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5.呪われし疫災


 薄暗い洞の中で目を覚ますと、洞の出入り口に腰を下ろしたグライブの後姿が見えた。

 彼の背中越しから見える外はまだ薄暗く、夜明けまでまだ時間があることを私に伝えている。

 彼の背中がゆっくりと膨らみ、そしてゆっくりとしぼむ。それは彼の呼吸に合わせた自然な動きで、多分、眠っているのだろうと、私は思った。

 そしてふと、好奇心に促されるまま、私はその背中に触れてみる。

 彼の着ている黒い鎧と、さらにその上を覆うローブのその上からでも伝わる暖かさから、彼が確かに生きていることを感じさせた。

 一度、手を離し自分の手を見てみるが、特に異常はない。グライブが言っていた通り、鎧や布があるおかげで、彼の呪いが私に移ることはないのだと、これで立証できたということだ。こんな実験じみた真似をしたと知れたら、多分、グライブに叱られてしまうだろうが、私は知りたかったのだ。

 私は彼を起さないように細心の注意を払いながら、その背中に耳を付ける。

 とくん、とくん、と音が聞こえた。

 それは命の鼓動であり、生きている証明を表す音。夢でも幻でもなく、確かに彼はここに居て、生きている。

 その音に、このぬくもりに、私は静かに息を吐き出した。吐き出す息が少し震えていた気がしたけど、確かに心から安堵していた。自分が孤独でないことに。

 何かを考えて、行動して、悩んで、そうして忙しなくしていれば、いろんなことを忘れていられるし、目を向けなくても済むのだが、こうして、ふと1人の時間ができてしまうと、どうしても背けたはずのものに目が向いてしまう。意識が向いてしまうのだ。

 ここがどこで、なぜ私がここに居るのか。なぜ私だけがここに居るのか。これからどうなるのか。友人は? 両親は? 会社や同僚、アパートの隣人は? もしかすれば、私だけが元の世界から消えてしまっているのか。それとも、グライブの話から予想してしまった最悪の結末が私を襲ったのか。

 何もかもが不明で、不安に押しつぶされ、恐怖に頭の中が塗りつぶされそうになる。

 怖くて、両目をきつくつぶり、両耳を両手で力いっぱいふさいで、これは夢だと、早く目を覚ませと、立ち止まってうずくまってしまいたくなる。

 それでも起きられないなら、これが現実だというのなら、家に帰りたい。

 大好きな家族の待っているだろう現実に、友人がいるだろう世界に、私の日常がある平穏に。帰りたいのだ。きっと、私がここで感情のままに泣き叫んでも誰も責めたりしない。グライブだって、そんな私に同情して慰めてくれるだろう。

 だけど、そんなことをして何が解決できるだろうか。

 多くの物語の中で語られる異世界に行ってしまった主人公たちのように、簡単に受け入れることはできない。私は帰りたいのだ。毎日が平凡でつまらなくて幸せだった私の現実に。

 私の大好きだった、全てがあった世界に。

 恋しくて、怖くて、不安で、会いたくて、涙が出る。

 誰でもいい。だれか、助けて。

 今の私には、この暖かい背中だけが、唯一、縋り付くことのできるよりどころだった。





 早朝、朝日が昇る前に私たちは洞を後にした。

 今日も森の様子はおかしい。そのことが、グライブの歩みを少し早めているようだった。

 そして、その原因がなんなのか、すぐに分かることになる。





 歩き始めてから数時間が経っていた。

 私にとっては少し早歩きではあるものの、付いて行けないほどでもなく、なんとかグライブに付いて行っていた。もちろん、彼のローブの裾を持ったまま。そのおかげで、私とグライブの距離が一定以上離れることはない。

