アイドルシンドローム 後編
「ねぇ?知ってる?アイドルって顔が命なんだよ?」
口から出た言葉はアイドルから解放された。私が言えた言葉ではないと思う。
だけど、口から出てきた。
「え?」
「え?じゃないよ!!!泣いてる顔なんてアイドルの顔じゃないよ?泣いてても笑ってても怒ってても愛される顔にならなきゃ」
私ができなかったことがスラスラと口から出てくる。
「あの……」
私の顔をジッーと見るこの『城井兎斗』の目も頬も赤くした顔を私は可愛いと思ってしまった。
「兎斗ちゃんってさぁ……あ、雪ちゃんの方がいい?」
戸惑った顔が可愛い。アイドルとして嘘でも笑ってる顔が可愛い。演技だとしても配信で怒った顔が可愛い。
そして、今、泣いてる。この顔が、『キメラ』だと知られないために必死で隠すこの顔が可愛い。
あーやっぱり、アイドルっていいな
「あ、私、未来!!!みらいって書いてみくね?あ、本名だよ?芸名は……知ってるか」
アイドルという顔を捨てたけどアイドルに憧れてた。
元キャットシーサイドの新井未来という名前をこの『世界一』『可愛い』『アイドル』に知って欲しかった。
そこからは色々と話した。
自分が元でもアイドルだったと思いながら目の前のアイドルと
底辺でもアイドルだったから知ってる。
この子は頑張って努力をしている子なんだと……
ー数ヶ月後ー
私の推しのアイドルが『キメラ』だとバレた。
何回も殴られてた。
『痛そう』や『怖い』や『苦しそう』の中に一部のアイドルは『いちばんかわいい』を貶すように『ざまぁみろ』って言葉が聞こえた。
ただ、殴る音や誰も助けない周りの声や醜く聞こえた悲鳴でそんな憎悪はかき消された。
私もその周りと同じようにそれを見てるしか無かった。
恐怖で足が震えた。
あの可愛いアイドルが顔に痣ができるほど殴った拳が血で黒くなるほど私は恐怖で「やめて」ということはできなかった。
そして、次の日
山田雪はアイドルとしてボロボロな顔でステージに上がった。
これはアイドルが見る世界でも観客席で見る世界でもない。
元アイドルで、現スタッフの、見て見ぬふりをした。
ー最悪な偽善者の物語であるー




