千里の道も一歩からっていうけど100倍速の奴もいるよね
「ふっ・・・!」
足を開き、ゆっくりと前に倒れる柔軟をするステラ。
強くなりたい理由を聞いた時、一瞬だけどソフィアを見た。
理由としては充分だし、それに・・・ま、今はいいか。
割と身体は柔らかいし、動かし方さえわかれば更に強くなれるでしょう。
「・・・んー。」
「悩んでるんですか?」
「そりゃね、俺は教えられた事はあるけど教える事はなかったし。手探りかなぁ。」
俺の隣でステラの柔軟を見てるソフィアに対して、思っている事を素直に答える。
「ソフィアから見て、ステラってどんな娘?」
「そうですねー、すごい頑張り屋さんで、人にも厳しいけど自分にはもっと厳しい娘です。絶対に自分の弱い所を見せない。とってもカッコイイんです。」
俺がステラに対して聞くと嬉しそうに答えるソフィア。
けれど、その表情が少し曇る。
「・・・私たちは幼い頃から一緒にいました。血の繋がりはないけど、私はステラを家族だと思っています。少し前に、私たちは母を亡くしてしまいました。突然の事で私は受け入れる事が出来ませんでした。」
今、彼女はどんな気持ちでいるのか。
とても寂しげな表情をしている。
「それなのに、ステラは私を気遣っていました。ステラだって悲しいはずなのに。」
「・・・・・。」
「ちょっと前まで、私は自分の事ばかりに気を取られていたんです。こんな事も思わないぐらいに気持ちがいっぱいになってました。」
「今は違うのかな?」
俺がそう質問するとソフィアは可笑しそうに笑った。
「ふふっ、シンのおかげなんですよ?」
「俺の?」
「空から落ちてきて、影を倒して、ステラとの模擬戦もびっくりさせられて。気持ちが驚きすぎて麻痺しちゃったのかもしれません。」
そう答えたソフィアは俺から視線を外して、ステラを見た。
「そして・・・さっき、シンに話をしてるステラの表情を見て、考えちゃったんです。」
さっきのステラ・・・。
「『私はステラに何をしてあげれたのかな』って。さっきも言いましたけど、ステラの事は家族だと思ってます。それは、ステラも同じ気持ちだと思います。・・・母の事も、ステラは大切に想ってくれていたのだと思うんです。」
「うん。」
「それなのに、私は私の事しか考えてなかった。ステラはずっと私の近くいてくれたのに、私はステラに何もしていなかったんです。」
あはは、と力なく笑うソフィア。
話しを聞く限りソフィアとステラには血の繋がりはないのだろう。
けれど、血の繋がり以上にお互いを大切な家族だと思っている事がなんとなくだが理解できた。
「・・・やっぱり、ステラは優しい娘なんだな。」
「はい、ステラはたぶん誰よりも厳しくて誰よりも優しいんだと思います。」
いつもは私がお人よし過ぎるって怒られるんですけどね、っと可笑しそうに笑うソフィア。
俺もつられて笑ってしまう。
「これからは私も前を向いて頑張りたいです。ステラと一緒に頑張りたいんです。だから・・・」
と、ここで一旦話を区切るソフィア。
まぁ、そうだよねぇ。
「私も強くなりたいです。私にも教えてくれませんか?」
「えぇよ。」
「私じゃ無理かもですけど一生懸め・・・え?」
「だから、いいよって。」
「え、いいんですか?」
「うん、断る理由ないし。」
正直、身を守る術ぐらいは教えていいと思うし。属性が光なのもあるから、防御術は色々覚えといて損はないはずだ、ここで頭のおかしい師匠の知人から聞いた話が役に立つとは。
「そんじゃ、ソフィアも一緒に柔軟だぁな。・・・ステラと柔軟しといで。」
「はい!」
めっちゃ良い笑顔でステラの所に行くソフィア。
その笑顔、中々素敵やん?
