2.旅は道連れ
思い出すのは、恐ろしく気が荒いくせに愛情深く涙もろい育ての親たちや、数々のギルドで出会ったバカみたいに明るい仲間たち。前向きで、一部そうじゃないのもいたが、一様に彼らは狼を心から信頼し、いつでも手を差し伸べてくれた。
誰一人だって、自分を見捨てることも、裏切ることもなかったと。
裏切ったものがいるとするなら、それは他ならない自分自身であると。
問題は山積みだった。ふと沈黙が下りてから、私はこれからのことを考えていた。移動手段は何とか確保できたが、移動は昼のみ。それに、目的地までにかかる移動時間も問題だ。森を抜けるまでに少なくとも1週間、そこから町までどれくらいかかるのか。
普通に考えればこんな危ない森の近くに町を作ることは考えられない。3・4日以上歩くことは覚悟しないといけないし、大事なことと言えば食料や飲み水のことだ。
この森に普通に口にできるようなものは期待できそうにもない。水も同じく。それにお金の問題もある。そしてバケモノを遠ざけられたとして、この森を抜けた先に、野生の猛獣がいないとは言い切れないし、そう言った獣をタリスマンは退けてくれるのだろうかと言う疑問も残る。
空を見上げれば月が少しだけ右に傾いたように思う。つまり自分から見て左が東で、右が西なのだなと分かった。太陽や月があるなら、曇りや雨でない限り方角を見失うことはないだろう。と、思っていた時、グライブが私の名前を呼んだ。
呼ばれるまま私はグライブに顔を戻し頭を少し傾ける。
「なに?」
すると、少しだけ迷った素振りを見せた後、グライブは何かを決意したような顔で。
「この森を出るまで、俺が一緒に行こうと思う」
そう言った。
「ん? 道案内的な?」
それは多分、私にとってすごく助かる提案ではあるのだが。
「それもあるが、食料や水の確保。それに火を熾すにしても。リオに経験があるとはどうにも思えなくてな」
なんて、ものすごく心配そうにこちらを見る狼さんの表情と言葉に、私はすすすーと視線を左にずらしながらアハハと機械的に笑ってごまかしてみた。が、私は早々にグライブに深々と頭を下げ土下座をかます。
「すみません。おっしゃるとおり、何にもできません。助けてください」
「驚くほど速い切り替えだったな」
と頭を下げた私の上にグライブのおかしそうな笑い声が降る。
「もとより、そのままリオを放り出すつもりもないから安心していい」
グライブは続けてそう言うと、左手で私のすぐ右横を指さした。そこにはわりと大き目な使い込まれた感じのショルダーバッグが置いてあった。見た目の素材は革っぽい。
「中に色々と入っている。元々は俺が使っていた物だから、年季は入っているがな。まだ使えるはずだ」
そう言って、開けてみろという彼の言葉に促され、カバンを開ければ。確かにいろいろと入っている。色付きのリボンで結ばれている丸まった紙とか、元の世界で見たようなアンプル剤ほどの大きさの透明な小瓶が10本とか。分厚い布の塊……多分ローブか毛布のどっちかだと思う。あとは、シンプルな鞘に納まった短剣やらマッチ、ランタン。大小様々な色とりどりの透明な小石とか、中身の入った小さな革の巾着袋が数個とか、何かの乾燥肉っぽい束とか、まあ、とにかくいろいろと入っているけど。と、カバンの中身を物色したあと、グライブへと顔を戻せば。
「よかったら、そのカバンは君にあげよう。もちろん中身も返さなくていい」
そう言って笑う。
だけど、私は逆にその言葉に固まってしまった。だって、どう見てもまだ使える物ばかりだし、タリスマンにしてもそうだが、それなりの値打ちがあるものではないのだろうか?
