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第四話




あの日から1週間が過ぎた。



ローガンはあの後、無事に魔塔に帰還できたようだった。


かく言う私は、ルーカスの"監禁ルート"に入れられたと思っていたのだが、まさかの隠しルートだからか、監禁までとはいかない言わば"軟禁状態"だった。


しかし監禁よりはまだ束縛が緩いだけであり、やっている事はそのルートと何ら変わりはない。




「ロゼリア、今日は夜に帰ってくるね。……逃げ出そうだなんて思ってはいけないよ。」


「……わかってる。」




これは私がここに寝泊まりするようになってから、朝、ルーカスと別れる時に話すお決まりの台詞だ。




「愛してるよ、ロゼリア。」



「……私もよ。」





そう言って私の唇に口付けを落としたルーカスは、執務に向かう為に自分の寝室兼、私を"軟禁"しているこの部屋を出て行った。





「はあ……。」





ルーカスが出て行った後、鏡の前に映る自身の身体を見たロゼリアは思わず溜め息を漏らした。




私はこの1週間、ルーカスの部屋に寝泊まりさせられている。

そして夜になると、必ず皇太子に本番行為までとはいかないが身体を触られたり、性的な接触を強要されている。



それなりに私への愛は持ち合わせているようで無理矢理襲ったりはされず、服を肌けさせるくらいで、下着も着用している。

そんな姿の私をベッドに組み引いて、キスマークを施したり、歯形を残したり、やりたい放題だ。


しかし性的な手つきで身体を触ったり、焦らすだけ焦らしておいて、本番はしないで終了、という焦らしプレイなのだ。

正直たまったもんじゃない。




一応、私にも恥はある。

下着姿を見られたり、身体を触られたりするのは勿論、普通に恥ずかしい。


それに恋人のローガンとも、まだそういうことはしていなかったのに、まさか恋人よりも先に幼馴染に身体を見られたり触られたりするとは、流石の私も思ってはいなかった。




(さすがに処女はローガンに捧げたいのだけど……。)




連日の接触で胸の上や、太腿の内側の際どいところにまでキスマークや歯形がびっしり付いている。





(もし顔見知りにこんな痕を見られたりしたら…。)





私はそれが怖くて用意された服の中から、できるだけ露出の少ないものを選ぶ日々だ。



それに何が最悪なのかって、強引な行為でもやはり正直、気持ち良さが勝ってしまうことだ。

それでも終わった後、




(何をやっているんだろう、私は…。)