おじさん、少しドキッてしちゃった。
「・・・1人も2人も一緒だしな。」
一緒に柔軟を始めるステラとソフィアを見ながら、誰ともなしに語りかける。
「師匠はこんな時にどこにいったんだか。人の事をぶん投げておいて。」
俺は文字通り『飛んで』この場所にきた。いや、正確には『空へ投げられて』だが。
あまりの空気抵抗による衝撃に意識が飛んで、気づいたら息できねぇ水の中って。
無茶苦茶な人だが、その行動には何かしらの意味がある人だ。
投げられた先がたまたま2人がいる所だった、とは考えにくい。
「本当に・・・あの人外生物は。」
もうね、頭抱えるしかないよね。
いきなり呼ばれて「今からお前を投げるから。」とか言われて反応する前に掴まって投げられて。
もっと他に重要な事を言ってから投げろよ。
つか、投げんなよ!話せばわかるだろ!
「いや、あの珍妙奇天烈摩訶不思議生命体に言語が操れるかがまずもって疑問だな。」
こんな事を言ってると知られたら師匠にぶっ飛ばされるか、半殺しにされるだろうな。
「ま、いないから言える事だけどな。」
「何をだ?」
柔軟が終わったステラとソフィアがいつの間にか来ていた。
ステラに独り言を聞かれる事多くね?
「おう、お疲れ。」
「疲れる事は何もしていないと思うんだが?」
「様式美的なあれだよ。」
「あははは・・・身も蓋もない事いいますね。」
柔軟を終わらせて早速やりますか。
「そんじゃー、修行内容を発表するぞー。ステラの修行方法は格闘術の練習だ。」
「剣技ではなく格闘術なのか?」
ステラが疑問に思うのも無理はないだろう。
「そう。さっきも言った通りステラはまず自分の身体の動かし方を再度考えるべきなんだ。その為にも、基礎の格闘術が役に立つ。」
「ふむ、一理ある・・・のか?」
「後で組手やるから、ちょいと練習しといてー。」
「わかった。」
ステラにはちょっと離れた位置でウォーミングアップをしておいてもらっといて。
「ソフィアは魔術の使い方を覚えようか。」
「魔術ですか?」
「うん、魔術。ソフィアは魔術ってどう使うか知ってる?」
「あ、はい。魔術は魔術詠唱と魔力の練り上げが重要。詠唱が複雑で長く、魔力の消費が高くなるほど高度な魔術になる聞いています。」
「うん、合ってるけど間違いだね。」
「え!?」
一般的にはそうだけど、違うんだよな。残念だけど。
「俺がソフィアにやって欲しいのは詠唱を削る事なんだよ。」
「無詠唱の事ですか?ですが、無詠唱はとびっきり高名な魔術師でもなかなか出来ないことなんじゃ・・・。」
「それは違うよ。必要なのは魔力と”イメージ”だよ。」
「イメージ?」
「そう。何故、詠唱が長くて複雑なほど強くなると思う?」
「・・・より強く魔力を練る事が出来るから?」
「おぉ、ちょっと惜しい。確かに詠唱と同時に魔力を練り上げる事も出来る。けど、一番は術の姿をより深く想像出来るからなんだ。」
「想像・・・、あ!だからイメージですか?」
なかなかに察しがいいねぇ。
理解が早くてたすかるけどね。
「うん。正直、どんな術もイメージがしっかりしてれば一言で発動できるよ。その分の魔力は必要だけどな。必要な魔力を練り上げ、イメージがしっかりしていれば無詠唱でも魔術が発動出来るんだ。」
って、魔術狂いの変態が言ってた。
「・・・へぇー。」
「最初の目標は必要な魔力を練り上げて、一言で”シャインボール”を発動する事。まずは、そこまで。」
「わかりました。頑張ります。」
そう言って、目を瞑りシャインボールをイメージするソフィア。
「シャインボール・・・光る球体・・・周りの形が・・・」
ぶつぶつ呟きながら準備をする、ソフィア。
ま、頑張ってね。
「さて、お待たせー。」
ソフィアを見守りながらも、ステラとの修行に入る。
「ああ、待っている間に色々と確認が出来たからな。待つ事に問題はない。」
「おう!」
さーて、しばらくはこの修行かな。