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18・始まりの日


 アディーラは貿易の拠点の1つになっている町だ。

 この町は普段から人が多いけど、今日はさらに人で賑わいを見せている。

 この町に限らず『新月の月』が明けると、新年を祝う『初年はつとしの祝い』として、3日間の感謝祭が各町や村で盛大に執り行われる、らしい。

 まあ、私は2年目にしてやっと、そんなお祭り気分を味わえているわけですが。


「もう人の波に流されて郊外まで行きそう」


 そんな勢いで、町はいつも以上に忙しない。

 だけど、確かにものすごいお祭りムードなのは目で見てもよく分かる。

 魔法の光を閉じ込めた大小さまざまな光が町を飾り、花飾りやリボンのような布が、全ての家や建物の屋上から町全体を縫いこむように上空でつながっていた。

 どの店先にも、神殿で見た太陽と月がくっ付いているようなオブジェのミニチュア版を花で飾り付けた置物が置かれていて、私の世界でいうところの門松的なものだろうと思う。

 本当に、誰もが楽しそうに小さな花飾りを片手に付けて、笑顔で溢れていて、あちこちで聞こえる笑い声や人の楽しそうな声は、否応なしに私の心もそう言う気分にさせるものだ。

 例にもれず、私もその花飾りを左腕の手首につけているわけですが。ちなみに、白いユリのような花とピンクのダリアのような少し大きめの花をクリーム色のリボンで結んでいる感じ。

 この手首に巻く花とリボンにはそれぞれ意味があって、花は生命力を意味し、白なら無病息災とか、赤なら商売繁盛とか緑なら健康とか、そう言う意味があるらしい。ちなみに、私の花は白とピンクだから、無病息災と大願成就の意味合いがある。

 そしてリボンには繋ぐという意味があって、願いを導きそれを成就させるための願いが込められている。ちなみにリボンの色は何でもいいそうなので、私はなんとなく、花に合うような色を選んでみた。

 ちなみに、グライブはというと、青いアジサイに似た花と白い大きなたんぽぽのような花を飾り付けている。白は私の花と同じ意味だけど、青い花は良縁を結ぶ意味があるとか。

 今でもすでに友人の多いグライブに、これ以上の良縁っているのかと疑問には思ったけど、良い縁に恵まれると言う願い以外にも、良い縁を長く繋ぎ続けたいという意味も込められているというのを教えてもらい、グライブは人同士のつながりを本当に大事に思っているのだなと、改めて実感できたエピソードだった。


「不安なら抱きかかえようか?」


 と、ナチュラルに言うグライブに私は思い切り首を横に振って、彼の手を握った。つまり手を繋ぐにとどめてもらった。

 いつも以上に人が多いというのに、こんなところで抱っこされた日には、恥ずかしいを通り越し、もう自分で穴を掘って埋まりたいレベルで町を歩けなくなる。おまけに大の大人が抱っこって、ただの通行の妨げと言うか、邪魔でしかない。


「そ、そんなことより、買い物でしょ? それで、何を買うの?」


 自分から手をつないでおいてなんだけど、大きな彼の手に掴まれた私の手が、なんだか異常に小さくてなんか気恥ずかしい。だからそれをごまかすために、私は今日の目的である『買い物』をしようと話題を振った。


「ああ、旅のしたくもあるのだが、新年と言えば、友人や知人を呼んで食事を振舞うと言うのが一般的なんだ。とは言え、俺はほら、ずっと旅をしていたから、呼ばれることはあっても、一度も呼んだことがなくてな。いい機会だし、君にもそう言う経験をさせてやりたくて、今年は家にみんなを呼んで見ようと思ったんだ」


