表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作者がママチャリで日本一周して、三回死に掛けた話。  作者: 84g
・夢乗せて、放て鋭い岩手編
6/87

【岩手】【二〇一六年 五月一五日】 ・誤算

【二〇一六年 五月一五日】


挿絵(By みてみん)


 今日は夜まで掛かっても一〇〇キロ漕ぎ、久慈市まで行くことを決意。

 盛岡で充電できなかったため、そろそろバッテリーパックのエボルタたちの残量がかなり足りない。

 なんとか久慈市まで到着し、ネットカフェで充電しなければいけません。


挿絵(By みてみん)


 間の道も非常にキレイです。


挿絵(By みてみん)


 いやあ、本当にキレイです。


挿絵(By みてみん)


「(;´Д`) ム、無理……」


 やっとことさ峠をクリア……でも、まだ、時間は……ある……けど……っく、ああ……。

 この段階で俺の勘違いが判明。それは『自分は時間さえ有れば一〇〇キロを移動できる』という誤謬。

 根性が有れば足を動かし続けることくらいならばできる、という勘違い。

 現実には、数メートルごとに数分間の休憩を挟むこととなる。足が上がらない。気怠さが痛みになる。

 足の水膨れが破れており、不快感と痛みが比例しながら増し、呼吸ごとに肩にかかるリュックが重さを増す。


 更に、もうひとつ勘違いが重なった。

 『買いすぎると荷物になる』という意識で給水を後回しにしていたのが裏目。

 まず、給水は公園の水道とかでも構わない。岩手県の水道水は充分飲用に堪える。

 以前、関東で水道水を飲んで複数個所で、誇張抜きで吐いたことが有るが、岩手県の水は美味いから、適当な水道水でも飲める。


 だが無い。

 コンビニが少ないし、個人商店も山に入るにつれて無くなっていく。

 水道も針金が巻いてあるような感じ。これが、田舎……!

 水に関しては更に問題があり、万が一自転車がパンクすると、修理には水を使う。

 容器に水を張り、チューブを沈めて穴の開いている位置を特定するため。

 その緊急事態に想定して“修理するための備蓄水”が発生するのだ。

 (こっちは究極的には雨水でもなんでも良いんだけど)


 気が付けば、飲料用に買っていたものは尽き、残りはペットボトルに残ったパンク修理用の水を含めて一リットルくらい。

 発汗の量が多く、気合や根性だと脱水症状を起こして死ぬレベル。

 人家もないため、行動不能になると本気で死ぬ。自転車旅行で救急車とか人様の迷惑になるのはあまりにも申し訳ない。

 やむを得ず、久慈市ではなく、方向を修正してキャンプ場に向かう。

 キャンプ場なら水道はもちろん、コンセントも高い確率で有るので、しょうがない。


 そして、なんとかかんとかキャンプ場に到着するが、駐車場には車が一台だけ。

 運転席の人と目が合うとドライバーは若い女性。キャンプ場管理という雰囲気ではない。

 しかも、目が合うと発進しだした。おやぁ……?


 嫌な予感がするまま、管理棟へ向かうと“閉鎖”の文字。

 え、ええええええ? もちろん、水道なんてないし、山の中は立ち入り禁止の文字。

 だがしかし、既に余力なんてない。キャンプ場を目指して行動しており、一歩も動けない。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


 一〇〇キロ移動するつもりが、結局四〇キロ程度の移動。時間的には予定通りだが、昼過ぎで既に過労で動けなかった。

 あまり良くないと思いながらも、立ち入り禁止の看板の真ん前でテントを張った。

 さっきの俺を観て出発したドライバーさんも、空いている駐車場だからとドライブイン代わりに休んでいたのだろう。

 それほどに人が来ない場所ということなのだろうか。

 しかし、俺はそれ以上を考えられず、テントの中、広げただけの寝袋に倒れ込み、眠った。



【二〇一六年 五月一五日】


 十数時間眠った翌朝。テントには霜が張り一部分が凍っていたが、僅かばかり体力が戻って来ていた。

 最後の水でカレーライスを作り、温めたお湯もそのまま飲む。

 その間、野兎がピョンピョンと跳ねてくるがそれの写真を撮る体力は無く、率直に不安だった。

 昨日は五〇キロに丸一日掛かっており、パンクすれば修理もできないような水しかないが行くしかない。

 ここで待って体力回復できる飲食物が、存在しないのだ。


挿絵(By みてみん)


