表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

よっつめの おはなし




 連夜更新(全6話) 4夜目。






勇敢で高潔な王様 と 美しく優しい王妃様。



2人の間に生まれたのは、それは それは 愛くるしいお姫様でした。



王様と王妃様に慈しまれて お姫様は健やかに成長し、その愛くるしさはやがて 王妃様譲りの美しさの片鱗となりつつありました。



そんなお姫様の幾度目かの誕生を祝う宴にて。

国で最も力の強い神官が 神のお告げを賜ったことで、いつも お姫様を囲んでいた笑顔は 消え去ってしまいました。



ーその娘は魔に魅入られる者。魔と心通わせる者。娘の先行きに 強大な魔が顕現するだろうー



始めは王様も 神官の言葉を笑い飛ばし、恐ろしいお告げに色を失う王妃様を 鷹揚に励ましておりました。



しかし。お姫様が城の外に出ると どこからともなく小さな魔獣が集まる姿を見れば、お告げを全くの嘘だと断じることはできませんでした。



我が子の未来を憂う王妃様は、悲嘆のあまりに 日に日に元気を無くし、ついには病を得て 儚くなってしまいました。



民の間に広がる 神のお告げの噂 と 王妃様の不幸 に、人々は不安を抱き 国中が暗く淀んだ空気に包まれてしまいました。



国を案ずる王様は、やむ無く お姫様を塔に閉じ込め、居ないものとして扱うこととなったのです。






「現実に成らねばよいと願い続けていたが……お前は自ら魔を呼び込み、国に災いを(もたら)すというのだな」



王様の目の下は黒く染まり、頬は痩け、豊かだった金色の髪は張りと輝きを失って。エテレインが最後に見た時よりも ずっと 弱々しく、疲れきった有り様でした。



「そんな! 違いますっ……わたくしは 決して災いなど……」



諦めたような王様の言葉に、エテレインは必死に言葉を返します。ですが、王様は 緩く(かぶり)を振りました。弓を手放し 緩慢な動作で 柄に王家の紋を刻んだ剣を引き抜いて。



「お前の心がどう在ろうと、最早 捨て置けぬのだ。皆の者、こと此処に至れば エテレインの生死は問わぬ! 彼の魔獣、闇と血の色に塗れた姿は (いにしえ)の賢者に封印されし“魔の王ディザストル” であろう……奴が(くびき)より解き放たれる前に、なんとしてでも 討ち滅ぼしてしまえぇぇ!!」



王様の叫びに重なる(とき)の声。



「そんな……とうさま……」



エテレインの掠れた呟きは、大勢の兵士たちの声に掻き消されてしまいました。



『やれやれ、(わたし)は在るがままに過ごしているだけなのだがな……。エテレイン、塔の中に居ろ。外は危ない』



「ディズ……」



『そんな顔をするな。不殺は保証できぬが、無闇に殺す事もせぬ』



エテレインが塔に入るのを見届けて、ディズは迫り来る兵士たちを バルコニーから睥睨します。



『……蹴散らすついでに、そなたを悲しませる者に 少々 灸を据えるだけだ』



矢と投げ槍が飛び、魔法が飛び。



少し離れた場所には、大きな(いしゆみ)や投石器の準備まで為されています。


ですが、それら全ては 十全の力を振るえぬ今のディズでさえ 討滅することは叶いませんでした。




戦いによって生まれ、窓や戸板を震わせる音や余波の衝撃に怯えながらも。エテレインは戸の隙間から 様子を窺います。窺わずにはいられません。


どちらにも傷ついて欲しくないという願いと、争いを止めることのできない無力感、父の言葉に悲しむ気持ち、心が千々に引き裂かれるような思いです。



「とうさま……ディズ……」



固唾を飲んで 戦いの趨勢(すうせい)を見守るエテレインは、背後へ忍び寄る足音に 気づくことができませんでした。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