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第二話






思えばここまで長かった…。

この世に生まれ、転生した後、僅か5歳の時に今や幼馴染となった皇太子ルーカスと小公爵ルドルフと出会った。


その後、学園に入りヒロインであるリリアーナ、現魔塔主ローガン、現騎士団長ライオスに出会い、その関わりで現大商人リオルガ、現大神官レナードという順にそれぞれに出会った。


出会った当初はみんな学生の身であったり、見習いや下っ端という位置だったため、今の地位にはいなかった。


しかし皆それぞれ成長していく内に、気づけば全員知らぬ間に大物になっていた。



(((私以外…許せぬ…。)))



ヒロインであるリリアーナとはなるべく良き友で居つつ、ちょうどいい距離感でお互い接しながら、私は彼女の動向を見守っていた。


何故だかルーカスみたいに私に好意を寄せてくる人はいたが、そこは上手いこと交わしながら、ローガンには積極的にアプローチするという大変な日々を乗り越えて来たのだ。


その結果、私の努力は身を結び、晴れて私はローガンと付き合うことになった。



そして今日は先ほど話したルート終盤のシナリオの日。



ローガンと私が付き合っていることを私の幼馴染であるルーカスとルドルフに打ち明ける日なのだ。


しかし残念なことに、ルドルフはちょうどこの国の宰相代理として隣国へ出向いていたため、今日はいなかった。


代わりに今日はルーカスにだけ打ち明けることになった。





…はずなのだが。





突然、隣に座って紅茶を嗜んでいたはずのローガンが、目の前の机に突っ伏すように倒れ込んだのだ。




「ローガン!?」




私は急いで隣に座っていたはずのローガンを確認した。

体をぐったりさせながら机に突っ伏し、顔は青ざめ汗が滲み出ていて、吐血したのか、口端には少量の血の跡が見られた。




(どこからどう見ても普通じゃない...!)