 だが、順調に進めていたはずの歩みは、グライブの行動によって突如として止まる。

 彼が、私が掴んでいたローブを引っ張り、思った以上に強く引っ張られたせいで、私は前に倒れそうになった。だが、そんな私を正面から受け止めるようにグライブが支え、私を転がすように木の根元に座らせたと思えば、大きな彼の体が私の壁になるように、彼も私の前に身をかがめて膝をついていた。

 一連の動きが本当に一瞬の出来事で、私は自分の思考が追いつかず放心していることしかできなかったが、グライブが自分の口元に人差し指を当て。


「静かに」


 と、囁く声に、やっと頭が現実に追いついたような感じがした。その瞬間、私は全身に悪寒のようなものを感じた。

 何が起きてるのかさえ理解できてはいないというのに、私は確かに恐怖を感じているのだ。


(一体何に対して?)


 と言う疑問は、すぐに不気味な音にかき消されていた。

 その音は、どこか生々しい水音にもにて、気持ちの悪い不快感を私の中に連れてくる。よく、ゲームの中で使われる生々しいクリーチャーが出すSEのような『ぐちゃ』とも『ぬちゃ』とも表現できない、肉々しい音であり、その音は私の全身を粟立てるには十分な不快感を存分にまき散らしていた。

 きっと見ないほうがいいと自分でもわかってはいたが、知らないことのほうがはるかに怖いことだとよく知っているし、知りたいという好奇心は、どうしたって抑えられるものでもない。

 私は一回、深く息を吐くと、こっそり音源へと視線を向けた。

 そこにいたのは、巨大な生き物だった。全身が赤く爛れ、全身の皮膚が剥がれ落ち、かろうじて骨に肉が何とか張り付いているような。そんな生き物だ。

 巨大な体に長い尻尾、蝙蝠のような羽が生えていただろう名残が背中に残っている。ただ全身の皮膚がないために、元はどんな姿で色をしていたのかは一切判別不能だ。

 例えるなら昔、ゲームで見た『ゾンビドラゴン』を思い出すような容姿をしていた。

 それが、ゆっくりと動くたびに不快な水音をさせているのだ。森が静かな理由は、まさにあの存在がここに居るせいだろうと、納得できた。

 のっそりと歩きながら『ゾンビドラゴン』は、時折、長い首を動かし、頭を持ち上げると何やらにおいを嗅いで、また歩き出し、ゆっくり、ゆっくりと木々の間に見えなくなっていく。

 そして完全に見えなくなったころ。私の緊張の糸は切れて、大きく息を吐き出した。


「とりあえず、行ったみたいだな」


 グライブもそう言うと同時に、その場に腰を下ろして「はぁ」と息を吐き出して見せた。グライブの昨日からのピリピリの原因も、もしかすればさっきのゾンビドラゴンのせいだったのかもしれない。


「見つからなくて本当によかったね」


 私がそう言えば、グライブも同意するように頷いて見せる。


「まったくだな。あれはかなり厄介な奴だから、見つかると不味いんだ」


「ドラゴンだから?」


 そう私が聞き返せば、グライブはその場に立ち上がり、私に目をやってから首を横に振って見せ、私もグライブに倣ってその場に立ち上がる。


「見た目は確かに似ているんだがな。あれは厳密には『ドラゴン』ではないんだ」


 そう言うと、辺りを警戒しつつ、グライブがまた歩きはじめるので、私も彼の後に続き、彼のローブの裾を捕まえつつ足を進め始めた。

 それにしても、見た目は似てるけど、ドラゴンじゃないというのはどういうことだろうかと、首をかしげる私に、彼は言葉をつづける。


「今のは『フェイクドラゴン』と呼ばれるワイバーンの一種で、知性はほとんど持たない猛獣のようなものだな。だが『ドラゴン』と言う呼び名を与えられるようなモンスターだけに、力が異常に強いうえ、食欲旺盛で、悪食でもあるために、ああしてゾンビ化してしまうものも少なくない」