例えば使う機会が少ないとしてもだ。あればそれなりの使い道と言うものもあるはずだ。それを、何の見返りもなく他人に譲るって……。
「さすがに、ここまでしてもらう理由がないんだけど」
私たちはまだ出会って半日も経っていないはずだ。さすがの私も、これをすんなり『ラッキー』くらいでもらえるはずもない。
考えたくもないが、裏があると警戒してもおかしくはないはずだ。
私の言いたいことが当然わかるであろうグライブは、何度か納得するように頷いて。
「君の警戒心も分かる。だが、俺にとっては、ここにあってももう意味のないものなんだ。だから、このままここで腐って無くなるくらいなら、必要な誰かに使ってもらったほうがいいと思ってな」
そう言って口元に笑みを見せる彼の顔、その表情に、或いはその言葉に嘘は混じっていないように思う。とは言え、相手の顔は半分近くが溶け落ち、ほぼ腐っていて、表情から嘘を読み取ることはほぼ不可能ではあるのだけど。
言葉をうのみにすることはできない。もちろん信じたいという気持ちもあるが、石橋をハンマーでたたき壊してもいいくらいの警戒心は必要に思う。ましてここは『異世界』なのだから。
「言いたくないかもしれないけど、なぜ『必要のないもの』なのか、説明して。ちゃんと」
私がそう言って彼の金色の目をじっと見つめれば、彼にもじっと見つめ返されて、彼はひとつ瞬きをすると。
「俺は死の呪いにかかっている。食事を取ることはおろか、水の一滴も飲み込むことはできない。体に触れた瞬間に腐ってしまうからだ」
彼はそう言うと、ふと下を向いた。ただ静かに、何の感情もなく、ただじっと地面を見つめていた。
ああ、そういうことかと、私は聞いたことを後悔すると同時に納得もしてしまえた。そして、言いたくない言葉だっただろうに。と、申し訳なくも思った。
彼が元から今のゾンビ状態だったわけじゃないのは、言葉の端々で感じ取ることはできたし、この腐敗の森が出来た経緯を軽く聞いたはずなのに、そこまで考えが至らなかった。
彼は呪われている。彼がどれだけ長くここに居るかは分からないけど、彼を襲おうとしないこの森のバケモノたちを見れば、その呪いが『強力なもの』であることも予想ができる。
何の感情も見えない彼の表情が意味するもの。それはきっと、私が考えるよりもはるかに長い月日を、彼は呪いに蝕まれて生きて来たのだろうと。感情がなくなってしまうほど遠い時間を。
「どうして?」
と言う言葉が自分の口から飛び出して、私は慌てて自分の口を手で押さえるが、出てきてしまった言葉を飲み込むことはできない。
出した言葉の気まずさに、私は彼から視線を外すが。
「この世界には『神の定めた禁忌』と言うものが存在している」
ふと彼は、そう話し始めた。
神の定めた禁忌とは、世界に『生きる』ものが決して犯してはいけない罪の全てを言うらしく、例えば『龍殺し』。これはグライブが犯した罪らしいが、この世界に点在する原初のドラゴンと呼ばれる10柱のうちの1柱を、グライブはその手にかけ心臓を抜き取ったらしい。それが神の怒りに触れ呪われた。
ちなみに、この腐食の森を作ったとある王国の国王の罪が『同族殺し』と言うものらしいのだが、これはとんでもない罪らしく、血縁や自分と同じ種族を1年間に1万人以上を理由もなく殺すことだという。それってつまり、とんでもない虐殺が行われたという証拠らしい。
「神様が定めた法律、ね」
「リオの世界にはいなかったのか?」
そうグライブに聞かれて、私は肩をすくめて見せた。
「わからないなぁ。私は一度も見たことないし。でも私の世界には信じてる人たちもいたよ。そういう人たちを否定する気はないけどさ」
もし、私の世界に神様がいたとしたら、一体どれだけの鬼畜野郎なのかと思えてしまう。どれだけの、数えることもできないほどの多くの嘆きや祈りを無視して平気でいられるのかと。まあ居るか居ないかもわからないひとのことは一先ずどうでもいいとして。
