同一時間軸で違うこと考えてるのって良いよね
「ふっ・・・!」
シンに言われた通りに柔軟をする。
柔軟はいつもやっている事だから苦でもなんでもないのだが・・・。
「ふむ、意識一つで割と違う感覚になるものだな。」
今、自分の身体がどう伸びているのか。
どの辺りまでなら無理せず動かせるのかを意識するだけで、自分の身体の事が今まで以上に理解できた。
「・・・認めるのは癪だがな。」
シンの奴を認めるのはとても癪だ。
「ステラー。」
「ソフィア?」
柔軟を繰り返しているとソフィアが私の所へやってきた。
「どうしたの?さっきまであっちでシンと何か話していた様だけど。」
「うん。シンにね、私も強くなりたいから教えてもらう事にしたの。」
え、ソフィアが?
ソフィアはもう、少し運動すればたちまち全身筋肉痛になってしまうのではないかと疑うレベルの身体つきをしている(※ステラ視点
そんな事を考えていると素直に言うわけにもいかず、私が絞り出した言葉は
「・・・大丈夫なの?」
のただ一言。
「うん。それからね、ステラ。」
私を見るソフィアが真剣な顔つきになる。
「今まで、ごめんなさい。」
「え
」
「私は私の事しか考えられていなかった。殻に閉じこもって前を見なかった。」
「・・・。」
「でもね、これからは私も頑張りたいの。ステラと一緒に。」
「ソフィア・・・。」
こんなソフィアを久しぶりに見た。
「・・・悔しいな。」
「え?」
「あいつのおかげでしょ?それが悔しい。・・・けど、感謝しないとね。」
シンは、一体何者なのか。
全く分からないことだらけで怪しい奴だけど、悪い奴ではないのかもしれない。
だが、それとこれは別。
私はシンを警戒し続ける。
「さ、ステラ。一緒に柔軟しよ?」
「うん。」
でも、本当に感謝はしないとな。
ソフィアとの柔軟を終わらせて、シンの元へと戻る。
「ステラって柔らかいんだね。」
「柔軟はいつもやってる事だからね。ソフィアは意外と固かった。」
「あははは・・・だって運動ってあまりしてなかったし・・・。」
「ふふ、確かに。ずっと何もしてなかったもんね?」
「あははは・・・ごめんなさい。」
こんな風にソフィアと話をするの久しぶりだ。
前はよく2人でこんな風に話してたっけ。
そんな何気ない会話を楽しみながら、シンの元に着いた。
シンは何か独り言をぶつぶつ呟いていて、こちらに気がついていない様だった。
「ま、いないから言える事だけどな。」
「何をだ?」
仕方ないからシンに声をかける。
やっとこちらに気付いたのか、顔をこちらに向ける。
「おう、お疲れ。」
「何も疲れることはしてないと思うが?」
柔軟程度で疲れるわけがないだろう。
そんな私のツッコミをよそにシンは笑う。
「様式美的なあれだよ。」
「あははは・・・身も蓋もないこといいますね。」
軽く自分の身体を動かし、身体をほぐしていくシン。
一通り終わった所で、ついに始まる。
「そんじゃー、なにをするのか発表するぞー。ステラは格闘術の練習だ。」
格闘術?剣技ではなく?
「剣技ではなく格闘術なのか?」
「そう。ステラはまず自分の身体の動かし方を再度考えるべきなんだ。その為にも、格闘術の中で自分の身体をよく知る事が大事になる。」
確かに。柔軟で自分の身体を意識しながらしたおかげなのか、なんとなく調子が良いと思う。
「ふむ、一理ある・・・のか?」
「後で組手やるから、ちょいと練習しといてー。」
「わかった。」
ソフィアに教える事があるのだろう、私にそう言うとソフィアと一緒に少し離れて行った。
右腕、左腕、右脚、左脚。
身体の感覚を再度確認。
ふむ、中々に面白いものだな。
「待たせたなステラ。」
「ああ、待っている間に色々と確認が出来たからな。待つ事に問題はない。」
「そーかー?」
「そうだ、それよりも早く始めよう。」
「おう!そんじゃ軽く組手をしようか。」
まずはゆっくりとした右脚からの蹴り、それを受け止めて私は左脚からの蹴り。
シンがする行動を私が繰り返す。
相手を倒すのではなく一つ一つゆっくりと行う組手。
「そういえば、ソフィアにはどんな特訓を?」
「ん?ソフィアには詠唱の短縮・・・無詠唱の修得だな。」
「それは・・・。」
「あ、言われてるほど無詠唱は無理難題ではねぇぞ?って知り合いの魔術狂いが言ってた。」
「そうなのか・・・魔術狂い?」
「奴のことは聞かないほうがいい。」
真面目な顔をして言ってた。
シンと拳を交えながら雑談を交わす。
徐々に速さを上げて、動きの繰り返しだけではなく自由に技を掛け合う。
「ふと疑問に思ったんだけどさ。」
「うん?」
「ステラのさっきの身体強化も詠唱なしで発動してたし無詠唱なんじゃねぇの?」
「あれは身体にある魔力を全身に纏うだけだからな。」
「えー・・・感覚で何とかしてる感じかぁ・・・。」
「感覚・・・なのだろうか。」
「天才って奴かぁ。」
「しっ!」
「いてぇ!」
変な事を言うシンの額に拳を叩き込む。
「変な事を言うな。」
「すんません。」
それからはお互い無駄話をせずに、集中力して組手をした。
それから二時間ほど・・・・
「はぁ・・・はぁ。」
「んー、まーこんなもんだろ。」
あれから試合形式での組手をしたのだが、一発もシンに食らわせることが出来なった。
後にも先にも、シンの額に一発入れたのが最後。
あれも本当は避けれたのではないかと疑う。
挙げ句の果てには超強化を使ったのに平気で私の動きについてきた。
あれだけ動いたのに息一つ乱れないこいつはどんな身体をしているんだ。
疲れた身体に鞭を打ちながらソフィアの元へと2人で歩いていた。
「ソフィアー、調子はどうだ?」
「あはははは・・・見た通りこんな感じです。」
ソフィアの手には小さな丸い球体が浮いていた。
「おー、あれだけの時間でここまで出来るんだー。・・・こっちも天才か?」
シンが何かボソボソつぶやいている。
「本当はもっと大きくするつもりだったんですけど・・・」
「こんだけ出来てれば上出来っしょ。」
「もっと頑張ります。所で、ステラ大丈夫?」
「だいじょぶ。」
「なはは!だいじょぶな顔してないって。」
「しっ!」
「痛い!」
よし、二発め。
「いたたた、それだけ動けてれば大丈夫だろ。それよりもそろそろ飯にしようぜ。」
今は十八の刻を過ぎた所。
夕食にはそろそろいい時間だ。
「そうですね、ご飯作りますね。」
「んぉ?作りますねってソフィアが?」
「はい。料理は基本的に自分達で作るようになってますので。」
「ほー。そんじゃぁよー・・・」
シンが何かを思いついたようにニヤケた顔になった。
「俺が作るぜ。」