太陽のクレヨンと夜の絵の具
12/11 19:20 挿絵と本文を追加
むかしむかし、まだこの世に夜がないころ。
女神さまが見守る森に、メイリアとサヨナキいう双子の女の子が仲良く暮らしていました。
毎日、妹のサヨナキに起こされて、姉のメイリアは目を覚まします。
「おはよう、サヨナキ。今日はお花畑にいきましょう」
「いこう、いこう」
自慢の金色に光る髪をクシでとかし、朝ごはんを食べて、メイリアとサヨナキは森の花畑へとでかけました。
小道を走り、木立を抜け、小川にかかる橋を渡ると、お花畑はすぐそこです。
あちこちに色とりどりの花が咲き、メイリナとサヨナキの目を楽しませてくれました。
そこへ森の動物たちが集まってきました。
「おはよう、シカさん。赤いお花が咲いてるよ」
メイリアはシカに話しかけ、赤い花を指さします。
シカはわからないと、首をかしげます。
「あかい? あかいってなんだい? メイリナ」
「赤いはあかいだよ。ほら、あれも赤い花だよ。そしてあっちの花は黄色いの」
「わたしには、同じように見えるよ」
赤色についてを教えてあげても、黄色を見せても、青い空を指さしてもシカにはわかりません。
「色ってなんだい?」
シカといっしょにやってきたイノシシも、色がわからないと言いました。
「森にはいろいろな色があるんだよ。ほら、あの蝶は綺麗な緑色、あの鳥は青い鳥だよ」
メイリアは一生懸命、森にある色を指さして教えますが、森の動物たちに、色はわかりません。
森の中で、色を見てわかるのはメイリアとサヨナキだけです。
「森のみんなに、色を知ってもらうにはどうしたらいいんだろう?」
メイリアはサヨナキと話し合ってみますが、いい案が出ません。
「わからないね」
「どうしてみんながわからないのか、わからないね」
困った二人ですが、メイリアがいいことを思いつきます。
「わからないから、お母さんに聞いてみよう」
二人のお母さんは、なんでも知っています。
双子のお母さんは、いつも空にいます。
二八日に一回だけ、メイリアとサヨナキはお母さんに会うことができます。
明日はちょうど、会える日でした。
翌朝、二人は森の東の山に登って、森の動物たちが色を教えても見分けがつかない理由を聞いてみました。
「森の動物たちは、色を見ることができません」
山の頂上で娘たちを迎えたお母さんは、ふわふわ空に浮かび、二人の質問に答えました。
「どうしたら、森のみんなも色がわかるようになるの?」
「森のみんなに、色を教えたいのですか?」
「うん」
お母さんの問いかけに、メイリアとサヨナキはうなずきました。
「わかりました。二人にはこれをあげましょう」
そう言ってお母さんが両手を広げると、逆さの虹が現れて光りを放ち始めました。
メイリアは虹の光に見入りますが、サヨナキはびっくりして目を閉じてしまいます。
そして虹は二人の前で、7色のクレヨンとなりました。
「この太陽のクレヨンで同じ色を塗れば、森の動物たちもあなたたちと同じように、色を見ることができるようになります」
「ありがとう、お母さん」
色とりどりの七本のクレヨンをもらい、メイリアはお母さんにお礼をいいました。
「わたしはいらない。メイリアにあげる」
サヨナキは虹の光にびっくりしてしまい、怖くなって太陽のクレヨンをメイリアに預けました。
目を閉じてしまったサヨナキの手の中に現れたクレヨンは、七本すべてが白でした。
「うん、ありがとう」
さっそくメイリアは山を降りて、森へ戻りました。
そして太陽のクレヨンで、森に色を塗っていきます。
花はメイリアの見える通りの色とりどりに、草や木の葉は緑に、色を重ねて塗っていきました。
「クレヨンは濡れないけど、水は塗れないね」
水はクレヨンで塗れないので、透きとおったままです。
メイリアが頑張って森を塗り終えたころ。
森の動物たちはすっかり変わった森に驚き、仲間を呼んでみんなで色を楽しみました。
「これが色か」
「森はこんなにきれいなところだったんだね」
シカは自慢の角に、七色の花を飾り付けてオシャレを気取ります。
仲間のシカもマネて、森のあちこで七色の花が、つまれてしまいました
「よし、じゃあオレは花を育てよう」
イノシシは懸命に鼻で、森のはずれの荒れ地を掘り起こしました。
花をつみすぎたシカたちは、お礼を言いながら花の種を撒き、新しい花畑が増えました。
シカ以外の動物たちも、
こうして色を知った動物たちは、この森をもっと好きになりました。
