【山形】【二〇一六年 七月一三日~一四】 第六の旅、救急車とパトカー
【二〇一六年 七月一三日】
山形イン!
景色がキレイ! 秋田よりもその名の通り山が印象的。
気のせいかとは思うが、トンネルを抜けた辺りから香りが変わった気がする。
このあと、多くの県境を越えることになるわけだが、今考えても、東北六県は県境で明確に匂いが変わる地域だった。
山岳と雪でそれぞれの県に異なる香りが有ったように思う。
道中に石碑が有ったりしたのも印象的だった。戦没者の石碑かな。
どんな気持ちで作ったのかは察するしかないが、今は忘れ去られて苔むしている。
忘れられた方が良いのか、忘れられるべきではないのか。俺には分からない。掃除する人も居ないが、確かにここで生きていて、誰かに愛されていた人が、ここに帰ってくることなく亡くなったのだろう。
真相はわからないが、それぞれ土地に歴史があるという当たり前のことを肌で感じた。
この写真を撮ったあと辺りから雨が降って来た。
小雨ならばと、小さな無人の仏閣が有ったが、俺が雨宿りできるサイズではない。
ヒサシが小さいし鍵が掛かっていて中には入れそうにない。すぐに雨足が強くなってきた。
次なる道の駅を目指さなければなりません。寄り道をしている余裕なんてありません。
有りませんったら有りません。
ンマーイ!
ここは山形は尾花沢! スイカ―! 最高ー!
冷え切った身体が更に冷えるー! 最高! 甘ぁあああい!
直売所の方々も親切にちょっとオマケしてくれた。買うって決めてるのに試食分も多めにくれた。
アリガトウゴザイマース!
そんなこんなで、ズブ濡れになりながらも、とにかく道の駅に到着。
休憩スペースらしい場所はなく、寝れそうな場所はトイレ前か喫煙所。
トイレ前は人の出入りが多いので、喫煙スペースのベンチを借りて眠ることにする。
食料の持ち合わせは有るが、外は雨が降ってて火が使えないし、道の駅ではガスを使うのはマナー違反。
一晩勝手に泊まるのならば、優先的にカネを落とすべき。という大義名分のもと、暴食です。うまうま。
当たり前だが利用者はほとんど車で来ているし、雨の中にわざわざタバコを喫煙スペースまで来て吸う人は少ない。
割とスカスカの喫煙所で、寝袋に包り……。
「(警ω察) ねえ、ちょっと、起きて貰っていい?」
「(8ω4) ふえ?」
目を開けると、そこには懐中電灯を構えたふたり組の警察官さん。
これは、俗にいう、まさか、あれか。
「(8ω4) えーっと、これは」
「(警ω察) 職務質問。ここで何してんの?」
職 務 質 問 !
マンガや映画でよくみる、アレです! 挙動不審者とかに声を掛けるというアレです!
なんで俺が!? ただ道の駅の喫煙スペースで寝袋で寝てるだけなのに!
……ああ、うん、そうね。逆にここまで訊かれて無かった方がおかしいね。そうね。
ただ意外と焦っていなかった。
普通に装備を見せて、日本一周をしていることを説明し、免許証も自分から提示した辺りで、逆に起こしたことを謝ってくれたりして、普通に世間話をした。
このとき、小さな発見が有った。
俺は免許証を提示しているので年齢はもちろん分かるはずだが、「学生さん?」と聞かれた。
免許証の番号を控えるが、他の情報を見る癖はないらしい。
ふたりの警察管が立ち去り、それが何か小説のトリックに使えるかもしれない、と思いながら寝袋にもぐった。
このとき、細やかな悪寒と、ノドに違和感こそ感じていたが、俺の身体は疲労で眠ることを選択した。
【二〇一六年 七月一四日】
目を醒ますと、異様な臭いに気が付いた。
タバコじゃない。周囲に吸っている人は居なかったし、それにもっと介護現場で嗅いだような生き物由来の臭い。
それが俺自身の汗の臭いだった。冷や汗と普通の汗と脂汗が混ざったのだろうか、体中が火照りながらも寒気に包まれていた。
ノドが痛い。呼吸はできるが、声が中々でない。
「(8д4) や……べ……カゼ……ひいた……」
屋外の野宿生活で、家族も友人も居ない中、俺は体調を崩しました。
雨にうたれ、タバコの煙もある中、それまでの疲れた溜まり切った肉体は、ここに来て限界を迎えたのでした。
特定の何かが悪かったというわけじゃない、責める気もない。こんな無謀な旅をしていれば、いつかはこうなること。当たり前のことが起きただけ。
俺はとりあえず自販機で紅茶とスポーツドリンクを購入し、紅茶でウガイをした。
紅茶には抗菌作用があり、咽頭周辺の痰を切りつつ菌も減らせるので、ウガイ薬がないときは水よりは効く。
効果は見られるが、明らかにこういう予防策が通じる段階じゃない。
朦朧とする中、道の駅で飯を喰い、無理矢理二度寝する。人が集まる時間になったら出発することにしているのだが、背に腹は代えられないというヤツだった。
プライドよりも体が大事。ベンチを占領して自分の異臭に耐えながら、無理矢理に眠った。
雨は、まだ止んでいなかった。
写真を撮る余裕もないほどに無理矢理食った名物料理は、睡眠中に俺の体力になってくれていた。
ここで休んでいても体力が回復する見込みは無い。まず風邪薬もないし、下手をしなくても肺炎になるリスクが高すぎる。
悪化すれば命に関わるが、これは俺のバカみたいな旅の結果であり、救急車を呼ぶのはバカバカしい。いざとなればタクシーを呼んで病院に行くべきだ。
俺はそう思いながら、近所のタクシー会社と内科の電話番号を調べ、携帯電話に登録した。
最終手段はそれ。自転車を雨の路上に置き去りにして、タクシーに乗って病院に行くこと。無様極まりない事態だが、最終手段はそれだ。死ぬわけにはいかない。
文字通りの最終手段を用意し、同じくガラケーで調べたら、四〇キロ先にはネットカフェが有り、その途中には薬局があることが判明した
途中で薬を買い、ネットカフェで何日か爆睡すれば、十二分に回復できる。
雨こそ降っているものの平地であり、四〇キロならば時速一〇~一五キロ程度を出せる俺ならば、暗くなるまでに到着できるだろうことも予想できる。
平常時ならば八〇キロ移動できるが、余裕ではなくても、不可能ではないだろう。
決意を固め、着込めるだけ衣服を重ね着して保温して雨着を羽織り、傷む気管支に空気を送り込み、雨の中へと突撃して行った。




