愛すべき偶像よ。6
結論から言う。
今日の『城井兎斗』のライブは最後のライブだった。
もう、始まることの無い最後のライブだった。
そして、俺が求めていた握手会は開催されなかった。
帰り道、涙が出た。すごい、涙が出た。
昨日、殴られた。あの時よりも、すごい、すごい、涙が出た。
日はまた昇る。空けない夜は無い。
そんな、言葉があるけれど……
ならば、遡ってもいいじゃないか……
頬に流れた涙は、乾いていた。
今日は、4時に起きた。
電車に乗った。デブ、怪我をしている。デブ、アイドルオタクの、デブ
線路の上を走り、武道館があった。
何回目かの武道館は何回来ても新鮮だった。
それこそ、痛みを忘れるぐらいには『城井兎斗』を好きだったと思う。
アイドルの仲間と昼過ぎにあった。
『豚』と罵られ『虐め』てきた奴らとは違う。
ちゃんとした。『友達』と言える人たちに会えた。
少なくとも、俺はそう思ってる。
「昨日のうとちゃん可愛かったね!?」
となりの男が言った。
「そうですよね?昨日からでしたっけ?全国ライブ」
俺は言った。
「そうだよ。まもるくんは今日組だっけ?」
目の前の男は言った。
2人は俺の顔には触れず会計した。
お昼ご飯は俺ともう1人以外の人が払った。
お金はいらないと言った。
もう1人はコンビニにより3人分の飲み物と消毒液、絆創膏を買った。
「何があったかは聞かないし飯食う度に痛がってるのも気にしない……」
男は俺の目を見て言った。
「だが、その顔でアイドルの前には行けねぇだろ……痛いかもだけど、絆創膏貼ってけ」
傷は痛かった。
消毒液が染みた。絆創膏を貼るのが下手だった。
それよりも、涙が傷に染みた。
みんな、ありがとう……
これから、楽しもう……
『兎斗』ちゃんの!!!『ライブ』を!!!
夜になった。楽しみな『兎斗』ちゃんのライブ
「みんなー!!!今日もうとちゃんのライブ見に来てくれてありがとねー!!!」
みんなが、叫んだ。みんなが、盛り上がった。
ただ、その後、みんなが黙った。
『城井兎斗』はキメラだった。
俺と同じように
いや、俺以上に『城井兎斗』は傷ついていた。
きっと、セットリストがあるのだろう
きっと、明日からのライブも中止だろう
きっと、キメラと叩かれるだろう
きっと、この傷のこともファンを騙していたことも報道されるだろう
きっと、きっと、きっと、、、
俺は叫んだ。
「うとちゃーん!!!大好きだよー!!!」
俺は、いや、俺達ファンは、
『城井兎斗』のために、『城井兎斗』のライブのために、
『キメラ』を殴ったことを忘れたかのように
『応援』した。




