【北海道】【二〇一六年 六月四日】 ・雨×風呂×峠=最高の……
【二〇一六年 六月四日】
ちょっと早めに行って、昨日の温泉の写真を撮ろうかと思ったんですが、早朝から人がたくさん居ました。
さすがに人が居る状態で写真はマズいだろう。ということで自粛して普通に入って出発です。
このときに居た地元の人の話では、【大学の研究では、この温泉に生えている苔でポッカポカになる】そうです。
うーん、まあ、うん、それくらい説得力のあるポカポカっぷりでした。
調べてみたら、和琴温泉というところだそうです。興味のある人はグーグルさんに聞くと画像がいっぱい出ますので、是非。
というわけで自炊して出発しようとするが、外は風が強すぎて火が使えないし寒いので、テントのルーフの中で調理。
テントは化繊なので万が一にも火が付くと死にますが、どう倒れても火がルーフにぶつからない位置で調理。
まあ、そもそもそんなにちょくちょく倒れるわけもな……
ガッチャン
「( 8Д4) どわっちゃあああああ!?」
ガスコンロが倒れ、お湯がテントに!
火じゃないからテントは燃えないが、あっつっい! 直接じゃないから火傷するほどじゃないが、ビックリした。
実はこの携帯ガスコンロ、倒れるのはこの旅で五回目。
どうにも初期不良で足が一本緩いらしい。ネジでいくら締めても止まらない。
ワッシャか何かを挟めば良いのかなー、まあ、余裕が有ったら検討してみよう。
それ以外は携帯しやすさと使いやすさで完璧な商品なんだけど、単に俺に付いている笑いの神が悪い。
気を取り直し、ワンセグで仮面ライダーチェックしてから出発。
温泉とコンロガッチャンしてヒートアップしていたはずの僕ですが、なんとなんと。
寒い! っていうか! 霧! 全然前が見えない!
レインジャンパーを着ているので汗が揮発せず、サウナ状態で例によってジャンパーの中はビショビショで、坂道なので押して移動だが視界も悪い。
俺自身は大したスピードは出ていないが、横の車が俺のことを見えていないんじゃないかと不安になるレベル。
いつの間にか靴の中にも汗か雨から分からない湿気で、足の裏の皮が緩んできた。
その速度に比例するように蓄積する疲れは、身体の中に塞き止められるように溜まっていく。
滑る山の斜面が、降りろ降りろと繰り返し俺に伝えてくるような感覚。
黙々と重力に逆らいながら、なんとか峠を登り切ったとき、そこには道の駅、“美幌峠”が有った。
道の駅でも野宿が出来そうな場所と出来ない場所があるが、ここは後者。
広い駐車場があるので車中で仮眠を取るくらいはできるだろうが、野宿できるスペースは無さそう。
大きめの休憩所はあるが二十四時間オープンでもない。
峠の頂点ということは滑り降りればすぐであり、ここは無視して先を急ぐべき。
そう判断したが、既に疲労がピークだった。
まず、栄養補給として食事をすることにする。食い倒れとかそういう問題じゃない。栄養を摂らないと本気で死ぬ。
適当に選んで適当に食う。
サラダ棒定食。名物らしいが、味とかそういう段階じゃない。
まず食わないと。
「( 8Д4) って、うまあああああああああああっっ!?」
チクワにサラダを詰め込んでから揚げてあり、サク・グニャ・しっとり、の食感の段階でハーモニー。
味と風味も油、魚介、マヨネーズというコクのテロリズム! 身体に正確に喝を入れている!
疲れているとただのオニギリと水でもバカウマいもんですが、元からウマいものならその破壊力も大量破壊兵器級!
がああああああああああああ! うああああああああああああ!
胃が覚醒したところで、引きずられるように頭が覚醒した。
ラーメンを食べながらプランニングをする。確かに峠の頂点なので速度は出る。
いつもの滑降で、体力を使わずに山をしたまで降りられるだろう。だが、そのあとは?
野宿先を探すにしろ、ネットカフェまで移動するにしろ、平地の移動が入るため、そこでヘトヘトに脳が疲弊していたら、そこで倒れてしまうのではないか?
そもそも、霧と雨で視界が悪く、その中で朦朧とした脳で事故らずに走り切れるのか?
一時的に喝の入った脳は、そして選択した。
「(8ω4) あえて、寝るっ!」
休憩所に陣取り、堂々と寝る!
なんか近くで収録していたドラマ(仮面ライダーBLACKの倉田てつをさんが出ていたらしい!)のセットとかが有り、普通に観光地として優秀な休憩所。
他のお客さんたちも多いがパンパンでもないし、ベンチをひとつ使っても大丈夫だろう! ゴメンナサイ! あえて寝る!
……というわけで、二時間ほど眠る。
ただ寝てカネを落とさないというのも申し訳ないので、多めに買い物をする。
揚げイモとアンパン! 美味しっ! 行くぞ!
っていうか、別に仮眠関係なく食いたいモノ買ってるだけって気もするが、とにかく、行くぞ!
予想通り、峠の下りは滑降。時速四〇キロ程度であっとう云う間にクリア。
しかしながら、そのあとは緩やかなアップダウンが続き、“降りるほどではないが、ギアチェンジナシの過重気味の自転車では過酷”という農道が続く。
旅の初めだったらドロップして降りて押していたであろう道ですが、現在の肥大した大腿筋を持つ僕なら、気合いさえ有れば登れます!
「( 8Д4) 俺は一千万パワーのバッ〇ァローマンだああああああ!」
とか
「( 8Д4) 夢のぉせぇてーー! はなっ、て! するど、い、だああああ! ぎーっじ! ぎーんじ!」
そんな感じの気合いの出る、キ〇肉マンも〇天〇ーグルスも知らない方々には謎のフレーズを叫びつつ進みます。
途中、木々だけが生い茂る車道を抜けており、もしここで力尽きていたら、路側帯では野宿も出来ない以上、ニッチモサッチも行かなくなっていたかもしれません。
そして。
降りやまない雨、疲れ切り、冷え切った身体に、銭湯へ到着。
味のある佇まいで最高に疲れがお湯に砕けるような感触。今朝に温泉に入ってから出発していましたが、ここもまた、最高の風呂であると断定するに疑う余地はない。
“疲れていると風呂は最高”とか“疲れているとメシがウマい”はそうなんですが、最初から最高のモノを疲労した上で味わうとき、それは最高以上のモノにしかならないという確信。
多分、この感動は、旅をしないと分からない。
旅でも電車や飛行機では到達しない、見たことのない実体験であり、心地よい過労の先にある、最高に贅沢な一瞬。
近所のネットカフェでバッテリーを充電してから、瞬く間に意識を喪失するまでの、ハイテンションを超えた夢心地が、今もなお、身体に残像のように残っている。
俺は最高の旅をしている、そんな実感が、確かに有る。
というわけで、北見に到着です。




