だいいちわ
初投稿。投稿頻度は極めて低いです。
_業火の中からゆらゆら揺れる人影。
その足音は,家屋の燃える音,悲鳴,子供の泣き声に紛れて聞こえない。
周りの状況を把握するだけでも困難だ。
徐々に影がはっきりしてきたと同時に,
人間とは思えない影になってゆく。
姿を明確にした"ヤツ"は
童話の中で見たようなドラゴンの翼,邪悪な雰囲気を醸し出している角が生えている。
きっとこの惨事を引き起こしたのも"ヤツ"の仕業だということがわかった。
こちらの存在に気づくと,その翼をはためかせ,威嚇している。
ああ,終わった。
そんなことを考えている暇もなく,僕の視界は歪み自分の足のようなものが転がっているのをみたのを最後に意識はなくなった。
そして……_
「そして………」
「あぁぁもうなんでだよぉ!いつもオレは主人公を殺しちまうんだよぉ!!!」
叫んだ後の静寂さは自分を惨めにさせる。時代遅れの箱型PCの呼吸音を聴きながらデスクチェアーにもたれ掛かる。
寝起きのぼさぼさの髪,Tシャツにパンツという身なりに少し難がある,この小説の主人公の麻木 実夏は,午前零時を過ぎても部屋着(?)のままでうなだれている。
オレは一応高校生だが,長らく学校へは行っていない。
理由はいじめられてるわけでも,クラスに不満があるわけでもなく,ただ好きなことに熱中していたいだけなのだ。
その結果この有様なのだ。
冒頭の"アレ"はオレのやりたい事である。
オレの夢は人気ラノベ作家になって自分の作ったキャラをグッズ化して周りからチヤホヤされることだ。同じ趣味を持った読者の方とイベントを開いて語り合ったり,あわよくばテレビで"我が子"が動く姿が見たいのである。
新しく製作しようとしている,ファンタジーものは見た通り主人公が秒で死んでいる。
これは無意識的に行われているのだ。
まあ俗に言う"スランプ"と言うやつらしい。
なら,ファンタジーじゃなくて,他ジャンルに挑戦すればいいだけの話なのだが,今,大人気ファンタジーラノベ作家の「秋水 まどか(あきすい まどか)」先生に憧れを抱いているからである。まどか先生の書くファンタジーは他の作家さんとは違う雰囲気を帯びているのだ。
ファンタジーは幻想の中の話で,非現実的な展開が多いが,先生の小説は,現実味があって面白い。まるで,世界の全てを知っているかのような想像力,発想力,ファンタジーものとは思えないような展開がオレに刺激を与えた。
もちろん,同じ土俵に立って見たいというわけじゃない。
まどか先生のような,思考が欲しいのである。オレが一人前になって,インタビューを受ける日が来たら,「まどか先生という存在があったからこそここに来れたんです!」と言いたい。
まあ,妄想に過ぎないのだが。
「あぁ〜。頭回らねぇや,仮眠取るかぁ」
そしてオレは軋むベッドで眠りについた。
冬の寒さが微かに残っていて,まだ桜も咲いていない。これから高校生活が始まると言うのに少々華やかさに欠ける登校日を迎えた麻木実夏は,だるそうに無造作ヘアをいじりながら電車に揺られている。
眼下に広がる都会の風景はまだ見慣れない。田舎から親の転勤で一週間ほど前に東京に引っ越して来たのである。
通勤通学ラッシュで,混み合った車内は蒸し暑かった。
そんな状況下でイライラしていると,するっと隣に同じ制服を着た男子生徒が入ってきた。
「おはよう!緑のネクタイって事は一年生だよね?僕もなんだっ!よろしくね」
彼は,そうオレに伝えると眩しいほどの笑顔でこちらに握手を求めている。
「あぁ,よ,よろしく?」
「急に話しかけちゃってゴメンねっ。僕一人だったから不安で。同じ制服で一年生の子を見つけたからつい声かけちゃってさ!あ,僕の名前は山吹将也。よろしくね!」
オレの手を掴んでブンブン振り回す。遠慮気味に手を離した。目で「名前は?」と訴えている。とにかく目ヂカラの強いやつだった。
「えっと,オレは麻木実夏。クラスは1年A組。よろしくな」
「A組!?同じクラスだっ!」
心から喜んでそうな笑顔でオレの手をガッと掴んだ。
「ちょ,狭いんだから暴れるなよ。」
「えぇ?だって,偶然声かけた子が同じクラスだったんだよ?これって運命じゃない?僕達良い友達になれる気がする!」
まったく根拠のないことを言うやつだ。出会って数分のやつに運命とか友達とか。こいつとは色々な価値観が違いそうだと思った。
でもまあ,こいつと居たら少しはマシな高校生活が送れるかもしれないと思ったのは事実である。平穏な生活は送れないかもしれないが。
「さぁ?どうだろうな。」
そしてオレの高校生始めての友達は,将也になった。この時はわかりもしなかったが,今になれば,将也との出会いは,オレの夢のきっかけになった出来事で,これからずっと忘れることのないことだろう。