【山形~宮城】【二〇一六年 七月一四日~一八】 カゼの悪化、そして旅の中断。そして東北魂。
【二〇一六年 七月一四日】
レインヤッケの表面を雨粒が伝うが、体温に変化を与えているように感じない。
身体が熱いのに寒い。体力が削れるというより、割れてボロボロ崩れていく感覚。徐々にではなく急激に減退している。
雨風に負けないように速度を上げようとするが、腰が入らない。
朦朧としてきており、廃墟となった家屋を見つけると、そこの玄関のひさしに倒れ込んだ。
廃墟と云っても人の敷地だし、雨は防げても風が凌げないから体が温まることはない。だが、それでも動けなかった。
空の色は変わらず灰色で、自分が二時間ほど眠ったというのは、時計を見て気が付いた。
眠るというより気絶に近かったのだろう。気付かない内に意識を喪失して、そして気付かない内に覚醒した。
ここで倒れていても回復することはできないが、ひとつ発見があった。
今、数キロ移動しただけで倒れこんだ。三〇キロ先のネットカフェには辿り着けないことは、漠然とした意識でも、確かなことのように思えた。
とにかく、俺は予定通りに営業していた薬屋に、予定の何倍もの時間をかけて到達した。
「(8﹏4) ゼー、ゼー、すいませーん」
「(薬ω屋) どうされました?」
「(8﹏4) ノドカゼに効く風邪薬、一つください」
「(薬ω屋) でしたら、これなんてどうでしょう?」
薄汚れて汗臭い俺にも、親切に売ってくれた薬剤師さん。ありがとうございます。
その場でコーラで薬を飲み、移動を再開する。
……驚くべきことに、この薬、市販薬では今までで一番効いた。未だにノドカゼはこのときの薬を使ってます。
やたらに相性が良いというか、俺は元から小児喘息……気管支というか、呼吸系が弱く、カゼは毎回ノドから症状が出るので、ドンピシャでした。
回復こそしているものの、ネットカフェに到着するエネルギーは無く、かなりしんどい。
アマガエルさんたち大集合の、道の駅に到着。
道の駅でカネ落とさないと申し訳ないし、そしてエネルギーを摂らないと死ぬし、あと食いたかったのでへぎそば!
ウマし! ウマし!
体力を回復しつつ、この道の駅の自販機スペースで休憩。
先日世話になった道の駅よりも寝やすく、トイレの前に喫煙スペースと自販機コーナー。
飲み物だけでなく、アイスクリームの自販機も有り、そのために大きなスペースがあった。
寝袋に包り、アイスと飲み物をガバガバ飲みながら爆睡する。風と雨を防げる。ネットカフェと違って暖房はないが、風邪薬の効果も有って大分眠れている。
途中、ドライバーの人に差し入れで酒を貰えそうだったが、今アルコール飲むとマジで死にそうだったので、人生で初めて差し入れを断った。
アルコールは身体を温めたような感覚はあるものの、実際は内臓系にダメージを与えるので、体力を削れないときには飲めない。
【二〇一六年 七月一五日】
昨日より大分回復しているし、出発しようとしたが、ペダルを漕ごうとした瞬間に脱力した。
「( 8Д4) あ、ダメだ。これ」
自分が汗臭すぎて一刻も早く風呂に入りたいが、それよりも身体が休むことを求めている。
自販機で何個目かも分からないアイスを食べならがら、ガラケーでネット小説を書いたり読んだり。
バッテリーはギリギリ、手持ちの充電池もほとんどないが、身体的な消耗がメンタルにの消耗にも繋がっていた。
例によってカネを落としつつ、ウマウマタイム。
コンビニや100均で買いためていたドライフルーツを食べてビタミンを補給する。
十四日の段階で、俺は“自分の体力が通常時の六割程度”だと判断していたものの、実際には二割以下だったことに気付いた。
かなり回復しているが、それでも絶好調時の四割程度だと思う。
“なろう”公式企画の夏ホラーを読みつつ、小説を投稿したりしていた。
そのときの小説は、【罪肉罰食 “シリアルキラー・コーンシリアル”】
https://ncode.syosetu.com/n3223dk/
カゼを引いているときの俺のメンタル状況とかもアレですが、限界ギリギリの心身状況だからこそ、なかなか満足できる作品を作れたと思いますので、こちらもよろしくお願いします。
野球のオールスターをガラケーで観つつ……回復してるんじゃないか? 俺?