 グライブはそう言うと、私に顔を向けて優しく両目を細めて見せる。


「本当にもう……」


 何でそこで私の名前が出てきちゃうかなぁ。嬉しくなってしまうじゃないか。


「もちろん、君が嫌でなければという話なのだが」


「嫌はずないでしょっ。すごく楽しみだし、私も料理とか手伝うからっ!」


 私がそう答えれば、グライブは嬉しそうに笑ってくれた。

 本当に、どうしようもないくらい、グライブは常に私のことばかり考えてくれている気がしてならない。と言うか、考えてるよなぁ。そう思うと、まず自分がやりたいこととかはないのだろうか? と気になってしまう。

 会話が途切れてふと、私は彼の横顔を見上げる。

 凛々しい狼の横顔は逞しくも美しく、野生の力強さを併せ持ち、その瞳には知性があふれ優しさをにじませる。実際の狼の横顔も凛々しくて大好きだったけど、グライブの横顔は、なんというか、もうたまらないくらいに魅力的だ。

 すっかり肉厚になった彼の逞しい体も、私の手を優しく包み込む大きな彼の手も、ふわふわな彼の体毛も、全てがまるで理想的すぎいて、いつまででも見ていたくなる。

 そんな風にじっと彼を見ていると、ふいっと彼が私に顔を向け。


「君の視線は情熱的だな」


 なんて、フフッと穏やかに笑う。

 そんな彼の優しくも甘い声と、彼の穏やかな笑みの破壊力は凄まじく、私の心臓がウサギにでもなったかのように飛び跳ねる。


(し、心臓に悪いっ!)


「も、目的地は、まだかなぁ~」


 なんて、誤魔化しにもなっていないようなワザとらしい態度で視線を外し、私は進行方向へと顔を向けた。彼の暖かい手に握られている私の手が、妙に汗ばんでいることが恥ずかしくて仕方なかった。





 この町で唯一、グライブとの接点がない私が個人的に知り合いになったプレミさん――私を町まで連れてきてくれた商人さん――の店に、私はグライブを案内した。

 プレミさんのお店は衣料品店なのだが、隣接するお店もプレミさんの働いている商会の店で、雑貨店と、その隣に食料品店が並んでいる。

 衣料品店の前には例にもれず、お祝いムードの飾り付けがなされ、店先にはいつもはない大きな棚が設置され、その棚の上には大量の紙袋が置かれていて、店先では従業員の人たちがその紙袋を売っていた。店先にはたくさんのお客さんも並んでいて、みんながこぞって紙袋をその手に掴んでいる様子がうかがえる。


(なんだか既視感の強い光景なんだけど……)


 そして、店の中から紙袋の補充をするためだろう、大量の紙袋を持ったプレミさんが現れて。


「プレミさんっ」


 そう呼びかけると、彼はこちらに顔を向けて笑顔で、両腕に持った紙袋を落とさないように手を振ってくれた。彼に会うのは2ヶ月ぶりだ。なんだかんだと、私はこの店にちょいちょい顔を出している。


「お久しぶりでございますね。リオ様」


「お久しぶりです。それにしてもすごい人ですね」


 他の従業員に手持ちの紙袋を手渡しながら、プレミさんは私の言葉に笑って返し。


「ありがたいことでございます」


 と、嬉しそうに言うと。


「毎年恒例の初売りでございます。紙袋の中に様々な衣装が入っておりまして、一律5ゴールドで販売しております。中身は開けてからのお楽しみ。というわけで『お楽しみ袋』と呼ばれておりまして、中々好評でございます」


 そう言ってプレミさんは店先の紙袋の説明をしてくれた。


(あー、福袋的なやつかな、これ)


「昔は首都でこういう光景を何度か見たことはあったが、この町でも定着しているのだな」


 グライブはそう言うと店先のにぎやかさにどこか懐かしそうに目を細めていた。そんなグライブの言葉に、プレミさんも頷きつつ。


「一昔前に、こちらに来られた稀人の方が始められたことらしいですね。我がブルーミンク商会の当時の会長様がいち早くそれを取り入れられて、我が商会も一躍有名になったとか。本当にありがたいことでございます」


 プレミさんのその言葉に、私はじゃあやっぱりこれって福袋かな。と思ったのはさておき、私とグライブは目的である買い物をするためにプレミさんのお店にお邪魔することにした。

