4. ゆめうつつ-現-
あるとき、少女が一人尋ねてきた。
実に奇妙な少女だった。全身をフードで覆い隠して、口元だけで笑みを浮かべていた。女だと分かったのは単に声が高かったからに過ぎない。
何より奇妙だったのは、少女の姿が異様だと、彼女がいなくなってようやく、“初めて”気づいた事。
彼女は名を『マリア・アレギア』と名乗った。今思い返すと本名かどうかも怪しいが、其れが自分の中でマリア・アレギアであることに変わりはない。
マリア・アレギアは言った。
「私ですか? 私はマリア・アレギア。世界の平和とありふれた人の幸福を願うただの――小さな魔法使いです」
と。
また、
「貴女は不幸ですか?」
と。
「一欠片の微笑は必要ですか?」
と。
途中の会話は覚えていない。あったかもしれないし、なかったかもしれない。何よりマリア・アレギアに会った事自体が自分の中では白昼夢ではないかと疑うほどにあやふやなものになっている。
「さあ、貴女の願いは何ですか?」
寒いの。とても、寒い。
――誰か、助けて
「貴女に幸あらん事を」
もしかすると本当に夢だったのかも知れない。ただそんな事があった。それだけの事。
そして、その夜一人の少年が尋ねてきた。
◇
◇
そして騎士王は、彼女の物語はこうして始まりを迎えた。