【二〇一六年 七月一六日】
目が覚めると、自然に思った。
「(8ω4) 行くか」
完治はしていないが、イケる。
自転車を重いと感じたが、動かせる。暑すぎるくらいに晴れ渡った空の下、俺は将棋の街、天童へと向かって行った。
天童将棋も有名だが、同じくらい有名なのが温泉。入ろうとするが温泉宿系は日帰り入浴でも高め。
スーパーで買い食いしたりしつつ、休めるタイミングで休み、食欲と睡眠欲に従いながらウロウロする。
とりあえず、お財布が許す金額の宿で入れる温泉を発見し、カゼの汗を流しきりたかった。
一一時開店で、一一時五分に入店し、念入りに身体を洗っていく。
「(8ω4) これは! これは! もしや! 一番風呂では!」
一番風呂というのはいつだって胸が躍る。
だが、汚れが普通の人の何倍も溜まっているので念入りに落とさないといけない。
そうやって身体を二回洗っている辺りで、宿泊客と思われるオッサンがするっと入って来て、流し湯もせずにダイレクトで入浴された。
「( 8Д4) だぁああああっっ! わかってねえええ! オッサーン! 入るなァぁあああ! 洗ってから入れよぉオオオ!」
まあ、とにかく二番風呂でもかなりスッキリした。
次なる道の駅にもすぐに到着するが、ゴロゴロするには向いていない。お子さんたちが多いし、寝そべれる場所が少ない。
普通に観光メニュー。だだちゃ豆ソフト。山形っつったらコレよね。
そしてイーグルスファンとしては山形に来たらマストのお店がありまして。
山形が生んだスーパースター、栗原健太の実家! 焼肉屋! 山形牛はここで食べると旅に出る前から決めていました!
この写真を撮った辺りでちょうと出入り口に張り紙をしているご婦人が! をを! 栗原選手のお母様では!
そんなことを思っていると、
「( 8Д4) ほ、ホゲエエエエエエーーーッッ!」
「(母ω様) ごめんなさいね、明日なら空いてますけど?」
自己中に突撃していた俺に、明日の予約を取って下さる。
ありがとうございましたな気持ちで、天童市へと戻ることにする。
【二〇一六年 七月一七日】
約束は一二時ということだったのだが、少し早めに一一時半到着。店が空いていたこともあり、早めに案内してくれました。
店内にはカープ関連のグッズが飾って有り、栗原選手の長い歴史を感じる。
うまし! コング的にウマい!
ペロリと完食すると、壁には『健太も子供のころから食べていた』とステキな見出しのチラシが。
いやいや。相当食べ過ぎてるからね俺。頼むわけ……。
「(*8Д4) すいませーん、このスタミナ気合汁追加でー!」
そら頼むわ。
例によって例のごとく完食すると、そのあと山形名物のサクランボをオマケに頂いたり、今期の栗原のライバルになりそうなチーム内競争の話とか。
アマダーを使うか、栗原を使うか、競合するのよねー。
そんな感じで非常にイーグルス感の強いお店を後にする。この旅始まって以来、トップの楽天感の溢れる空間でした。
ちなみに、これを書いてる段階で栗原選手は既に現役引退し、指導者としても楽天を去った状態。
中日の指導者として移籍しても、東北山形を代表するスラッガーとして中日打線を支えてくれると注目している今日この頃。
リーグが変わっても、選手でなくなっても、当小説は栗原健太という男を応援しています。
【二〇一六年 七月一八日】
さて、山形を満喫したところで、ここで重要な告知が有ります。
この旅、一回中断します。チラチラと伝えていた通り、作者は中卒で高卒認定の勉強が待っています。
試験日は八月三日、ママチャリは電車や飛行機に乗せられないので、自力での帰還しかできませんが、ポイントとして山形は84gの自宅で有る宮城の隣の県であること。
これより離れると帰還がギリギリになるのですが、山形ならば山を一つ越えれば仙台です。
文字通りの難所、大きな山を越えて行きます。
病み上がりで体力がまあまあ辛いんですがママチャリを気合で押していく。
途中で鼻血を噴きだしたり、のぼせたり、吐きそうになったり、それでも辛うじて押していく。
宮城の匂いが近付いてくる。不思議と身体のダルさを忘れつつある。
山を登り切り、下り坂に入ると熱中症寸前の頭が火照って良い感じになってきていた。
当日はぶっ倒れてしまったので写真を撮り忘れ、宮城に帰って来てから楽天戦を観に行く前に撮影した写真。
三千キロ。宮城から北海道を回り、まだまだ旅の序盤。
しかしながら、とにかく、体力ではなく知力の戦いに赴くことになるのです。
「(8◇4) 第一部! 完!」
果たして84gは高卒認定を突破できたのか、その結末は……更新を待て!
感想、いいね、読了ツイートなどお待ちしています。
反応がないと虚空に向かって小説を投げつけているのかと脳が錯覚するので。
読者さんの反応が、他の趣味に使う時間を小説に向けさせるモチベーションになるのでよろしくお願いします。
(意訳・続きが早く読みたいときは応援してね!)




