えてきた。
侍町も外に近い辺りは弘安家の下級家臣が住む場所だから、見える範囲は長屋がずらっと並ぶ。
目印は、町を流れる水路と、そこに掛けられた橋だ。
ここを渡れば侍町に入ってしまう。
確か、侍町には入らずに、西に行けって言われたっけ。
領都は大きく栄えてるだけあって、寺社町も幾つかあるそうだが、目的地である双明寺があるのは西側にある寺社町らしい。
寺社町とは、三宝教の寺と、天教の社が集められた場所である。
つまり人の信心が集まる場所だった。
信心は、それなりにお金も連れて来るらしく、寺社町に入ると辺りの建物はどれも立派だ。
敷地は塀に囲まれて、複雑な造りの高い塔も建っている。
あぁ、そういえば煙管を吸ってた男は、高い塔が双明寺の目印だと言っていた。
双明寺の双明とは、空に輝く二つの明かり、太陽と月の事らしい。
あの塔は、この八洲の地にも大きな影響を及ぼす太陽と月の動きを、より詳細に観察する為の物だと思う。
それが三宝教の言う教えを読み解き悟りに至るのに、どう役立つのかはわからないけれども。
いずれにしても他に高い塔は見当たらないし、あれが双明寺に違いない。
師が言ってた通りに訪れてはみるけれど、さて、果たしてあそこは俺を受け入れてくれるだろうか。