森の動物には、綺麗な色の鳥たちもいました。
メイリアはそんな鳥たちの色も、見える通りに塗っていきます。
「あなたって、こんなすてきな色をしていたのね」
鳴き声が残念な鳥も、自慢の羽毛で人気者になりました。
つんだ花を届ける鳥もいます。
こうして色のついた森は、にぎやかな動物たちでいっぱいになりました。
しかしある日、メイリアは真っ黒なカラスまで、白く塗りはじめます。
「メイリア。どうしてカラスたちを白く塗るの? カラスは黒いんだよ」
サヨナキはメイリアを止めました。
「真っ黒だなんてかわいそうだよ」
メイリアはそう答えます。
見えるとおりそのままに、メイリアは塗りません。
サヨナキは怒って白いクレヨンを取り上げました。
「返してよ!」
「白いクレヨンは、もとはわたしのもの! 見える通りに塗らないなら、返してあげない!」
「いいよ! ほかの色で塗るから! 」
黒いカラスを、ほかの色で塗りはじめたメイリアを置いて、サヨナキは家まで飛んで帰りました。
怒ったサヨナキは白いクレヨンを、メイリアに使われないようにイバラの生える裏庭のゴミ捨て場に捨ててしまいました。
「サヨナキ、サヨナキ……」
壊れた道具やおもちゃを捨てるゴミ捨て場から、サヨナキを呼ぶ声が聞こえてきました。
イバラの中から、壊れた人形が出てきてサヨナキを呼んでいます。
「だれ?」
だれと聞かれても答えない壊れた人形が、サヨナキへ語りかけます。
「カラスは黒いままがいいと思うかい?」
「……うん」
「そうかい。きみは間違ってない。間違っているのは、違う色に塗り替えてしまうメイリアだ。だから、きみはすべて黒く塗ってしまえばいい」
壊れた人形は、ゴミ捨て場から黒い筆と、黒い水のようなものが入ったバケツを差し出しました。
「これは絵の具というものだ。これならば水も空も塗れる」
「それはすごい!」
空も水も塗れると聞いて、サヨナキは壊れた人形から黒い絵の具を受け取りました。
「さあ、これで塗り変えられたカラスの色を、元に戻してきなさい」
「うん、わかった。ありがとう、お人形さん!」
サヨナキは飛んで森に戻り、あちこちに飛ぶいろんな色のカラスを捕まえて、次々と色を塗り替えていきました。
「よしてくれ!」
真っ白に塗られたカラスが、サヨナキから逃げ出そうと暴れます。
すると翼が絵の具の入ったバケツにあたり、ひっくり返ってしまいました。
こぼれた絵の具は、サヨナキの金色の髪を真っ黒に変えてしまいます。
夜の絵の具は、壊れて捨てられた人形の真っ黒な心でした。
バケツからこぼれる黒い絵の具はとまりません。
なんでも黒く塗りあげてしまいます。
絵の具はどこまでも広がって、真っ黒になったサヨナキとともに、「夜」になりました。
「大変! サヨナキが見えなくなっちゃった」
真っ黒になってしまったサヨナキを、元の色に塗りかえようとメイリアは空に飛び出しました。
抜けたサヨナキの髪は、少しだけ絵の具が流れ落ちて、金色に光っています。
やがて抜けた髪の毛は星となり、メイリアはそれを目印にサヨナキを追いかけました。
そしてサヨナキを探して夜をクレヨンで塗りかえ続け、メイリアは「昼」になりました。
サヨナキを追いかけるのに忙しくて、メイリアは森を好きな色に塗る時間はありません。
こうして一日の半分は、サヨナキがすべてを塗りつぶす黒い夜となり、もう半分はメイリアが塗り戻す昼となりました。
2人は別々に暮らすことになってしまいましたが、悲しいことなどありません。
サヨナキは夜の間だけ、空のお母さんと一緒に寝られます。
真っ黒に染まっても、お母さんはとてもやさしいお母さんのままです。
メイリアは昼の間だけ、空のお母さんと一緒に色を塗ります。
朝になればお母さんは真っ白になり、白いクレヨンのかわりに白い色を塗ってくれます。
この世に夜と昼ができてしまいましたが、悲しいことではありません。
これからサヨナキもメイリアも一日の半分を、空にいる女神のお母さんと一緒にいられるのですから。
こうして星々が空で輝くその日まで、夜は真っ黒で何も見えない時間になりました。
童話を書いてみました。
イメージ的には異世界の架空神話といったところでしょうか?
いくつかの解釈できるように、あえてふんわりと描いております。
たぶん作者が考えているいくつかの設定以上に、解釈が生まれることでしょう……たぶん。
クレヨンは絵の具を弾くんじゃないかというツッコミは聞こえない。