それにしたって不思議だ。ドラゴンを殺すことが罪だと分かっていて、なぜグライブがあえて罪を犯そうとしたのか疑問に思う。だって今、彼と話している限り、彼がそんな罪を犯すような人には見えないからだ。
「聞いたついでに、なんでドラゴンを殺したのか聞いてもいい?」
と私が首を傾げれば、グライブは口を開きかけてしばらく固まるが、とても言い難そうに、ぼそりと。
「恋を、したんだ……」
「うん?」
恋と龍殺しにどういうつながりが? とさらに首をかしげる私に。彼は初恋の話をしてくれた。
話しを聞き終わり、私は申し訳ないが胸がきゅんとときめいた。しかも情けなくも申し訳なさそうにうなだれるグライブが、本気で可愛くて。
なぜって、誰だってわかるだろう嘘に引っかかった挙句、美人な女の子に生まれて初めて恋をして、一瞬でもいいから一緒に居たいだなんて、本気で罪を犯してしまうこの大人なはずの狼に、見た目の恐ろしさとのギャップもあってか、抱きしめて頭をなでてあげたくなるほど胸がときめきで止まらない。
私の顔がにちゃにちゃといやらしい笑みであふれるのも仕方ないのだ。
「萌え死んじゃう」
頬が熱くなる私。初々しいなんてものじゃない。何このピュアウルフっ。
「燃え?」
「ああ、いいのっ。こっちの話。でも、なんか話しを聞く限り、悪いのってグライブじゃないと思うんだけどなぁ。グライブが直接、手を下したことが大問題ってことなんだよね」
「そういうことだな」
そして、グライブに罪を擦り付け、平気で裏切ったどっかの王様とその娘が未だに生きてるのかと思うと、そっちのほうが私には腹立たしくて仕方ない。
「どうせならその呪いをグランダル王国だっけ? そこに持って行ってあげればよかったのに」
なんて口をとがらせて見せる私に、グライブはじっと私を見つめた後、どこか嬉しそうに笑った。
「アイツらと同じことを言うんだな」
その言葉で分かるのは、グライブが彼の仲間にどれだけ好かれているかと言うことだ。仲間たちからすれば、グライブは大切な存在なのだとよく分かる。
「今からでも行けないかしら?」
なんて言う私に。
「さすがに100年以上昔のことだからな。人間だった当時のグランダル国王もその娘も死んでいると思うが」
「100年って、グライブっていくつなのっ」
「ああ、そう言えば異世界から来たリオには、亜人の寿命は分からないよな。俺は300を超えたあたりから数えてない。面倒くさくてな。人間の年に当てはめれば、今は青年期と言ったところか?」
「青年って、20代くらい?」
「いや、30代から40代くらいか? 人狼としてはまだ半分も生きていないのだが、人間の年齢に当てはめるのは少し難しくてな」
まって、まだ半分も生きてないってことは、少なくとも、まともな体だったら後300年以上は生きるってことじゃないかしら。
「と言うか、200年生きて初恋一回って、少なくない?」
なんて、神妙な気持ちで聞く私に。
「あまり、興味がなかったんだ」
と、グライブは居心地悪そうに答えた。
もしかして、この狼さん。大変モテモテだったのでは? と言う思いも頭にはよぎったが、私は一回咳払いをして見せると、早々に話題を変えることにした。元に戻すといったほうが正しい。
「とにかく、このカバンをくれるっていう理由はわかったけど……」
呪いか。と、私は押し黙ってしまう。
腐敗の森ができたように、その呪いは決して人の身でどうにかなるものではないのだろう。神の下す罰なのだから。全てを超越した存在こそが神ならば、世界の半分も知れない人間に何ができるのだろうかと。