私はローガンの意識があるかを確認する為に、彼の背中に軽く手を当て、極力刺激しない程度に肩を優しく揺する。




「ローガン?!どうしたの?!一体何が….」




すると彼は辛いようだが意識はしっかりあったようで、目を開け、振り絞ったような声で唇を噛み締めた。

何故か、目の前のルーカスを一心に睨んだ。




「....ッこれは…毒か…!」



「え…?毒…?!」




毒と聞いて私は"まさか…"と考え得る最悪の筋書きを想像した。



それは私が唯一、最後まで攻略できなかった、できれば一番避けたかった隠しルート。


その一番最初のプロローグだけを私は覚えていた。



タイトルは確か「ティーカップと毒」



これは間違いない。

記憶を遡る限り、それ以外のルートに毒を使う演出はなかった。


しかも今のこの状況にピッタリなそのタイトルに、ざあーっと血の気が引いて、背筋を嫌な汗が伝う。


これから起こり得る恐怖に身体が竦んだが、ローガンが毒を盛られた以上、何もしないわけにはいかなかった。

私は黙したまま微動だにしない、不自然なルーカスに怯えながら声を掛けた。




「殿下!これは一体どういうことですか?!」





声を掛けられたルーカスはロゼリアの声に顔を上げた。





……が、その顔は真顔だ。





私が今まで見て来たルーカスの顔の中で、一番恐ろしくかつ、静かな顔をしていた。





ルーカスは恐ろしく凪いでいた。






いっそ不自然なほどに。

私達がその顔に得体のしれない恐怖を覚えるほどに。

その美しい顔がより一層、その恐怖を引き立てていた。

ルーカスは充分な間を取りながら、ゆっくり、ゆっくり口を開いた。





「ローガン。君とロゼリアが付き合っていることくらい、僕はずっと前から知っていたさ。」





その声は凍てつくほどに冷たかった。

ルーカスは光属性の魔法しか使えないはずなのに、まるで氷魔法を使ったかのように急に部屋全体の温度が下がったように感じられた。

私達はルーカスの尋常ではないオーラに気押されて、言葉を詰まらせた。





「何で……ローガンに…、毒を持ったのですか……?」




「僕以外の男が君と恋人になるなんて許せないからだよ。」





ルーカスの性格はローガンと違って、紳士的で誠実だ。

しかしその中には時々、腹黒いところがある。

私は良くも悪くも彼の皇太子としての誠実なところに助けられたし、救われたりもした。

しかし今やその面影は見る影もなく、ルーカスはとても冷ややかで、何を考えているのかわからない。




今日は一段と様子がおかしい。




まるでルーカスの心とは別の何かが、彼の心に巣食っているかのように。


その時、ローガンが隣で苦しそうに血を吐いたのを見て、私はそんな事を考えている場合ではない事を改めて実感した。




「ローガン!」



「……ロゼリア、俺のことはいい……早くここから離れろ……ッ!」



「何言ってるのよ!こんな状況の貴方を置いて、逃げられるわけないじゃない!」



「馬鹿...!早く逃げろ!」





私はローガンのその言葉を無視して、いち早く魔法を発動した。





(((兎に角、早くローガンを治療しなきゃ…!)))





私は治癒魔法が使える。

皇太子と言えど、国民に毒を盛ればそれは大問題だ。

しかもその相手が魔塔主であるというのなら、尚更のことだ。

皇家と魔塔の信頼関係に大きな亀裂が生じるはず。

あの頭の良く、要領もいいルーカスがそれを理解できないはずがない。




(それなのになぜ毒を…?)





見る限りローガンが飲んだ毒は、すぐに命を奪うほど即効性のものではなさそうだ。


その証拠に身体が動かせないのと吐血しているのだけで、彼の意識は未だにハッキリとしている。


だがいつ毒の効果が発揮され、悪化するかわからない。

その時にローガンが無事でいられるという保証もない。



私は急いでローガンに治癒魔法をかけるが、何故か一向に良くなる感じがしない。


それどころか、私の流し込んでいるはずの魔力が見えない何かに阻まれているように感じた。

そしてその魔力はローガンの体を流れるどころか、ただただ彼の周りに漂うだけになっていた。




「どうして?!治癒魔法が効かない!!」



「…無駄だ。俺も自分で試したが、治癒魔法どころか、魔力すら練ることができない…。」



「嘘…?!」



「残念だけど、君の治癒魔法ではその毒を治すことはできないよ、ロゼリア。」





ルーカスがまるで滑稽だ、と可笑しいものを見るかのようにクスクスと笑っていた。




「何故ならそれは毒ではなく、魔力を封じるだけの"魔封剤"だからね。」



「魔封剤…?それは一体…?」





その言葉を聞いたローガンは嫌そうに舌を打ち、ルーカスを睨みつけた。





「魔封剤……。」




「やはり魔塔主は知っているようだね。」





私には何のことだかさっぱりわからなかったが、名前からしてどうやら魔法関連のものである可能性が高い。

だからか、魔塔主であるローガンは知っているようだった。




「知らないロゼリアに説明すると、この薬の効力がある限り、魔封された人間は魔力や魔法を使えないし、外からの魔力も受け付けない。」



「そんな…だから私の治癒魔法が……」



「正直、今は大丈夫でもこの"魔流剤"を飲ませなければ魔法使いにとっては命取りだ。魔法使いにとって魔力は心臓の次に大切なものだからね。魔力で魔塔を維持しているという、そこの魔塔主様なら尚更のことだろう。」



