2-13.魔物と兄 1
オーガを倒したお祝いに外食に行こうと竜輝さんは言っていたが、贅沢を過ぎるのは良くない。
ただせっかくなので、夕飯はハンバーグにした。牛肉百%のいつもよりも贅沢なハンバーグだ。
この豪華さは竜輝さんも知っているようで、スーパーで牛肉だけ買ったときに驚いていた。
外食よりも安いのに、竜輝さんは不思議な金銭感覚だ。
付け合わせも作って、後は焼くだけ。そんなタイミングで突然電話の音がした。うちに電話をしてくるのはお母さんかお兄ちゃんくらい。
どっちかなと思いながら、手を洗って急いで受話器の元へと向かう。
「もしもし。羊川です」
「もしもし。真白。俺」
受話器に話しかけるとすぐにお兄ちゃんの声が聞こえた。
「お兄ちゃん。どうしたの?」
「じ、いや、その前に、リンドヴルムも一緒の方が良いな。リンドヴルムとも話せるか?」
竜輝さんに用事? 挨拶かな? ……あっ。お兄ちゃんに紹介をするタイミングを逃していた。家に住んでいるし、挨拶くらいはした方が良い。とりあえず竜輝さんを呼ぼう。
「ちょっと待ってて。竜輝さん。お兄ちゃんと挨拶して貰ってもいいですか?」
保留ボタンを押して、受話器を置き、竜輝さんに声をかける。
「はい」
直ぐにとても明るい竜輝さんの声が聞こえた。こちらに来る様子も心なしか嬉しそうで、そのままお兄ちゃんと話して良いか不安になる。
「真白。お待たせしました」
「あっ。はい。保留、解除しますね」
「はい」
竜輝さんの言葉で保留解除とハンズフリーのボタンを押した。
「お兄ちゃん。お待たせ。聞こえる?」
「ああ。聞こえてる」
「お兄様、ご挨拶が遅れました。真白さんと一緒に暮らしている竜輝と申します。よろしくお願いいたします」
「リンドヴルムさんでしたね。はじめまして。羊川蒼斗です。あなたのお兄様じゃないですよ」
お兄ちゃんが私よりも早く否定した。棘のある言い方が気になって、そっと竜輝さんは特に気にしている素振りは見せなかった。と言うか聞いていなさそうだ。
「お兄ちゃん。竜輝さんの挨拶が遅くなってごめんね」
なんとなくこの気まずい状況を終わらせたくて、言うとすぐにお兄ちゃんに声が聞こえた。
「いや。それは良い。それよりも本題に入るな。真白。俺の事務所に来ないか?」
お兄ちゃんの事務所? お兄ちゃん。お給料の良さそうなお仕事だったけど、アイドルのマネージャーさんをやっていたんだ。
「お兄ちゃん。アイドルのマネージャーさんなの!? だれ、いや、あっ、す、凄いね!」
「なんで最初に出るのがマネージャーなんだ。まっ、いーや。お前が知っているヤツもいるぞ」
「え?」
「キリヤ」
キリヤ? なんでお兄ちゃんがキリヤさんと一緒なの?
「なんで! どうやって」
「まぁ。それも後でな。ってことで本題だ。キリヤと同じ事務所に入らないか? ついでに俺がサポートする」
キリヤさんと同じも気になるけど、それよりもお兄ちゃんのサポートだ。お兄ちゃんにはいっぱい助けて貰っているけど、これ以上甘えるわけにはいかないし。
今までと同じじゃだめだなのかな?
「今まで通りじゃだめなの?」
「お前さ。もう少し深刻に考えろ。登録者四百万人にリンドヴルム。片手間のサポートでなんとかなるわけないだろう」
言葉にすると凄いんだけど、今までと変わらずに配信が出来ているので、あんまり実感が湧かない。
「そっか」
「わかってねーな。今、連絡パンクしてるだろ」
「えっ、あ、確かに」
スマホには電話が来ないようにしてもらっているし、メールも何かの依頼のメールがたくさんで大事なメールが埋もれていた。
「その邪魔なメールを事務所でどうにかするって所だな。ちなみに番号とか変えてもまたパンクするぞ。自分でやろうとは考えない方が良い」
「え、そうなの?」
「当たり前だ。とりあえず母さんとは簡単に連絡がつくようになるのが事務所のサポートの第一目標」
「そっか。だったら事務所に入った方が良いんだね」
考えなきゃいけないんだ。って私が勝手に決めるのも良くない。そっと竜輝さんを見ると真剣な表情をしていた。やっぱり簡単にはいって言わない方がよさそうだ。
「って、簡単に納得されても困るんだけどな。真白も状況わかっていないみたいだし、顔をあわせて話をした方が良いだろ。空いている日はあるか?」
事務所とかどうすれば良いかわからないし。まずは一番信頼が出来るお兄ちゃんと話がしたいな。
小さく息を吐いてから、竜輝さんを見る。真剣な表情で、簡単に言ってはいけないのはわかる。
「竜輝さん。お兄ちゃんとお話ししても構いませんか?」
それでもはっきりと竜輝さんに言う。
緊張しながら竜輝さんの言葉を待っていると竜輝さんが優しい表情で微笑んだ。