 まず目的は旅のしたくだ。必要な衣服は自分たちで探すことになるが、グライブはもう一つの目的である食料の買い出しについては、私たちの説明を聞いたプレミさんが食料を用意してくれるというので、メモ書きを渡して頼んだ。

 本来ならこういったサービスはしないのだろうけど、プレミさんは。


「リオ様とは浅からぬ関係でございますからね」


 そう言って笑った。

 色々とお世話になったのは私のほうだとは思うのだけど、きっと『稀人』である私を気にかけてくれていたということなのだろうと、私は改めてプレミさんの優しさに感謝した。

 もしかすれば、ブルーミンク商会の発展に昔の『稀人』がかかわっているからこそ、『稀人』である私にもよくしてくれるのかもしれない。とも思った。


「だけど、旅のしたくって、何を買えばいいの?」


 プレミさんが居なくなった後、改めて店の中を見て回る私とグライブだが、『旅』と改めて言われてしまうと、非常に悩んでしまう。

 少なくとも、私の考える『旅』とグライブの言う『旅』では、イメージもニュアンスもだいぶ違うように感じる。


「そうだな。動きやすい服を3着。替えの下着は少し多めに、タオルを5枚ほど、防寒用の上着を1着。毛布を1枚。基本的にはズボンを用意するのがいい。長袖は必ず2枚。暑さに備えて薄手の上着が1枚あれば十分だろう」


 なるほど。と、私は頷いて見せる。

 さすがに旅をしていたというだけあって、必要なものを即座に教えてくれるあたり、本当に慣れているんだなと納得だ。


「他に必要なものは?」


「そうだな。他に必要なものだと……魔法店マジックショップで買うものが多いかもしれないな」


「マジックショップ」


 って、ファンタジーな響きだなぁ。なんて感想が頭に浮かぶ。


「いくつかポーションを買っておかないといけない。スクロールと薬草のいくつかも。事前に準備できる物は準備しておくのがいいだろうな」


 確かにそうだな。と、グライブの言葉に納得しつつ、私はグライブと相談しながら洋服を選んでいく。

 こうして準備は進む。

 旅立ちまであと少し、しばらくはこの町に帰って来れない。もしかすれば2度と帰らないかもしれない。分からないが、悔いのないようにしようと思う。





 衣服と食料を買いそろえ、私とグライブは家に帰りつくと、早速みんなに連絡を入れた。もちろん、お世話になったドクたちだ。

 今日の夜にみんなで、うちで食事をしないかと誘えば、みんなは2つ返事で来てくれることになった。今日ばかりは普段から忙しいドクやユーデスさんも来てくれることになって、私とグライブは早速、料理作りに取り掛かる。

 準備をしている間は本当に目の回る忙しさだったが、準備が終わればかなり作りすぎたのではないかと、若干の不安に陥っていた私だったのだけど。

 実際に呼んだのは8人くらいだったはずなのに、招いた人がみんなうちのリビングに到着するころには、なぜか20人近くが集まっていて、逆に料理が足りるか心配になってしまったほどだった。

 グライブを助けるためにかかわった何人かもこの食事会に来ていて、それを考えると、もっと人が増えてもおかしくない状況だったのでは? と、私はちょっとした恐ろしさを感じていた。

 いくらなんでも集まりすぎだから、マジで。

 だけど、これだけ人が集まったということは、グライブの人柄もあるのだろうけど、グライブの友人たちがそれぞれ、やっぱりいいひとたちばかりで、そんな彼らと仲のいい人たちも集まって、そうして繋がっているのだと、私は人とのつながりと言うのを不思議にも思い、同時に感動のようなものも感じた。





 あらかた食事も終り、楽しいパーティーが終りを迎えるころ、明日も仕事で忙しい人たちを見送り、それでも最後まで残っていたユーデスさんとサンタナさんが、食事会の片付けを手伝ってくれていた。