 山の上、ここまで必死に登ったこともあり、空気が綺麗で景色も良いが、死にそうだ。

 もし、給水できなければ命に関わるし、ここは山上で人も居ない。山登り五〇キロで一日掛かったので、今日も山下りに一日……。


「(´∀`*) 掛からないけどね」


 このときまで俺も焦っていて気付いてなかったんだけど、

 山を登るときは自転車から降りて押して進まなければならないけど、坂を下るなら関係ない。

 普段平地で一五キロを出すだけで苦労するのに、坂道を転がり落ちるタイヤは時速三〇キロを簡単に超える。

 ブレーキとハンドルだけで方向を定め、荷物の重量を感じず、ただただ降りていく。ペダルを漕ぐことすらなく、正に滑って降りる滑降。

 このあと、旅の中で何度も味わうことになる、坂道を登り切ったときに現れるご褒美。野宿から目が覚めて、山の上から降りる。

 バイクや車とも違う、自分の重量だけで降りていく感覚。原動機は自分の重量だけ。ママチャリでも他の自転車でも関係ない。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


 流れていく景色を見ていたいが、目を奪われてハンドルを切り間違えば、俺も景色の一部として吹っ飛んでいく。

 危機感に高揚する自分が居た。最高だった。


挿絵(By みてみん)


 あっという間に到着。

 自販機で飲み物、我慢の限界だったトイレへも寄り、手洗い用の飲用不可水(雨水か何かなんかな?)を頂き、パンク修理用の水も入手。

 何事もなく前進していくと、久慈市に到着。なんだかんだ云って眠れたのは大きかった。

 肉体的にかなり回復していたし、久慈市内を見学する。

 シャッターには『アマちゃん』のときに描かれたらしいイラストが描かれており、見所が多い。

 今日は以前から決めていたようにネットカフェ泊なので、安心して観光します。


挿絵(By みてみん)


 まめぶ。

 アマちゃんで有名になったメニューだそうです。白玉だんごのようなものかと思いきや、中に砕いたクルミが入っており、洋菓子風なアクセント。

 それに豚汁系統のダシの利いた汁に入っており、懐かしさだけでなく新しさも備えたご当地メニューです。


 洗濯でコインランドリーに寄ったりしつつ、地元のお姉さんに道を尋ねます。

 お姉さんも久慈で生活して五〇年とかだそうで、ネットカフェの場所も教えてくださいました。

 ……が。


「(;´Д`)……? 潰れてる……?」


 アテにならないネット検索よぉおおおおおおお!

 昨晩の『やっていると思ってやっていなかったキャンプ場』に続き、ここも『やっていないネットカフェ』です。

 ネットカフェが有るという前提で洗濯したり観光していたので、もう夕方。

 どこで寝るんだ、どうする、どうする、となりながら、辛うじて大きな橋の下を発見、ちょっと無理して笑いながら、周囲の住民の方に会釈しつつ、テントを作ります。

 警察に通報されるリスクを最小限にし、周囲住民さんに警戒されないため、割と必死です。

 どの程度効果が有るか分かりませんが、俺の場合は自転車が有るので旅行者だとは通じるはずなので、あとは「得体のしれない旅行者」か「ニコニコしている旅行者」か、どっちになるかです。

 明日は普代村に行こうと思いましたが、普代村は久慈市以上に田舎で、もちろんネットカフェもない。

 ケータイ電話が使用不能になれば事故や事件など緊急時の連絡もできないし、命にも関わります。

 ネットカフェがない以上、充電できる確率も低く、昨日の消耗もあり、限界だった。


挿絵(By みてみん)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