むっつめの おはなし
連夜更新(全6話) 聖夜。
息をするのも憚るほどの沈黙。
圧倒的な力の気配を その身から燻らせる“魔の王 ディザストル”の視線を向けられた者は、人間味が感じられぬほど整った顔貌に かえって心が凍るような心地を味わいました。
例外は ただ ひとり。
「ディズ、なの? ディザストル……?」
黄金の焔より姿を現してから、ディズが腰に手を回し 片時も放そうとしない エテレインでした。
「ああ。我だ、エテレイン。ディズと呼べと言った筈だぞ」
身長差から、少し見上げて問う エテレインに薄く笑って答えます。けれど、次の瞬間には笑みを消して 底冷えしそうな声音で 辺りに言葉を投げ掛けました。
「さて、我が力を取り戻した記念すべき夜だ。我に歯向かう者共を血祭りに上げて 祝いの贄とするのも一興だな……」
その言葉に、あちこちで息を飲む音が聞こえます。
そして、その場には 荒れ狂う暴虐の嵐と死と恐怖の叫びが
巻き起こりませんでした。
ちらり と王様を見遣ったディズは、さも 残念そうに続けます。
「だが、数が多すぎて面倒だな。致し方あるまい、この娘を 我への贄としてもらい受けよう」
目を見張る王様とエテレインを見比べて、ディズは密やかに 笑いを溢し、獣の姿の時と同じ翼を背に生やします。
あっという間に地上から遠ざかる2人に、王様の叫びが届きます。
「エテレイン!! 二度と この国に戻ることは許さぬ!! 何処へなりともゆくがよい!!」
“ だ か ら し あ わ せ に ”
口唇のみで紡がれた 声無き言葉は、人外の目を持つディズだけが見ることのできた、国を守る王様の 誰にも言えない“願い”でした。
「エテレイン、そなた……いや。何でもない」
それを伝えようと 腕の中のエテレインを見下ろすディズでしたが、その必要は ありませんでした。
静かに涙を流し 微笑むエテレインには、王様の遠回しの言葉の意味が なんとなく伝わっていたのですから。
「ディズ。とうさまや、国の皆を見逃してくれて ありがとうございます」
「知らぬ。我は戦うのが面倒だっただけだ」
「ふふっ……これから、どこへ行きましょうか?」
「“何処へなりとも”。そなたの好きな場所へゆこう」
封印から解き放たれた魔の王 と 生け贄として拐われた美しき娘は、星月夜の空を どこまでも飛んでゆくのでした。
むかーし、むかしの も~っとむかし。
力の強すぎる魔の王は、在るがままに生き、歯向かう者を尽く殺してしまう 恐ろしい存在でした。
ー加減を知らぬ痴れ者め、お前なぞ獣姿で十分だ。時を掛けて 他者を思いやる心を学べ。もしも お前が真に誰かを想う時が来たならば、その封印が解けることも……無いことも無いかもしれんなー
魔の王を封印せしめたのは、1人の賢者でした。賢者は 力の大半を失い獣姿で藻掻く魔の王を完全に討ち滅ぼすこと無く、独白のような言葉を残して 立ち去ってしまいました。
元の姿に戻れぬまま、人の身には知り得ぬ時を見続け。いつしか魔の王の中で、賢者の言葉も薄れて消えた頃。
獣姿で彷徨う空に、星の如く煌めき 心を洗う 提琴の音色が響くのでした。
【おしまい】
聖夜に魔王を復活させる というちょっとした暴挙。
メリクリ&よいお年を(*´∀`)ノ))