「なんか数日ぶりにまともな物を食べた気がするのよねぇ。リオの作った肉じゃがだっけ? あれ美味しかったわ。グライブの作ったロワ・デ・アポも絶品だったけど」


 お皿を洗いながら、サンタナさんがそう言いって幸せそうに溜息をついた。

 私はそんなサンタナさんの横で泡のついたお皿を水で流しつつ、水切り籠にお皿を入れていく。


「サンタナさんって、普段はどんなものを食べてるんですか?」


 おいしいと褒められるのは嬉しいが、微妙にサンタナさんの毎日の食事が気になってしまう。ちなみに、ロワ・デ・アポと言うのは、羊肉をたっぷりの野菜と赤ワインで煮込んだ伝統料理の一つだとか。食べた感じはシチューのようで、ゴロゴロと入った野菜とお肉が柔らかくて、たまらなく美味しかったです。


「リオ、サンタナの食事なんて聞いても面白くないぞ。普段から携帯固形食料か、栄養飲料水くらいしか口にしてないからな」


 なんて、グライブとともにリビングの片づけをしていたユーデスさんが、大量のお皿をグライブとともに持ってきてくれたタイミングで、私の言葉に答えをくれた。


「相変わらずなのか、サンタナ」


 そして、ユーデスさんの言葉を横で聞いていたグライブも、そう一言添えて苦笑いを見せる。


「研究が忙しいのよっ! そう言うあんただって、食事は外食か騎士団の寄宿舎で出る食事でしょうがっ」


 ユーデスさんに対し、そう言い返すサンタナさんだが。


「寄宿舎の食堂で出る食事だったら、栄養バランスを考えたきちんとした食事なのでは?」


 なんて、思わず突っ込んでしまった私に、ユーデスさんとグライブが同時に吹き出していた。


「リオはどっちの味方なのよぅっ!」


 そう言うと、サンタナさんは植物の蔓を伸ばして私の頬をつんつん突ついてくる。

 両腕のふさがった私と違い、人外さんはこういうことができるから、ちょっとずるいと思ってしまうのは内緒である。


「いや、私はグライブの味方です」


「ブレないわねぇ。そう言うところが好きっ。すごく好き!」


「私もサンタナさんのこと好きですよ」


 美人だし、いい匂いがするし、面白いし、機械オタクだし、ちょっと残念なところも含めて好きだなと思う。

 もちろん、サンタナさんだけじゃない。グライブの友達はみんないいひとで、出会ったみんなのことが私は好きだと思う。


「本当にもう、ここにずっと住んじゃえばいいのに」


 サンタナさんにそう言われて、私は苦笑いを返すしかなかった。

 ずっとここに居てと言われて、嬉しくないはずがないから。


「そればかりは仕方ないだろ。家族や家を恋しく思わないやつは稀だ。お前だって家族が好きだろうに」


 ユーデスさんにそう諭され、サンタナさんが口をとがらせて見せる。


「そりゃそうだけど。だって、稀人ってそう言うものじゃない?」


 サンタナさんの言葉がどういう意味かを正しく理解できているユーデスさんとグライブはふと口をつぐみ、グライブはそのままキッチンの中に入ってきて、水切り籠の中にある食器の水を布巾で拭い始めた。


「俺は、きちんと自分で答えを見つけるというのも、リオにとっては大事なことだと思ている。それに、やってみなければ分からないこともあるだろうとも思う」


 グライブはそう言うと、水をふき取ったお皿を食器棚に戻していく。

 どうにも空気が暗くなったように思うのはきっと気のせいではないだろう。そして、その空気の暗さは、間違いなく私のことだ。

 なんとなく、それがこれから向かう旅の目的と関係があることはわかる。

 つまり、サンタナさんは『稀人』が『帰った』ことがないというのを言いたいのだろうと思う。

 気を使って遠回しな言葉を選んでいるのかもと思うと、ちょっとだけこの人たちの気遣いがくすぐったくも思うけど。


「帰った記録がないとか、稀人がどうしてこの世界に来るのかと言う話なら、グライブに聞いたんで大丈夫ですよ」


 そう私が努めて明るい声で言うと、サンタナさんとユーデスさんは互いに顔を見合わせた後、私に視線を戻した。


「ジョーデンス・ファーマン学士の研究の話ね。まあ、あの研究って、稀人がこの世界に来るメカニズム的なあれだった気がするわ。『世界崩壊』と『異世界転移』との因果関係を研究したやつ」