「ゾンビ化しても本人はまったく気にしないんだね」


 その食欲たるや恐るべし。


「まあ、空腹が満たせればそれでいいんだろうな。だが厄介なのは、ゾンビ化による不死生にあって、まず満腹にならないと言うのが問題なんだ。おまけに脳を完全に破壊するか、極大魔法で一気に消し去るくらいしか殺す方法がない」


「あー。厄介具合はなんとなく理解できたかも」


 ファンタジー世界において、巨大生物とゾンビは厄介極まりないのはもうテンプレだと思うが、それが合体するとさらに凶悪でしかないというものだ。


「まともに体が動かせるならともかく、今の俺ではただの餌にしかならんだろうな。だから、時間はかかっても、アイツを避けて進むのが安全だと思う」


 硬い口調でそう言ったグライブに、私は迷いなく同意した。


「私もそれが一番だと思う。無駄な体力も使いたくないし」


 そもそもあの巨大な生物に見つかって逃げられるかも疑問でしかないけど。


「そうだな」


 私の言葉にグライブも頷いて、私たちの中であの『ゾンビドラゴン』の対処は決定した。何よりも避ける。見つかる前に隠れる。それでも見つかったら全速で逃げるだ。だって、私たちの目的は、あのドラゴン擬きと戦うことじゃない。この森から出ることなのだから。



 その後は、あのドラゴン擬きを何度か見かけることになったが、2日間、私たちは順調に前に進んでいた。この世界に来てから5日目、この調子なら、あと1日半くらいで森の出口までたどり着けるだろうと、グライブは見通しを立てていた。

 木の間に隠れるようにして今日の休憩場所を確保した私たちは、火を熾し今後のことを話し合っていた。

 グライブとの行動も、もうすぐ終わってしまう。


「腐敗の森を抜けると瘴気の森に出る。腐敗の森の毒を吸収してくれている森なんだが、そのせいで木の葉1枚もつかない黒く塗りつぶしたかのような木々がしばらく続くが、そこを抜ければ、やっと普通の森に出ることができる」


「うん。聞いてるだけで道のりが長い」


「ハハっ。そうだな。だがその森を抜ければ街道だ。街道に出れば人にも出会える。商人の馬車を探すといい。荷物を大量に積んだ荷馬車で、護衛を複数連れているからすぐに分かる。武器を持たない丸腰の君に強くも当たってはこないだろうし、彼らに頼めば町まで一緒に行ってくれるはずだ」


「うん……」


 果たしてコミュ障の私が、初対面の商隊相手にそんなことできるんだろうかと、自分で疑問ではあるが。1人で歩いて町まで行くのは無謀な試みと、グライブは言いたいのかもしれない。でも、小ぶりのナイフは武器にならないのでしょうか? と、言う疑問は飲み込みつつ、私は暖かいお茶を口に流し込む。


「話しかけにくいようなら、何か食料を買わせてもらうついでに、頼んでみるのも手だぞ?」


 そうグライブに提案されて『ああ』と、私は少しだけ気分が上がった。


「それなら頼めそう」


 そうなのだ。何も買わずにおトイレ貸してとコンビニに行くのは忍びないので、何かを買ってしまうあの心理と同じなのだ。

 商人さんから食料やお茶などの物を買わせてもらう代わりに、町まで一緒に行ってもらえないかと頼むのはアリだと思う。


「カバンの中に入っている革袋の中に、赤い紐でくくられたやつがあるだろ? そこにお金が入っている。買い物ついでに、一緒に行くことを快く了承してもらえたら、買い物の対価を払うとき金貨を1枚渡してやるといい。お釣りはいらないといえば、向こうも気前のいい客に嫌な顔は見せないだろう」


「うん。お釣りはいらないって、一回は言ってみたいセリフだよね」


 私のお金ではないんだけどもねっ!