だけど、グライブに同情する気持ちが出るのは仕方ないことではないのかと、自分で思うのだ。彼が犯した罪は、それほどまでに重いと言うことなのかもしれないが、恋をすることは罪ではないはずだ。その結果がだれも望まないものになってしまっただけで。
「その呪いって、どうにもならないの?」
話題を変えようとは思っているのだが、気になってしょうがない。彼の事情を聞いてしまったから余計に。
私の質問に、グライブは少しだけ視線を下げ、どこか諦めたように薄く笑う。
「多分、な」
探していないはずがない。グライブだって、きっと彼の友人や仲間たちだって探しただろうに。それでも見つけることができなかったのだと、察した。
「ごめん……」
安易な気持ちで聞いたつもりはなかったが、結果として自分がとてもひどいことを言ったような気がしてつい謝ってしまった私に、グライブはおかしそうにまた笑った。
「なぜリオが謝るんだ? これは俺の罪だ。俺の仲間たちが、そして君が俺を思って聞いてくれたことを、俺が疎ましく思うはずがない。だというのに、俺はそんな仲間たちの期待を裏切るような真似をしてしまった。こんな愚かな自分が恥ずかしく情けないと思うばかりだ」
彼は、こういう人なのかと、思った。
誰かを責めるのではなく、自分を責める人。
「もう一度会えるなら、俺の方こそみんなに謝りたい」
彼を見ていると、私が悔しい気持ちになってしまう。
「君のことも、最後まで一緒に居てやれなくて申し訳ない」
そう言って、悲しそうに、それでいて穏やかに目を細めて、思いのこもった優しい言葉を吐き出すグライブに、私の胸が詰まるような苦しさを訴えてくる。
鼻の奥がつんと痛み『やばっ』とは思ったが、私の方が泣けてしまった。
だって、このひと。なんでこんなに優しいんだろうって。
自分がこんな目にあっているくせに、初恋の相手を恨むこともせず、自分を騙した兵士たちや国王を恨むこともせず、仲間たちを思い、会ったばかりの私のことを心配して……悔しくて、切なくて泣けてくる。
「リオっ。どうしたっ? どこか痛いのかっ!?」
急に泣き出した私に、またもオロオロとするグライブだが。
「あんたが、泣かないから、私が泣いてるのっ! 悔しいでしょっ! 普通っ! 悲しいよっ!」
私がそう思わず声を荒げると、グライブは一瞬、驚いたように目を開いて見せるが、金色の暖かな瞳を細めて、満足そうに微笑んで。
「君は、優しい人だ」
今までで一番穏やかで、優しい響きが私のことをそう称えた。
不思議な匂いをまとった人間。少女と言うにはあまりに女性的で、大人と言うにはまだ幼さが残る。珍しい響きの名前を持つ異世界の女性。
異世界人には何度か出会ったことがあったが、その出会った誰ともあまり似ている様子はなく、見た目が『人』であること以外の共通点はあまり見られなかった。
一応の警戒心はあるようだが、どうも人の言葉を素直に信じてしまう傾向にはあるようで、俺の言葉を言葉のままに素直に受け取っているようだった。もちろん、俺も嘘をついてはいないが、少し素直すぎて、町に行って騙されないかと心配になってしまう。
一緒に行けるものなら、彼女が安全にくらせるまでか、或いは帰り方が分かるまで一緒に居てやりたいとも思うが、俺はこんな体だ。筋力は落ち、前ほど体も思うようには動かない。こんな俺では守るどころかただのお荷物でしかないだろう。
町に行けば、俺の知り合いがギルドに居るだろう。傭兵ギルドでもハンターギルドでもどこでもいい。まずは、俺の知り合いに彼女の面倒を見てくれるように連絡を取ろう。まだメモリーオーブはいくつか残っていたはずだ。
久しぶりの連絡が頼み事だなんて、みんなには薄情な奴だと叱られてしまうだろうか。どうか許してほしいと、きちんと謝っておこう。