 サンタナさんはそう言うと、何かを考えているような様子で洗い物を続ける。


「学者先生って言うのは、難しい言葉を並べたがる癖があって分かりにくいが、簡単に言えば稀人がこの世界に来るのは、元々稀人が暮らしていた世界で、彼らが生きていられないほどの何かが起き、そこかあら逃げるためじゃないかってやつだったよな?」


 サンタナさんの言葉を拾って、ユーデスさんはそう答えるとキッチンカウンターに頬杖をついた。


「でも、それを聞いたなら、余計に探すのはおすすめできないっていうか、ねぇ?」


 サンタナさんはそう言うと、洗い物をつづけながらこっそりとため息のようなものを吐き出していた。

 そして私はと言うと、サンタナさんの言葉にある意味で納得できてしまっている。

 よく覚えているのだ。グライブがあの日、教えてくれた言葉を。


『幾重にも折り重なるようにして異世界が無数に存在しているのならば、今まさに世界が崩壊しようとしている場所があってもおかしくない。そして、そんな世界から、運よく逃げ出した人間のいくらかは、一番近い異世界に逃げ延びるのだろう』


 その言葉を思い出すたびに、私は不安を感じていた。

 漫画じゃあるまいに。そう心のどこかで否定していた自分もいる。だけど、『異世界転移』は今まさに、自分の身に起きている。そして、その原因を突き止めようとするなら、絶対に避けられないことがある。

 それは、私の暮らしていた世界がどうなったのか。と、いうことだ。

 私の記憶がないことの原因もきっとそこにある。思い出したくない。と言う思いも頭の片隅にあるけど、私が本当に家に帰りたいと願うなら、思い出さないわけにはいかないことだ。

 記憶が戻らなければ帰ることができないのだから。進み続けるしかない。


「だが、俺はリオの願いが叶えばいいと思う」


 そう言ったのはグライブで、彼に顔を向ければグライブが大きな手で私の頭を優しくなでた。


「無事に記憶を取り戻し、家族のもとに帰れればいいと思う。だからこそ、リオが俺を助けてくれたように、俺もリオを助けたい思う」


 グライブはそう言うと、優しく笑う。

 グライブはそう言ってくれるけど、実際、助けられているのは私の方だ。

 彼の言葉に、彼の温もりに、どれだけ助けられているだろうか。何も知らない世界に放り出されても、大丈夫でいられたのはグライブのおかげだ。彼が私に目的をくれたのだ。

 家に帰りたいという願いを口にできるのも、彼が私を支えてくれているからなのだ。

 どれだけ時間がかかるのか、本当に記憶がよみがえるのか、私は家に帰れるのか、そう言ったすぐに答えの出ない疑問や心配が山のように心の中に降り積もって息が詰まりそうになっても、グライブが『大丈夫』と言ってくれるだけで、私の心は落ち着いてくれる。

 だけど、それは私にとってとても危険な感情でもある。なぜなら、グライブの存在が日増しに大きくなってきてしまうからだ。それは私に別の不安を植えつけてしまう。

 いつか、彼と別れなくてはいけないという不安。

 ずっとはいられない。

 私は自分の中にある矛盾をどう処理するべきなのか、悩まずにはいられなくなっていた。

 家に帰ることとグライブと一緒に居ることは両立できない。

 だからこそ、私は家に帰ることを目指さないといけない。そう自分に言い聞かせて眠るのが日課になりつつあるのだ。



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