 本当に、何から何までグライブにお世話になりっぱなしじゃないか。そう思うと、後ろめたくて仕方ない。


「何かお礼ができたらいいのに」


 彼が望むなら何でもしてあげたいと思うけど、私には差し出せるものが全くないのだ。お金だって彼のほうが持っているだろうし、彼と接触するようなことはできないし、彼が満足するまでお腹いっぱいご飯をごちそうするなんてことも、無理なのだ。

 彼の一番の望みは、聞くまでもない。多分、呪いを解くことだろう。だけど、何の知識も力もない私には、出来ないのだ。何も。


「お礼か……そうだな。俺はもう、十分にもらっている」


 グライブはそう言うと、満足そうに目を細めていた。

 もらってるって、どういうことなのだろうか?

 私が? 彼にしてあげていることなんて、ひとつもないはずだ。


「でも……」


 私が何をしてあげたというのだろうか。そんな風に思って口を開く私に。


「人と話をするのは本当に久しぶりだった。それだけでも十分すぎるくらい俺にとっては幸運なことだ」


 そう言って、本当に満足そうに、言葉どおりの幸せそうな顔で微笑むグライブ。

 そんなことで幸福を感じるほど、彼はここで長い間1人だったということなのだろう。そう思うと、本当に、どうしようもない憤りを覚えてしまう。

 私は自分のことでいっぱい過ぎて、彼を気遣ってもあげられないのに。


「町について落ち着いたら、またグライブに会いに来るよ」


 だから、私は務めて明るくそう言った。

 話をするだけでも、なんて。そんなことがお礼になるなら、私はいくらだってここに通ってもいい。だって、本当に彼の望むお礼なんて、私に贈ることなんてできるはずがないのだ。だったら、少しでも、返せる感謝の気持ちを伝えたいのだ。

 だが、そんな私の言葉にグライブは、おかしそうに小さく笑うと首を横に振って見せる。なんで?


「最初に言ったが、ここは正常な人間がいていい場所じゃない。出来るなら、ここには足を踏み入れないほうがいい」


「だけど、すぐにどうなるものでもないって言ってたでしょ?」


 そう私が言葉を返せば、今度は困ったように笑い。


「そうだな。だが、俺もそろそろ終わりが近いんだ」


 そう言って、何でもないことのように笑う。


「終わりって……」


 呪いの終わり? 終わり?

 その言葉から導き出される答えに、私は自分が思うより動揺してしまった。


「そうだな。生命はいつしかその命を終える。俺の寿命も近いということだ」


 命あるものはいつか死ぬ。そんなのはわかっているし、当たり前で、だけどそんなことをいきなり言われて、動揺するなと言うほうが無理な話ではないだろうか。

 死の呪いが彼を蝕んでいるとは聞いた。だが、その終わり。つまり、その呪いの終わるときが近いなんて、彼の呪いは『腐っていく』ものだ。動くことも出来なくなって、ついにはすべてが腐り果てて消えるまで。

 じゃあ、今はほぼ最終段階に近いということじゃないのだろうか。だというのに、動かせない体を無理やり動かして、私と行動しているということじゃないのかと、私は自分の血の気が引いて行くのが自分で分かる。

 行動を共にするということは、それだけで、彼の体に無理をさせているだけじゃないのかと。


「リオ」


 その優しいおとに顔を向ける。

 何度も思った太陽色の瞳は、春の日差しのように暖かく、私を優しく照らしている。


「ただ何もなく、己の罪の愚かさに腐り死にゆく俺に、戦士としての役目を与えてくれたのは君だ」


 そう言って、太陽がまぶしそうに目を細めた。


「俺は傭兵であり、一介の戦士に過ぎない。己の死ぬべき場所は戦場であることを望む一人だ。だが、それすら望めなかった俺に、君が役目をくれた。ただ、これは俺が勝手にそう思っているだけで、君が気にするようなことでもない」


 そう言うと、グライブは空を見つめ月を仰ぎ。


「男と言うやつは勝手な生き物でな。何もいらないといいながら、名誉という自己満足が欲しくて仕方ない。だから君を守る役目をもらえたと、俺が勝手に喜んで動いているだけなんだ。なにしろお節介の被害者は君だろ?」