俺は、どうしても異世界から来た彼女を、リオを放っておくことはできそうにもない。自分の面倒すら見れない俺が何を偉そうなことを言っているのかと、自分で呆れるが、せめて、腐敗の森を抜けるまでは、彼女を守ってやりたい。それくらいの力はまだ残っているだろう。
綺麗な肩下まである真っ直ぐな黒髪と黒い瞳の愛らしい人。
顔の表情がよく変わって、見ていて飽きない。
今の俺はお世辞にも綺麗な姿ではないし、ゾンビだって裸足で逃げだす恐ろしさだというのに、彼女は俺が話しかければ、安心したように微笑みさえ見せてくれた。
そして、俺の話を、まるで自分のことのように腹を立て涙を流してくれた優しい人。
俺は、彼女を守りたい。
出会った時間は関係ない。守りたいと思ってしまったのだ。
罪を犯した己の愚かさに打ちひしがれ、ただ腐り果て死にゆくだけの無意味な残りの時間を、リオのために使えるなら、こんなに嬉しいことはない。
限られた残りの時間を誰かのために使えるなら、悔いなど残ろうはずもない。
ああ。きっと、この出会いこそが、夜の女神が俺に与えてくれた最後の慈悲に違いない。そう思えた。
最後に1人の戦士として、誰かを守る名誉を与えてくれたのだろう。
この体でどこまでできるかは分からない。願わくば、腐敗の森の最大の危険を遠ざけて進めれば尚良い。
久しく感じていなかった気力が俺の体を動かしてくれる。不思議なことに、痛みも、渇きも、今はそれほど苦痛に感じない。
出発は明日の朝、日が昇り始めたら行動しようと決めて、リオには少しでも休むように促した。腐敗臭やらバケモノどもの気配で眠れないと文句を言いつつも、リオは体を木に寄り掛かるようにして預けると、生暖かい木に文句を言いながらもすぐに寝息を立て始めた。
無理もないだろう。いきなり異世界に飛ばされて、気が付けば異常な森のど真ん中だ。俺はリオが眠ったのを確認すると、カバンにしまってあった小さな青いメモリーオーブを魔法で取り出し、自分の手で直接、触れないよう注意しながら、メッセージを入れる。
こんなみっともない姿で申し訳ないという前置きも入れて、リオが俺の前に現れたことを説明し、彼女が異世界からの稀人であること、彼女が一人でも生活できるようにサポートをしてほしいこと、そして、俺の荷物を全部、彼女に預けてあるから、今まで俺が貯めていたお金は全て彼女に渡してほしいことなど、大体伝えたいことを吹き込み、最後に。
「これを最初に見るのは、誰だろうな。俺には想像もできないが、久々の連絡がこんな頼み事ばかりですまない。みんなは、元気にしているか? グエンディの子供は、もう大きくなったよな? お前に似て美人に成長したろうな。サイラースはいい加減に里長になったのか? 長老たちを少しは労わってやれよ。そう言えば、モニカとジェリエルは結婚できたのか? そうなら嬉しいが――」
思い出せば、溢れる仲間たちとの最後の記憶は後から止めどもなく、そろそろメモリーオーブがパンクしてしまいそうだった。
伝えたいことはたくさんある。だが、時間なんていくらあっても足りないと感じた。当たり前だ、彼らとは仕事仲間であり友人たちばかりだったのだから。
俺のために涙を流し、腹を立ててくれる仲間たち、リオと同じく優しい友人たち。性別や種族の垣根を飛び越えて、俺たちは、強い絆で繋がっている。俺は今でもそう信じている。
だから最後に、これだけは伝えたい。
「――最後に、みんなありがとう。心から感謝している。リオを、頼むな」
俺はその言葉を最後にオーブの記録を止めた。
本当にこれが最後だ。
俺は記録が終わり黄色く色の変わったメモリーオーブを、魔法でそっとカバンの中に戻し、ふと息をつく。
空を仰ぎ月を見た。夜明けまであと数時間と言うところだろう。そして、俺は今日も女神に祈る。俺に最後の仕事を与えてくれただろう女神に。
今日の月は、やけに暖かな光を帯びているなと思いながら。
次回から、毎日一話更新を予定しております。