「そんな……!」



「....ロゼリア、俺は大丈夫だ。」





ルーカスは面白そうに笑っていたが、対してローガンは苦虫を噛み潰したかのような顔をしていた。


大丈夫だ、と言ってはいるが、実際は相当にまずい状況なのだろう。

私はそんな彼を腕の中に抱え込んだ。




「それを渡して!ルーカス!皇太子である貴方が魔塔主に毒を盛ったと知られたら、大変なことになるわよ!」



「構わないよ。僕は地位や権力に興味がないからね。」



「……どうしたらその薬を私たちに渡してくれるの…?」





冷たい返事をしていたルーカスは、私のその質問に急に微笑みながら答えた。





「…ロゼリア、君がここに残るというのなら、この薬をローガンに与えてやってもいいよ。」




「私が…?何で……」





その時、私が抱いている腕の中のローガンが、私にだけ聞こえる声量で微かに話しかけて来た。




「……ッよせ、ロゼリア。奴の口車に乗せられるな。」



「でも、そうしないとローガンは……!」




「俺は大丈夫だ…。"魔流剤"は魔塔にさえ帰ればいくらでもある。それに…俺はこれくらいどうってこない。ここで手に入らなくとも…。だから…奴の要望には絶対に応えるな。」




「そう…、わかったわ。」





ローガンは身体が言うことを効かないながらも、支えられながらなら少しずつ歩けるようだったので、私は私よりも背が高く大きいローガンを自分の肩に掴まらせ、立たせた。

そのあと、後ろを振り返りルーカスに捲し立てた。




「ここでそれが手に入らないのなら、もう良いわ。別のところに行けばそれを手に入れられるのでしょう……?貴方には失望したわ、ルーカス。私たちはもう帰ります。」





ルーカスは私のその言葉を聞いたあと、酷く傷ついた顔をし、俯いた。

私はそれを無視して部屋を出ようと扉に手をかけるが、何故か扉は開かなかった。




「あれ…?」




すると後ろで歯を食いしばって俯いていたはずのルーカスが、地を這うほど低い声で何かを呟いた。




「ロゼリア…何故だ……?何故僕を選ばない……。」




そのルーカスの声を聞いた瞬間、私は彼の尋常じゃない様子に恐怖を覚えて、扉をどうにか開こうと取っ手をガチャガチャとさせる。


しかし外から鍵がかかっているのか、全く開く気配がなかった。


私はその状況に意味がわからなくなってさらにさらに焦った。




「どうして?!どうして開かないの?!」



「無駄だよ。外から鍵を掛けてる。そしてその扉の外に出れたとしても、護衛達が控えているからそう簡単にはここから抜け出せないよ。」



「そんな……!」





少し動いてしまったせいで毒の巡りが早くなったのか、先ほどより元気の無くなってしまったローガンが申し訳なさそうに謝ってくる。




「...…すまないロゼリア、俺がこうなってしまったばかりに…ケホッ」



「違うわ!貴方のせいじゃない!」





そう、これはローガンのせいではない。

恐らく隠しルートに入ってしまったであろう今となっては、ローガンが毒を飲むことは必然の出来事だったと言える。


何故ならここはヒロイン、リリアーナが愛されることによって成り立つ乙女ゲームの世界なのだ。

そこで私がこの世界の"因果律"を無視して、勝手に貴方と結ばれて隠しルートに入ってしまったのだ。



だから今起こっていることは全部、私が悪い。



だけどここがそんな世界だと、素直にローガンに話すわけにもいかず、ロゼリアはただただ理由も言えずに、"貴方は悪くない"と声を掛けることしかできなかった。





(本当は全て、話してしまいたいのに…。)





本当に全て私が悪いのだ。

ローガンがこんなに苦しそうなのも、ルーカスがおかしくなってしまったのも、全部、全部、私のせいだ。


だからそんな無力な私はただ、この状況ができるだけ良い方向に向くように、と懇願することしかできない。





「ルーカス…!私達を今すぐこの部屋から出して!」



「断る。」



「ルーカス!」





その間にもローガンはぐったりしてしまっていて、ロゼリアは恐怖と焦燥感に駆られながら、感情のままにルーカスに怒りをぶつけた。




「…ッどうして!?どうしてこんな事するの?!!」




「君と僕とルドルフ、その男と出会うよりもずっと前から僕たちはずっと君と一緒にいるのに…。思えば、君は僕たちのことなんて欠片も見てはくれなかったよね…。それなのにその男が現れた途端、急に意識し始めるなんて……!」