 そう言って、私に顔を戻すと口を笑みの形に持ち上げる。

 お節介の自己満足と言う言葉で、王様でもお姫様でもない、ただの異世界人の女を守ることを名誉と言う人。私に、負担をかけないための言葉を選んでしまう人。


「ただ偶然ここに現れただけなのに……」


 そんな私のために、自分の残り少ない命を使おうなんて、私には理解できない。それが戦士とか、男の人と言うのなら、私には男の人も、戦士と言う人たちのこともよく分からないが、ただこれだけは言える。

 私は、グライブに死んでほしくない。


「そうだな。偶然かもしれない。だが俺たちの世界では『全ては神がそうなるように囁く』と言う言葉があるんだ。運命を決める神はいないが、神は小さな望みを俺たちに知らせるために分かりにくいサインを残すと言われている。それに気付けるかどうかで運命は形を変えるんだ」


「じゃあ、私がグライブの前に現れたのも神様の囁き?」


「そうかもしれないし、違うかもしれない。だが、こんな俺の前に君が現れたのは、夜の女神の導きかもしれないと、俺は思っているんだ。そうでなかったとしても、結果は変わらないのだがな。『ひと』と言うのは、様々なことに理由を付けたくなる生き物だろう?」


 そう言うと彼は小さく笑って見せる。

 神の小さな望みがいったい何なのか私には分からない。そもそも、神様なんて信じてさえいない。それでも、神様が何かしらの望みで私とグライブを会わせることを目的にしていたのなら、私にも、何か出来ることがあるのかもしれない。そんな考えが頭をよぎる。

 そして、確かに人は、何かしらに理由を付けたい生き物なのだろうなと、少しおかしくも思った。

 この世に偶然はなく、全てが必然による現象である。そう言った人がいた。誰が言っていたかは覚えていないけど、そうであるなら、私にはいったい何ができるのだろうか。そう考えずにはいられなかった。だって私は、グライブがどうすれば助かるのかを、考えてしまっているから。





 火の番をしながら、俺はジワリと体内を蝕む、焼けるようなうずきを感じながら目をつぶっていた。俺は眠ることを当の昔に諦めていて、それでも、体を休めるために目をつぶって過ごすようにしていたのだが。俺の後ろに隠れるように寝かせていたリオが、ふと動いた気配を感じて目を開ける。

 ゴソゴソと布の擦れる音が聞こえたと思えば、彼女がそっと俺の背中に頭をくっつけて、小さくため息のようなものを吐き出す。

 最初に洞の中から彼女に触れられたとき、俺は生きた心地がしなかったが、今回で2度目だ。

 触れないように注意したはずだが、洞で触れてきた彼女が泣いていたことに気が付いて、俺は何も言えなくなってしまった。

 怖くないはずがない。きっと泣き出してしまいたいくらい不安で、心細いに決まっている。

 彼女の口から洩れるため息は安堵からのものだろう。1人ではないという。

 じっと俺の背中に頭を預け、少しだけ、彼女の重みが俺の背中に伝わる。何かを確かめるようにじっと動かず。

 本当なら、抱きしめてその背を撫でてやれたら彼女も安心できるのだろうが、今の俺にはできないことだ。それを歯がゆく思うのは、初めてだった。子供のようにすがる彼女に何もしてやれないなんて。

 だから、俺はただ黙って彼女のしたいようにさせてやるしかない。

 彼女の不安が少しでも減るように。彼女が少しでも笑顔でいられるように。俺は寝たふりをしておこう。君の心を守るために。

 女神よ、暖かな昼の女神よ。あなたの優しさで、どうか彼女の怯え苦しむ心を癒してください。

 彼女が一秒でも多くの時間を安心して笑顔で過ごし、そして眠れるように。



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