こうやってめちゃくちゃ後悔する。




因みに"軟禁"に関して言えば、皇宮内ならどこへ行ってもいいらしく、ある程度の場所はお墨付きをもらっている。

図書室で本を読んだり、部屋の中でゴロゴロしたり、美味しいものを食べさせてもらったり、中庭を散歩したり、馬小屋へ行って乗馬を楽しんだりもした。


案外、夜の接触以外は特に不満がないくらい意外と悪くない日常を送っている。





「ローガン、元気にしてるのかな…。」





私はただただこの広くて狭い檻の中で、大好きな彼を思い浮かべることしかできなかった。






そんな私は身支度を済ませ部屋を出ると、最近は退屈凌ぎによく騎士団の訓練を観に行くのだが、今日もそうする事にした。


何故ならそこには学園に通っていた頃からの友人がいるからだ。

彼は現在、騎士団長として腕を振るっている。


そこにはオレンジ色の短髪に、右の目元に縦の傷が入ってる、強面だがイケメンで、ローガンに勝る完成され引き締められた肉体美を持つ、ライオス・バセットという男がいる。



ライオスも攻略対象者の1人だ。

そしてヒロイン、リリアーナに惚れている人物の1人である。

直接本人から聞いたわけではないのだが、ヒロインと接する時のその視線や仕草が、彼女への好意を物語っていた気がする、というただの私の憶測だ。


だからか、普通にただの友達としての距離感、または兄妹同士で戯れ合う時の距離感でよく私に話しかけて来てくれていた。



そんな彼だから、私はこの皇宮の中の数少ない貴重な話し相手として、ライオスをとても重宝していた。


私が訓練場に姿を見せると、まだ視界に入っていないのにも関らず、ライオスは何故かいつもすぐに気づいてくれる。




「ロゼリア!」



「あら、さすがねライオス。どうして私が来た事がすぐにわかるの?」



「うーん…ロゼリアだからかな?」



「もう!茶化さないで!」




全く、この人はいつも私を茶化して来て話にならない。

多分、ライオスはこの帝国で数少ないオーラマスターの1人だから、オーラとかそういうので周りに人がいるのを知ることできるんじゃないだろうか、と勝手に予測をしていた。



そうして最近は練習の邪魔にならない程度の隙間時間に、彼と色んなことを話している。





「いつも来てしまってごめんなさい。訓練のお邪魔かしら?」



「いいよ別に。俺たちだって護衛や見回りの業務以外はこうやって訓練してることくらいしかないんだし。」



「意外と暇を持て余してるのね。」



「こんだけ人数いるとな。………まあ、仕事に手は抜かないけど。」




それが嫌に真剣な声だった。

ライオスは学園にいた頃から騎士になるために、暇があればいつも剣を振っていた。

そのくらい、いつも騎士になることを夢見ていたし、騎士になってから会っても仕事の話ばかりしていた。

私は夢を叶えて伸び伸びとしている、そんなライオスに会うのがいつも楽しみだった。

そんな努力家で一途なライオスを知っていたから、騎士団長になった時、それが当然の事だと思った。

ライオスだからこそ、騎士団長に選ばれたんだと。



「自分で言っといてなんだけど、これ職業病ってやつかな?」



あはは、と困ったようにライオスは頬を掻きながら笑った。

多分、騎士団の部下達に何か言われたんだろうか?

彼の努力家で仕事の事をよく考えているところは良い面として捉えられることもあれば、逆に遠目に見られてしまうこともあるのだろう。


私はライオスを元気づけたかった。





「違うわ。貴方だからでしょう?」



「え?」



「騎士団長だからじゃないわ。きっと努力家な貴方だからそう思うのよ。」




ライオスは驚いたような顔をした後に、素直に褒められて照れたのか、頬を僅かに赤く染めていた。




「…俺の事を買い被りすぎじゃねえか?」



「いいえ?貴方はとても芯の通った人だって、少なくとも私はよく知っているわ。だから全然買い被りでも何でもないわよ。」





さらに照れたライオスは、先程より顔を真っ赤にさせた後、そっぽを向いてしまった。





「........お前も、」



「ん?」



「ロゼリアも優しくて真っ直ぐで、良い奴だって俺は知ってるよ。」



「…ふふ、ありがとう!」





私は思わず笑みを溢した。

いつもは逞しくてカッコよく見えていたライオスの、ちょっと意外な一面が見れて、何だか今日は彼が少し可愛く感じた。




「そういえばロゼリア。この後は何処か行くのか?」



「んー…図書室で本を借りて、その後は部屋に帰ってゆっくり読もうと思ってるわ。」



「護衛としてついて行ってやろうか?いくら皇宮と言っても、人はそれなりに出入りしている訳だし…。」



「ありがとう。けど大丈夫よ!どうせ借りたらすぐに戻るつもりだから。」




先程までそっぽを向いていたのに、すぐに相変わらず優しいままの彼に戻って、思わず笑みを浮かべながら彼に感謝した。




「また明日も来るのか?」



「貴方が良ければ、また来ても良いかしら?」



「それは勿論いいけど…。」




しかしここ3日連続くらいでやってくる私を流石に不思議に思ったのか、ライオスは私に尋ねた。




「なあ、ロゼリア。ずっと聞こうと思ってたんだが、お前はなんでここにずっと留まっているんだ?」




質問としては当たり前のものであったが、その言葉に何も返事を返せなかった。



私にはここにいる理由が"ない"から。



ルーカスに脅されていると馬鹿正直に答えれる筈もなく、そう言う事を考えていたから余計に返事を返すタイミングを無くしてしまった。


そして何となく、ロゼリアから言いたくない気持ちを感じ取ったのか、ライオスはそれ以上、詮索して来なかった。


そうしてくれたライオスの優しさに有難く乗らせてもらうことにした私は、その後の話をごく自然に別の話題へと変えたのだった。








そしてその日の別れ際、ライオスにこう言われた。



「あのさ、言いづらい事とかあるかもしれないけど、言いたくなったらいつでも話してくれよ。俺はどんな時でもずっとお前の味方だから。」



そう言って大らかに笑った懐の大きなライオスの言葉は、ルーカスに軟禁されている事を誰にも話せない今のロゼリアにとって、すごく温かく感じた。


その彼の温かさが、この檻の中で凍っていたままの私の心に沁みて、思わず瞳に涙を浮かばせた。





「ごめんなさい。………ありがとう。」





私は友人としてライオスのこういうところが、すごくすごく好きだったのだ。



だけど、だからこそ私は彼のその優しさに縋る事はできなかった。



その時ライオスと私の間に通った優しい風が、私の薔薇のように赤い髪だけを攫ってサワサワと揺れていた。






まるでそれはこれから起こることへの警鐘のように。



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