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幻想世界の紀行録  作者: TaYa
迷宮島の放浪者たち
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二日目・2

 装備の確認を終えたアンカルヤは、バックパックを片手にテントを出た。

 地面は霜に覆われ、テントの表面も同様だ。

 テントを片付ける前に、この霜を払い落とす必要があった。


「面倒な。このテント、城塞並みの頑丈さが自慢のくせに、霜には負けるのだな」


 このテントは寒冷地での使用を想定していなかったので、霜に対する対策は全くとられていない。


「あれこれ機能山盛りのくせに、どうしてこういう所が至らないかなぁ。これ作ったの、絶対に日本の家電メーカーだね」


 ブツブツと文句を言いながら、アンカルヤはテントの霜をボロ布で落とし、設置のときと同様に少し手間取りながらもテントを片付けた。

 そして全ての荷物をバックパックに括り付けて、出発の準備を終える。


「さて、今日は見通しのいい場所を見つけて、ここが迷宮島かどうかを確認するか」


 とりあえず、この森から脱出するという目標は後回しだ。

 それよりも先に、ここが迷宮島なのか他の何処かなのかを確認する必要があった。

 ここが迷宮島だとしたら、森からの脱出に意味がない。森の外は海であり、アンカルヤには海を渡る手段がないからだ。

 確認方法は、島の中央にある火山を見付けることだ。

 山が見当たらなければ迷宮島ではないだろうし、山があれば迷宮島である可能性が高くなる。

 もちろん、火山なんて世界中に幾つもある。火山を見つけたからといって、ここが迷宮島だとは限らない。全く無関係の場所である可能性もゼロではない。

 しかし様々な状況証拠が、ここがゲームの中の世界であると主張している中で、それを言っても現実逃避でしかないだろう。

 アンカルヤは重い気持ちと共にバックパックを背負い、森の奥へと足を踏み出した。


 ふと見上げれば、青い空には疎らに雲が浮かび、太陽の光を浴びて白く輝いている。快晴とまではいかないが、昨日に比べれば間違いなく良い天気だといえる。

 例えここが異世界であったとしても、空の青さも、雲の白さも、太陽の眩しさも、『彼』が日本で見上げていた空と変わることはない。そのことに、アンカルヤは何かが少しだけだが救われたような気がした。






 アンカルヤは森の中をさまよい続ける。足取りは昨日に比べて幾分しっかりとしてきていたが、まだまだ頼りない。

 進む方向は東。午前の太陽に向かって進む。

 さすがに昨日のように、勘だけを頼りに森の中をうろつくのは無謀だとアンカルヤも自覚はしていた。

 だがそうはいっても、ならばどの方向に進むのが正解なのか。それも彼女にはわからない。

 とりあえず東に向かって真っ直ぐ進むと決めた彼女だが、その根拠は特にない。結局の所、これも彼女の勘であった。

 それでも一方向に直進するという今日の方針は、昨日よりはかなりマシだといえた。


 遠くまで見渡せる開けた場所というのは、この森の中ではなかなかに難しい条件であった。

 植物の少ない開けた場所なら何度も見かけたが、大抵は薄暗い窪地で見晴らしは悪かった。

 山の存在は、まだ確認できない。

 何一つ進展を見ないままに疲労だけが蓄積していく状況に、彼女の心が萎えていく。


「私、すごく不毛なことをしていないか?」


 何度めかの小休止。

 空を見上げると、太陽は随分と高い位置に移動していた。


「見通しのいい高台なんてすぐに見つかりそうなものなのに、意外にないものだね」


 周囲を見渡すために、木に登ってみることも考えた。

 アンカルヤの身体能力だけを見れば、十分に可能だろう。しかし木登りに関する知識と技術の面で不安がある。彼女も『彼』にも、木登りの経験はなかった。


「まあ、これは行き詰まったときの選択肢として、心に留めておくか」


 現状がすでに行き詰まっているのでは、と思わないでもなかったが。






 太陽が頂点に達すれば、後は落ちていくだけ。

 何の成果もないままに、今日という一日が折り返し地点を過ぎたことに焦りと苛立ちを感じながら、アンカルヤは太陽を背に森の中を進んでいく。

 ふと、木々の隙間に開けた空間を見つけたが、この位置からでもわかるくらいに薄暗い。

 見晴らしに期待はできそうになかったが、彼女はとりあえずその場所に向かった。


 予想通り、その場所は暗くて見通しも悪かった。

 だが、そんなことはどうでもよかった。

 彼女が予想もしていなかったものが、そこにあったのだ。

 何者かの、生活の痕跡である。


「これ、まさかゴブリンの巣か?」


 アンカルヤは、目の前の光景に息を呑んだ。


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