畏怖
しゃこ、しゃこ、しゃこ、しゃこ…
バスルームに響くのは、シャンプーをする、音。
しゃわ、しゃわ、しゃわ、しゃわ…
今日は、暑かったから、念入りに。
しょわ、しょわ、しょわ、しょわ…
ずいぶん泡が立ってきた。
もふ、もふ、もふ、もふ…
……。
僕は、今、頭を、洗ってるんだ。
……。
気づくんじゃ、ない。
目を閉じている、恐怖心に。
ぼふ、ぼふ、ぼふ、ぼふ…
……。
閉じている、目を。
開ける勇気が、出ない。
……。
開いて。
ばふ、ばふ、ばふ、ばふ…
……。
もし。
……。
誰かが、いたら。
恐怖と向き合う、時が来た。
泡立てる、手を、止める。
シャワーのコックをひねって。
シャワーーーーーー…
泡を、流して。
シャワーーーーーー…
もし。
誰かが、いたら。
シャワーーーーー…
流し終わって。
きゅ、きゅっ…
顔の、水滴を、手の平で、払いのける。
よし。
誰もいない。
よし。
大丈夫。
目を、開けるぞ。
意を決して、目を開いた僕の目の前には。
鏡に映る、いつもの、僕の顔。
僕は、畏怖を、乗り越えたのだ!
ああよかった、そう思って、立ち上がり、振り返ると。
ばあん!!!
ドアが、開いた!!!
そ こ に は
「ちょっと!鍵開いてたから勝手に入ったわよ!昼間っからお風呂入って、もう!!」
一人暮らしの僕を心配して、急遽上京、突然訪問した、母親の姿が。
…いい年をして、全部、全部!! う、うわあああああ!!!
僕は、もう絶対に、目を閉じてシャンプーなど、しない。
畏怖=ifみたいな。