ルーカスは狂ったように同じ言葉を繰り返した。





「許せない!!許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない!!!!」



「僕は君をこんなにも愛しているのに…!!」





そう言うとルーカスは、私とローガンの間に割り入って、2人を引き剥がし、ローガンだけを扉の横の壁に思いっきり叩きつけた。




「う゛ッ…!!ケホッケホッ!!」



「ローガン!!……キャッ!!」




私はローガンの元に駆け寄ろうとした。


しかしその瞬間、ルーカスの光魔法が蔓のようにロゼリアの体に巻きついた。



それによって体を拘束されてしまった私は、ローガンの元に駆け寄ることができなかった。




「ローガン、君はとても良い人だ。実直で真面目。並外れた魔法の才能もある、さすがは魔塔主だね。だから僕も君のことは一目置いていたところがあったんだけど……。」




そう言うルーカスは、冷やかな目でローガンを見下ろしていた。


その間に私は何とか自力でルーカスの光魔法の拘束を抜け出し、ローガンの元に駆け寄った。

そんな私を気にも留めないルーカスは言葉を続けた。





「君がロゼリアに好意を抱いていると知ったその日、君に失望した。そしてロゼリアがその好意に応えたと知ってから、僕はこの世界に絶望したんだ。」





ルーカスはローガンを上から睨みつけるかのようにして、低い声でそう呟いた。


私は倒れて動けないローガンを守るように胸の内に強く抱き寄せたが、それを見たルーカスの米神にピキリと血管が浮いたのが見て取れた。





「……君にロゼリアは渡さない。絶対に。」





するとルーカスは懐から小さな小刀を取り出した。


私は"まさか…?"と思ったが、流石にありえない、とその考えから必死に目を背けた。


だけど今のこの雰囲気が、その想定に成り得る状況を裏付けていた。


その合間にも、ルーカスはこちらに一歩、また一歩と近づいて来ていて、とうとう私とローガンの目の前まで来て立ち止まった。







「だから、ロゼリア。









ーーー殺してもいいよね。ソイツ。」









私とローガンは驚愕のあまり目を見開いた。


ついには鞘から小刀を取り出したルーカスを見て、本気だと悟った私は次第に正常な思考を取り戻していった。




「待って……待って…!!お願いよ!それだけはやめて!!ルーカス!!!」




しかし突然の暴挙に出たルーカスに、私は何も考えられなくて、ただただ静止の言葉を掛けること以外、考えることができなかった。


小刀を持ち、今にもローガンを刺してしまいそうなルーカスに、思わず彼に抱きついてそれを阻止した。




「お願い!ルーカス!ローガンを殺さないで……!!」



「何故…?君は彼がいるから、僕とは居たくないんだろう?なら彼さえ居なくなれば、僕を見てくれるってことだろう?」



「違うわ!そんな事、私は言ってないじゃない!!それに私はちゃんと貴方のことも見てるわ!!!」



「ッ見ていない!!その証拠が今の状況を作ってるんだ!!!」



私は訳のわからないこの状況と、何を言っても聞き入れてくれないルーカスと、この不毛すぎる会話に限界が来てしまった。



私の瞳からはとうとう、涙が溢れた。



耐えきれず涙を流した私に、ルーカスは一瞬だけ息を詰めたが、殺すことを躊躇う素振りは全く見せなかった。



ローガンはそんな私を見て、酷く傷ついた顔をしていた。


だがもう声を出すのも辛いのか、黙したままだ。


心優しいローガンは、心の内ではきっと"自分のせいで..….。"と思い詰めていることだろう。



私はもう、どうしていいのかも分からなかった。



私はルーカスに目の前から抱きつき、ボロボロと涙を零しながら、ただただひたすらに懇願するしかなかった。




「…………お願い…殺さないで…。」



「………殺す。」



「お願い……お願いだから!!何でもする…。貴方が望むことなら、私、何でもするから…!全て言う通りにするわ…!どうすればローガンを殺さないでいてくれる…?」




