序章
弱者は強者の糧となり、強者もいずれ朽ち果て、小さき命の糧となる。世界は連鎖的な共依存で成り立ち、命は互いに何かを与え合う。良くも悪くもそれが真理で、平等で、そして残酷だ。永遠はなく、無常に世界は変わり続ける。死は生を呼ぶ。逆も然り。
世界を前に、命はいつだって平等に、脆く、儚い。しかして、その価値は計り知れない。命は世界に産み落とされる前も、屍となった後も意味はある。それもまた、真理なのだ。無慈悲で、理不尽で、残酷な世界の中で、その存在を示すからこそ、命は美しいのだ。
世界を知り、人は何を思うだろうか。
世界を旅することに意味はあるのか。
この本は言わば、その答えに近づくための鍵だ。ちっぽけな少女が世界を知るために、獣のような男が自分を知るために世界を旅する。どこにでもある、ただの冒険譚だ。
しかしてそれは、何ものにも変えがたく、彼らだけの物語。これを開くのに大した理由はいらない。"興味があった" ただそれだけでいい。この物語が答えになるかは分からないが、確かに彼らは世界を旅し、世界を知った。その全てを今から見るとしよう。
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〜前置き〜
「こら、アイラ!勝手に外に出ちゃダメでしょ。」
「お母さん、どうして外に出ちゃダメなの?」
「外にはね、とーっても恐ろしい化け物がいーっぱいいるんだ。危ないから、絶対出ちゃダメだよ。」
「…」
どうしてだろう。外の世界がどうなってるかまだ見たわけじゃない。本当の世界をまだ知らない。もしかしたら、自分たちのように人がいるかもしれない。可能性は山ほどあるのに、それに手が伸ばせない。知りたい。けど触れない。そうして、胸には蟠りだけが残った。
太陽が、月が、星が羨ましかった。何不自由なく、外の世界からやってきて、明後日の方へ沈んでいく。自分の見たことのない景色をいつも見ているはずなのに、不親切にも教えてくれなかった。
もし叶うなら、いつか村の外へ…。そんな夢も、月日が経つにつれて、幻想だとして無理やりに呑み込んだ。結局、自分はこの閉ざされた花園で生きて、死んでいくのだと。そんな日常も全て、あの日、あの人に出会ったことで全てが変わったのだ。
そう、あの人は獣だった。自分の存在の意味をずっと探している独りぼっちの獣。だから、私は彼に頼んでしまった。"私をここから解き放って"。もちろんあの人は、断った。足手纏いだと。そんなあの人に私はこう言った。
"なら、あなたの生きる意味を私も一緒に探してあげる"と。今思えば、あれは完全に無茶だった。出来っこなかった。それでも、そう言わなければ、きっと私は村の中で一生を終えてたし、あの人も自分の存在の意味を見つけられなかった。今、こうして書いているこれも、全てはそれから始まったのだ。
さて、前置きが長くなってしまい、申し訳ない。
これから記すのはあの人と過ごした旅の記録。
ただの村娘だった私と
かつて獣であった旅人との
ちょっとした冒険譚だ。
〜シュタインバーグの冒険譚〜
ほんとに書くのはもっと後ですけど、もしよろしければ、是非とも読んでください。