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人殺しには花束を 〜贖罪人たちの青春挽歌〜  作者: まじりモコ
二話 それが彼らの日常
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 かなめは少年へ「何年生か」「あの二人の名前は分かるか」と、千夜ちよに指示されるまま質問を投げかける。カツアゲされかけていた少年はたどたどしいながらも全てに答えて教室へ帰って行った。


「任せちゃってごめんね、かなめ君。本当はうちらが最後まで責任持つべきやのに」


「それで、どうだった」


 少年を怯えさせないよう離れていた千夜と啼臣が、少年が帰ったことで近づいて来る。要は二人に今しがた得た情報を報告した。


「あの子は一年生。さっきの二人は隣のクラスで一年三組。目を付けられて先週から脅されてたって。名前はメモしてもらった」


 書いてもらった紙切れを渡す。啼臣ていしんがそれを受取ろうとしたのを、千夜が横からひったくった。


「なにをする」


「啼臣が知ったら本人のとこに突撃していきかねないでしょ。これは大事おおごとにならないよう、うちから研究所マントールのほうに報告しときます」


大事おおごととはなんだ。おれはただ厳罰を望むだけだ」


「ほらコトを荒立てる! さっきだって、うちらが行かなくても先生呼べばよかったんよ。あんま目立つなって紗枝さえ先輩にも言われてるでしょ」


「罪なき者が悪人に虐げられるさまを放置せよというのか」


「そういう問題じゃなかとよ、もー」


 意固地な啼臣の発言に千夜が頬を膨らませる。かなめはコントのような会話を聴きながら首をかしげた。


研究所マントールに報告して、どうするの」


「退学にしてもらうんよ。ああいうの放置して万が一、触発された緑輪館の生徒が暴れたら危ないでしょ。特にこいつみたいなのすぐ出しゃばるから」


 千夜が啼臣の頬をブスブスとつつく。啼臣は憮然とした表情で黙りこくっている。否定する気はないらしい。


 要は千夜の語る理屈に理不尽さを感じたが、それも当然かもしれないと思いなおした。


 この街はある研究所が管理している。研究所は玖楼くろうの務め先だから、要も何度か連れて行かれたことがある。あそこはコレールと戦うための研究に特化した場所だ。この街の全ては、無限に湧いて来るコレールと戦い被害を広げないためにある。


「もうこんなことを四十年くらい続けてるんやって。コレール退治にうちら未成年の犯罪者を使ってるて町の外にバレないよう、研究所マントールも厳しく監視しとるのよ。だから可哀想だけど、あの不良さんたちにはご退場願わないとね」


 町も、学校も、緑輪館も。全部が戦いのために存在しているのだ。高校生二人の退学など些事さじである。万一を考え万全を期すのは当然なのだ。


「えっ、だったらさっきのマズくない?」


「何が?」


頭蓋骨ずがいこつ割れても人は死なないの知ってるとか。それ聞いたあいつらに素性を怪しまれたら……」


 混乱が起きないよう緑輪館の生徒たちは自身の素性を偽っている。玖楼はそう言っていた。人殺しであることは知られてはいけないはずだ。


 疑問に焦りを交えて言うかなめに、しかし千夜は軽く笑う。


「心配いらんて。ああいうバカは冗談だとしか思わないし。もし疑問に思ってもネットで調べる程度。街の中での通話や通信は研究所マントールが常時監視して、うちらに関することには繋がらないよう妨害してくれとる。それにほら」


 昼休みが終わってしまうと先に校舎へ進む啼臣を追いながら、千夜が要の背を押す。


「この街に来る時、うちらはみぃんな死んだことになっとるでしょ。うちも、要君も。だからどうせさ、同性同名の誰かとしか思われんよ」


「…………」


 千夜は口元だけに薄い笑みをつくった。そこに見えない壁を感じて、要は言葉を失ってしまう。


 遠くを見つめる彼女の瞳には、どこか寂しさが隠れているような気がした。




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