【北海道】【二〇一六年 六月一〇日】 ・北海道の大空と大地。(前)
【二〇一六年 六月九日】
食堂兼ライダーハウス前に書いて有った電話番号に電話をする。
ピッポッパ。
「(8ω4) すみません、自分、八十と申しますが、ライダーハウスを利用したいのですが」
『ちょっと待っててください、すぐ行きます』
雨音で聞こえにくいとか関係ないレベルのシンプルな会話。ひさしの下で雨をしのぎ、ボーっとしている。
寒いが、疲れているので立ち止まっているだけで楽。雨の中で待機していると、店主の男性が来た。
「(`―´) 電話した人ですか?」
「(8◇4) そうですそうです」
「(`―´) 鍵開いてるから中で待ってて良かったのに」
「(8◇4) ? あ、他のお客さん居るってこと?」
食堂のレジで会計を済ませながら、店主さんはそう話す。
記念ステッカーを受けとり、ライダーハウスの別棟へ向かう。
すると、入り口には旅をしてきていると分かるクロスバイクが、雨をよけるように立てかけて有った。
俺も濡れたら困るし、自転車から荷物を取り外し、両肩にサイドバックを引っ掛け、前カゴに入れていたのを両手に抱え、中に入っていく。
「(8◇4) こんにちはー」
「(0∀0) こんにちはー」
先客は、スパッツ系のライダールックを乾かしていた。笑顔がステキな好青年風。
「(0∀0) え!? ママチャリっすか?」
「(8◇4) ママチャリです!」
「(8◇4) え、宮城関連の人!?」
「(0∀0) 東北良いっすよね」
話をしていると、不思議に話が合う。
旅人同士で、野宿のときやライダーハウスの旅とか色々と思い出しつつ、役立ち情報を伝えあったりする。
もちろん。
「(0∀0) セイコーマート良いですよね」
「(8◇4) ビックリしますよね! 本当に感動しますわ!」
以前の電車宿と同じく、セイコマトークでも盛り上がります。
いや、本当にこれ有りますからね! やってみて下さいって! 道民じゃない人が北海道を旅すると本当に!
ウソだと思う人は北海道を旅してみて下さい! マジで! 道民の人は……えっと、えーっと……北海道は、マジで特別なんですよ! 旅人の聖地!
「(0∀0) このライハ、食堂も有名でゴハンも楽しみにしてたんですけどねぇ」
「(8◇4) あ、そうだ。カップ麺二個持ってるんで、食いましょう」
「(0∀0) 貰っちゃって良いんですか?」
「(8◇4) いや、腹空かしてる人の前でひとりだけカップ麺食う度胸は持ってないっすよ」
ママチャリで荷物を積んでいる俺は、前に岩手山頂で行動不能になってから二食分を常備している。そのカップ麺。
ライハの離れに有る洗面所でお湯を沸かし、俺はカップうどん(大盛)、彼にはカップ焼きそば(大盛)を手渡す。
「(0∀0) あんまり食べないっすけど、美味しいですね」
「(8◇4) 俺は毎日くらい食べてるけど、いつもより美味い気がするわ」
ふたりで食べる機会なんて旅ではそんなに無いからなぁ。
屋根のある空間で、誰にも気兼ねせず、雨音を聞き、なんでもない話をしながら食べるカップ麺はやたらにウマかった。
「(8◇4) ガスを気にせずお湯を沸かせるので、カップ麺の麺が硬くないです」
「(0∀0) そっちですか」
そんな話をできるくらいに飯がウマい。
マジでウマい。特別にウマかった。ガスや疲れ以外にも、特別にウマい気がした。
【二〇一六年 六月一〇日】
自然と旅はスタートし、コンビニ飯。
立ち食いで菓子パンを頬張りつつ、旅の情熱を迸らせます。
「(8◇4) 闘技場はヤバかった」
「(0∀0) 団長が強すぎましたね」
「(8◇4) 一騎打ちで、最狂キャラ相手に完封はビックリっす」
「(0∀0) ネットでは客席に居た他の団員とかが援護してたみたいな話もありましたけどね」
話題は少年ジャンプ。
旅先でする話なのかと云われればアレだが、同年代の男子がふたり居れば、こういう会話になる。
ジャンプは日本全国、どこでも誰でも読んでいるのだ。
(話題は休載しがちな某人気連載の三四巻辺りです)
「(8◇4) 俺の自転車、時速一五キロくらいしか出ないんで、先に行ってどうぞ」
「(0∀0) ああ、せっかくだから一緒に行きましょうよ」
ちなみに、一五キロというのはママチャリの限界速度に近いんですが、彼のチャリ的には余裕の速度でした。
しばらく一緒に走ってはいたが、俺が写真を撮ったりしている間にちょっとずつ離れ、俺がバテている間に更に離れ。
結果。
「(8◇4) あー、見えなくなったわー……」
徐々に俺が遅れだし、いつの間にか彼は先に行っていました。
もちろん、一人旅をふたりともしているだけなので、どっちかが無理をするもんでもないわけで、自然なこと。
というわけで、気にせず写真撮影をします。
寒空の下、とにかく西へ西へ、そしてついでに北へ北へ。そいでもって到着。しかし寒かった。
旅はキレイごとだけじゃないのだ。道がキレイすぎて……つまり人が居ないからトイレが少なかった。待ちに待ったトイレに行ってから記念撮影です。
日本本土最北端、宗谷岬!
