よっつめの おはなし
連夜更新(全6話) 4夜目。
勇敢で高潔な王様 と 美しく優しい王妃様。
2人の間に生まれたのは、それは それは 愛くるしいお姫様でした。
王様と王妃様に慈しまれて お姫様は健やかに成長し、その愛くるしさはやがて 王妃様譲りの美しさの片鱗となりつつありました。
そんなお姫様の幾度目かの誕生を祝う宴にて。
国で最も力の強い神官が 神のお告げを賜ったことで、いつも お姫様を囲んでいた笑顔は 消え去ってしまいました。
ーその娘は魔に魅入られる者。魔と心通わせる者。娘の先行きに 強大な魔が顕現するだろうー
始めは王様も 神官の言葉を笑い飛ばし、恐ろしいお告げに色を失う王妃様を 鷹揚に励ましておりました。
しかし。お姫様が城の外に出ると どこからともなく小さな魔獣が集まる姿を見れば、お告げを全くの嘘だと断じることはできませんでした。
我が子の未来を憂う王妃様は、悲嘆のあまりに 日に日に元気を無くし、ついには病を得て 儚くなってしまいました。
民の間に広がる 神のお告げの噂 と 王妃様の不幸 に、人々は不安を抱き 国中が暗く淀んだ空気に包まれてしまいました。
国を案ずる王様は、やむ無く お姫様を塔に閉じ込め、居ないものとして扱うこととなったのです。
「現実に成らねばよいと願い続けていたが……お前は自ら魔を呼び込み、国に災いを齎すというのだな」
王様の目の下は黒く染まり、頬は痩け、豊かだった金色の髪は張りと輝きを失って。エテレインが最後に見た時よりも ずっと 弱々しく、疲れきった有り様でした。
「そんな! 違いますっ……わたくしは 決して災いなど……」
諦めたような王様の言葉に、エテレインは必死に言葉を返します。ですが、王様は 緩く頭を振りました。弓を手放し 緩慢な動作で 柄に王家の紋を刻んだ剣を引き抜いて。
「お前の心がどう在ろうと、最早 捨て置けぬのだ。皆の者、こと此処に至れば エテレインの生死は問わぬ! 彼の魔獣、闇と血の色に塗れた姿は 古の賢者に封印されし“魔の王ディザストル” であろう……奴が軛より解き放たれる前に、なんとしてでも 討ち滅ぼしてしまえぇぇ!!」
王様の叫びに重なる鬨の声。
「そんな……とうさま……」
エテレインの掠れた呟きは、大勢の兵士たちの声に掻き消されてしまいました。
『やれやれ、我は在るがままに過ごしているだけなのだがな……。エテレイン、塔の中に居ろ。外は危ない』
「ディズ……」
『そんな顔をするな。不殺は保証できぬが、無闇に殺す事もせぬ』
エテレインが塔に入るのを見届けて、ディズは迫り来る兵士たちを バルコニーから睥睨します。
『……蹴散らすついでに、そなたを悲しませる者に 少々 灸を据えるだけだ』
矢と投げ槍が飛び、魔法が飛び。
少し離れた場所には、大きな弩や投石器の準備まで為されています。
ですが、それら全ては 十全の力を振るえぬ今のディズでさえ 討滅することは叶いませんでした。
戦いによって生まれ、窓や戸板を震わせる音や余波の衝撃に怯えながらも。エテレインは戸の隙間から 様子を窺います。窺わずにはいられません。
どちらにも傷ついて欲しくないという願いと、争いを止めることのできない無力感、父の言葉に悲しむ気持ち、心が千々に引き裂かれるような思いです。
「とうさま……ディズ……」
固唾を飲んで 戦いの趨勢を見守るエテレインは、背後へ忍び寄る足音に 気づくことができませんでした。




