【岩手】【二〇一六年 五月九~十一日】 ・ふたつめの冒険
【二〇一六年 五月九日】
岩手県。
北海道に次ぐ全都道府県中第二位のサイズを誇る。
宮城を出た直後、県境の山を登り、本日はツーリングマップに記されていた無料のキャンプ場を目指します。
ギアチェンジなしでは荷物を積んだ自転車を漕いで登れるわけもなく、押して登ります。
「ぜーぜー」
まだ登ります。
「はー、はー」
カロリーメイト食べながら登ります。
「ふーふー」
水をゴクゴク飲みながら登ります。
「(>д<)」
日が傾いて来た辺りで、目印が見えてきました。
キャンプ場は広い自然の中、という前提条件なので、キャンプ泊をメインにするのは山を登る必要があり、体力面でも時間面でも苦しい。
他県のキャンプ泊はどうなるかと思いながら、今日は石ノ森記念館周りの散策もしているので、時間がなかったことも有りますね。
とにかく、この日は日暮れ間際に到着。
受付のおっさんも驚くようなタイミング。何せオフシーズンで客は俺だけ。
通報される心配もなく、ゆっくり眠れる……と思いながら夕飯のカレーライスを暖めつつ、ツーリングマップを読みます。
岩手は広く、県庁所在地の盛岡や“もうひとつの目的地”まではかなりの距離があり、明日からは天気も崩れそう……そんなことを考えながら、妙な気配に気付く。
ふぁああっ!? 迷い犬!?
めっちゃ吠えてきます。首輪はしているので野犬や捨て犬ではなさそうで狂犬病リスクは高くないかもしれませんが、怖いもんは怖い。
戦えないことはないでしょうが、そもそも犬を攻撃したくないし、怯えている様子。
星空も見たかったんですが、夕食後は大人しく寝ることに。
【二〇一六年 五月十日】
早めに出ようと思っていたんですが、昨日の野犬の報告のために昨日のおっさんが出社するまで待ち。
曇り空で不安も有りますが、連泊する気はなし。
食糧が残り少ないので、どのみち買い出しが必要ですし。
俺が警察なり保健所に連絡するとこじれますし、管理人さんを通すことに。
九時前頃、出社してきたおっさんに挨拶をしつつ、迷い犬と数遇したことを伝える。すると。
「あー、そうみたいですねー」
「知ってたんですか?」
「まあ、出るみたいですね」
「保健所とか警察とかって連絡とかは」
「(´∀`*)噛まれたとかじゃないですし、良いんじゃないですか」
「( ゜Д゜) ハ?」
つまるところ、管理人のおっさんの中では、迷い犬は管理する対象ではないらしい。
彼の仕事は広めの施設を掃除して、設備が壊れてないかどうかを見守るだけ、というのだ。
無料のキャンプ場で人件費が安いのは分かるが、『怯えた迷い犬に噛まれそう』とか、そういうリスクの排除は含まれないらしいのだ。
うーん、お役所仕事。
世界は、俺の思う通りではないらしい。ムシャクシャしながら小雨の中を行く。
雨天で疲れが襲ってくる。旅に出てから丸二日ほどだが、体調不良が訪れる。
ビタミンが足りてないのでは、とコンビニでドライフルーツを購入。
カレーライスとかラーメンばかり食べているので、皮膚の再生や疲労回復が追いついていない。
意識的にビタミンを摂ることを意識する。
で当たり前だが、初のレインウェアを着ると、ハプニング。
確かに雨には濡れない。機密が保たれているので、雨では濡れない。だが、致命的なことが発生した。
「(;ーωー;) 汗が……しんどい」
雨を通さないということは、汗が揮発していかないため、パンツまでビッショリ。
このときのレインウェアが、レインジャンパーにレインパンツと完全装備。
自分の汗が、皮膚の上でねばつく膜になっているような気色悪さが抜けない。
旅に出てから一度も風呂に入れていないため、不快感がそのまま疲労に結びついているような感覚。
もちろん、理想は毎日風呂に入りたいのだが、時速十キロ少々の俺が風呂に入れば、その分の時間もロスしてしまい、野宿場所に到着できない可能性がある。
というわけで銭湯の近くにあるネットカフェを探すが、全然見つからない。
雨にずぶ濡れのまま、ネットカフェで爆睡する。
この日は二十キロくらいしか進めていません。
【二〇一六年 五月十日】
ネットカフェで足が伸ばせないまま寝ているので、汗がヤバイ。
前沢牛でも食って元気を付けようとするものの、
やってない。
今考えると一時間くらい待っても良かったんですが、余裕が無かった。
とにかく止まってしまうと、次のネットカフェまで辿り着けないのではないかという危機感が辛かった。
そんな中、素敵な看板を発見。
ネットカフェへの道筋でギリギリ寄れそうだったので、温泉を目指す。
体力や時間どうこうではない。危機感よりも自分の汗が毒素を含んでいるんじゃないかというくらい、気色悪い。
この旅、最初の温泉。
人生初のマッサージ椅子を利用してみた。百円で十分とかのヤツ。
疲れがお湯に解け、マッサージ器が疲れをぶっ壊してくれる。
飯も美味い。もうヤバイ。泣きそう。
いや美味いんだけど、疲れのせいで倍美味い気がする。いやここの店、以前に来たことがあるわけでもないんだけど、ヤバイくらい美味い。
休憩スペースも完備していてごろ寝したい欲求が襲ってくるが、ここは二四時間営業ではないので、寝ると暗い闇夜の中、野宿場所を求めてさまよう、というホラー映画になることに気が付き、ごろ寝の誘惑を跳ね除け、荒れ地を行きます。
……これ、どこが歩道でどこが車道……?
とにかく走っていくと、呼び止められたりもする。
仕事帰りか何かだろうか、スーツ姿のオッサンだった。
「兄ちゃん、旅してんの」
「はい」
「どこに行くの?」
……? あれ?
聞かれてみて、そういえば、明確な目的地が見付からなかった。
日本一周は行動であって、目的地ではないわけで。
ちょっと考えてみて、しっくり来た答えは、これだった。
「日本一周だから……一周して自宅ですね」
「じゃあ……グルっと回って家に帰るだけ?」
「(*´з`) はい! 帰宅中です!」
「(^◇^) っぶは!」
なぜかバカウケ。
この返しは、この旅を通して繰り返し使うことになるフレーズになりました。
そうです。俺は、日本で一番遠い道を通って帰宅しているだけなのです!
「頑張って帰ってね」
「はい、ありがとうございます」
「今日は雨を降ってるけど、どこで寝るとか決めてんの?」
「あ、この先にネットカフェとか有るみたいなんで、そこで寝ます」
というわけで、更に十キロくらい漕いでネットカフェに泊まります。
前日に続いてブログ更新とかをしますが、画像サイズだったりなんだったりを自爆したり、ガラケーで上げられてなかったデジカメの画像を上げたり、色々と格闘がありました。
今見ると色々と修正点のあるブログですが、もうそれも旅の思い出なので直しません。
人に見せるものではなく、もう俺の日記状態です。人に見せる用のは今書いているコレです。
未だに宮城から脱出して一つ目の県、岩手県。
雨の洗礼の中の格闘も、未だに岩手の県庁所在地も見えてきません。
感想、いいね、読了ツイートなどお待ちしています。
反応がないと虚空に向かって小説を投げつけているのかと脳が錯覚するので。
読者さんの反応が、他の趣味に使う時間を小説に向けさせるモチベーションになるのでよろしくお願いします。
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