その言葉に一瞬だけピクリと反応し、目を見開いたルーカスは私に聞き返した。




「何でもする…?それは本当…?」



「ええ、約束するわ…。」



「......ダメだ……ケホッ…ロゼリア!!!」




私はこの最悪な状況さえ何とか打破できればいい、とだけ考えていた。


けれど私を犠牲にしたくないローガンは、苦しそうに咳をしながらも、必死にルーカスの口車に乗るなと私に訴えていた。




「僕はただ…ロゼリア。君が僕と一生を誓い、添い遂げてさえくれればそれでいいんだ。そうしたらローガンは無事に返すと約束するよ。」



「ほんと…?」



「ああ、本当だよ。」




それは自分が恐れていたルートのひとつ。

ルーカスルートのエンド。



"一生監禁ルート"だった。



本当はこんな結末、嫌だ。

けれど私は、恋人であるローガンをどうしても助けたかった。




(彼の事を、前世からずっと大好きだったから……。)




しかもそんな身勝手な私の気持ちに応えてくれて、ひたすらに愛してくれたローガンを私は蔑ろにはできない。


私にはもうローガンが"物語の登場人物"などではなく、"共に人生を生きている一人の人間"として見えていた。



それに私のせいで大切な人が死ぬのを絶対に見過ごせなかった。

私が助けられる状況にいるのなら、

私一人が犠牲になるだけなのならば、

叶うなら、助けてあげたい。


今はただその一心だった。




「...ロゼリア、奴の口車に乗せられるな!俺は平気だから…ケホッケホッ!」



「煩わしいよ、ローガン。」




ローガンはかなり薬の効果が回って来たのか、先ほどより大きく咳き込んでいる。


そんなローガンを、ルーカスは嫌なものを見る目で一蹴した。




「これはロゼリアが自分で決めたことだ。君は自分の"元"恋人の意思も尊重できないのかい?」



「"元"だと?!ケホッ…今もロゼリアは俺の大切な恋人だ!!脅迫して言いなりになったモノが恋人だと?!笑わせるな!!……ケホケホッ!」



「口を慎め無礼者。皇太子である僕に口答えするな。」





職権濫用だ。

先程まで、権力や地位に興味がないと語っていたくせに、今はその権力を思う存分活用している。

こんな男に毒を盛られた事に羞恥を覚えたローガンは、その悔しさから血が滲むほど強く唇を噛み締めた。




(こんないい加減な奴に俺は……!)




その間にもルーカスはローガンとロゼリアを引き離す為の指示を出して行く。




「護衛、魔塔主を魔塔まで転移魔法で連れて行け。そして魔塔に着いたらこの薬を飲ませろ。」



「承知致しました。」




腕を掴まれ無理やり引きづられるように立たされる。


彼らの俺への扱いは事務的で、ロゼリアの優しくて柔らかい手つきとは段違いに強引だった。


先ほどの指示から理解する。

俺は今から魔塔に返還させられる。




この危険な男の隣にロゼリアを置いて。





「何を!!離せ!…ッロゼリア!!」





離れたくない。

置いていきたくない。

それなのに、こんな身体ではロゼリアに手を伸ばすことも叶わない。

ルーカスが包み込むように優しい手つきで彼女の肩を抱き、その胸に閉じ込めた。


ロゼリアはそれに、抵抗しなかった。





「今までありがとう、ローガン。………ごめんね、」



「ケホッ…ロゼリア……!!」



「連れて行け。」




瞳に涙を浮かべたロゼリア。

その肩を抱くルーカスは、その冷たい指示とは裏腹に、その顔には不敵な笑みを浮かべていた。


(((してやられた……!!)))


そう気づいても、もう遅かった。





「.........さようなら。」





「ロゼリア!!!!」





最後に扉が閉まる直前に見えたロゼリアは、愛してもいない男の胸に抱かれて、震えた声で涙を流していた。



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