近くのガスステーションには最北端と書いて有ったりする中、記念のカードを買ってから、最北端の食堂にて食事。
最北端らしい。ラーメンもウマい。もずくラーメンを食べました。
とはいえ、俺にとって最北端は日本一周の通過点なんだよなぁ。旅も初めて一か月くらいだし。
どちらかと云うと、観光に来ていた……台湾から来た親子連れ、お父さんと息子さんとの雑談の方が思い出に残ってる。
上で俺がリュックで撮影したヤツ。あれを親子で撮るには誰かがシャッターを切らないと行けない。それで俺が声を掛けて写真を撮ろうかとジェスチャーで伝えて会話した。
とはいえ、俺が台湾語を分からないから英語しかない。意を決して行く。
「(8ω4) アイムサイクリング……えっと、タビビト!」
「(父◇父) ……Bicycle?」
「(8ω4) オウ! イエス! バイシクル! バイシクルタビビト!」
「(子◇子) ははっは!」
なぜかお子さんにウケた。
あと、お父さん、日本語がめっちゃ喋れた。ちょっと片言だけど日本語、普通に喋れてる人だった。
「(8ω4) 天気が残念ですけど、日本楽しんでくださいね。よき旅を!」
「(父◇父) はい、ありがとございます」
「(子◇子) バイバーイ」
ちょっとした交流が続く。やっぱり北海道は聖地だわ。
旅人たちは、旅の、ちょっとした出会いを楽しんでいる。
通過点とはいえ、実に記念になった。場所そのものではなく、出会いが宝なんだなぁ。
そんな思いを得て、先へ進み……あれ?
「(8Д4) あれ? 自転車の鍵がない……?」
いつも入れている定位置のポケットに入ってない。
到着直後、バタバタと自転車の鍵を抜いてトイレに走ったので鍵を落としたらしい。
周囲のドライバーさんもどうしたどうしたと探してくれたりして、数分格闘してからなんとか発見した。
お騒がせしてすいません! そんな感じで先に進みます。
「( 8∀4) に、人間は、出会いだよねっ!」
そして、更に出会いを実感するイベントが続きます。
以前、列車の宿に泊まったときに出会った方に、景色のキレいなポイントがあると云われていた場所が有りまして。
完全に寄り道なのですが、寄ってきました。
大自然への道。
どれくらいの大自然かというと……もしかしたらグロ注意。
ピントずれてる銀色のはガードレールというか、ガードワイヤー? 鹿が飛び込んで来ないようにするようなヤツ。
いや、これ、アレだよね。何かを言及したくはないけど、こういうのが普通に落ちてるレベルの自然。
問題は、“なんでこのパーツだけ有るのか”ってこと。こうなってから捕食生物が運んだってことだよね。
……うーん、マジでちょっと考えたくない。とにかく坂道を登っていく。
しばらくすると、鹿の気配をバリバリ感じます、っていうか。気が付くと。
「( 8Д4) ガードワイヤーの横、鹿の群れがめっちゃ激走してるぅうううう!?」
ナマモノ。というか、生きている鹿の群れを発見。
俺が自転車で走る方向に、なぜか鹿の集団が全力疾走している。なんで? はあああ?
いや、ちょっと、これ、写真を撮れなかったのは不本意と云うか、自分じゃなければ信じないと思う話なんだけどさ。
本当に、ワイヤーの横、坂ひとつ隔てたくらいのところを、五~十匹くらいの鹿が走っている。
しかし、俺もテンパってました。写真を撮りたいという目立ちたい精神、野生動物の群れと接触は俺の命が危ないという危機感、鹿たちを怯えさせているという申し訳なさ。
ハンドルを握っていて手がふさがり、止まらないと写真は撮れない、え、を、おおお? それらが重なり、結果。
「( 8Д4) 鹿と並走するべく、俺も全力で漕ぎ続けてぇえええ、ああああああっっ!」
鹿たちが山へと方向転換するまで、なぜか坂道を息切れしてでも走りまくるという、謎現象が発生しました。
結局、鹿の写真も撮れず、ただ息切れし、鹿をビビらせ、息切れをして、得るものが何一つない状態。
景色も最高に良かったです。
ここを教えてくれた列車宿で出会ったご夫婦、ありがとうございました。
坂道を下って戻り、道を進む。
途中で、何かの祭りとすれ違う。写真も撮ったんだけど、んんん?
ちょっと、人の顔とか映ってるので上げられないんだけど、奇妙な一行だった。
軽トラにおみこしを乗せ、バスにハッピを着た子供たちが乗って移動していて、それを警察が先導している。
あれは、なんだったんだろう? 未だに分からない現象。
しかしながら、この目撃が昼の三時くらいだったのですが、なんと、まだまだ事件が続く日だったのです。
これが序の口にしか思えないほどのイベントがやってくるのですが……とにかく稚内に到着しつつ、次回に続きます。




